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4 悲鳴

 ここは、アリエヘン冒険者ギルド、通称【ルルーの酒場】である。


 普段はゴツい男共でごった返す騒がしいギルドであったが、この日だけは違った。


 そこにいる誰もが、ある一人の人物に目を奪われ、静まりかえっている。



 その者を一言で表すなら……


   【光】


 七色に光り輝く艶やかなシルクのドレスに、それと対照的な禍々しい闇のオーラを放つ剣。



 それらを装備して現れたのは、金髪の美しい少女だった。



 眩しいくらいの光と、悍ましい程の闇を纏うその姿は、神々しさすら放っており、見る者全ての心を奪っていく。



 そして誰もが直感した……。



 あれが今代の勇者であると。



「すいません。窓口は、ここであってますか?」



 透き通るような美しくも力強い声が、静まり返ったフロアに響き渡った。


 その声を聞いた者達は、何故か、体の内側から熱くなって勇気が湧き上がってくる。


 そして声をかけられた当の本人


  ルルー


でさえも、その声が自分に向けられたものである事に気づけないほど、目の前にいる女性


  勇者ビビアン


に見惚れてしまった。



「あの! 聞いてますか!?」



 ビビアンは声をかけてるのに、いつまでもぼけっとしているこの受付の女に苛立ち始める。


 ビビアンからしてみれば、この現状を作り出した原因が自分だとは露ほど思わない。


 まさか周りから、自分がそんなにも神々しく見られているなんて、思いもしないし考えもしない。


 今、彼女の中にあるのは、


 サクセスに会いたい!


という思いだけで、他の事は全く眼中に入っていなかった。



「は、はい! あたしがこのギルドの窓口をやっております、ルルーというものです。」



 ビビアンの苛立った二度目の声で我に返ったルルーは、緊張のあまり慣れない丁寧な言葉で応対する。


 まるで、いきなり超有名なアイドルに声をかけられて焦っているような感じだ。



「そうですか。では、教えてください。サクセスという男の子が、一ヶ月前にここにきませんでしたか? 今どこにいますか? 今すぐ会わせてください!」



 ビビアンは、聞くと言っておきながら、矢継ぎ早に質問しつつ、最後にはお願いになっていた。


 その勢いに飲まれたルルーは、一瞬声が出せなくなるも、なんとか記憶を掘り起こして思い出す。



 サクセス……サクセス……


 一ヶ月前……


 ん? 

 まさか!?

 あの酒に弱い少年のことさね?



 ルルーは、何とか思い出す事が出来た。


 サクセスは夜の酒場にも一度しか顔を出さず、数日もしたら、すぐに馬車を借りて旅立ってしまった。


 その為、ルルーの記憶には薄くしか残っていなかったのである。



「はい、その者なら知っております。この町にきて冒険者登録をすると、数日もしたら仲間を連れてテーゼに向かいました。お探しであれば、各ギルドに連絡をする事も可能ですが?」



 ルルーはやっと冷静を取り戻し、通常通りの説明をビビアンにする。



 が、それを聞いたビビアンは



……激怒した!



「ちょっと! どう言うことよ! あんなに弱いサクセスが簡単にこの町から移動できるはずがないわ! あなた嘘をついてるわね!? 隠すなら斬るわよ!」



 ビビアンから、激しい殺気が迸る。



 光のドレスから放たれている神聖なオーラが、禍々しい剣のオーラで覆い隠された。


 さっきまで見惚れていた周りの冒険者達も、その殺気に当てられて、体がガクガクと震え出すと、両手で頭を押さえ始める。



 当然それを直撃しているルルーは、年甲斐もなく失禁してしまいそうになるほど震えていた。



 ルルーは直感した。


 今、まさに自分が命の危機にあると。


 言葉を間違えれば、一瞬で首を切り落とされる。


 ビビアンの殺気は、ルルーにそう感じさせる程に激しいものであった。



 その様子を隣で見ていたシャナクは、すかさず助けに入る。



「勇者様、少し落ち着かれよ。そんなに威圧しては聞く事もきけまい。そうなれば、後悔する結果になりようぞ。」

 


 ビビアンの強すぎる存在感に隠れてしまっていたが、実はシャナクはビビアンの隣にずっと立っていた。


 そしてシャナクは、冷静にビビアンを諭しているように見えるが、彼の内心は全く違う。



 何でこの勇者はこんなに怖いんだよ。

 もう帰りたい!



であった。



 そう、この男は聡明な見た目と話し方から勘違いされやすいが、本当は凄く臆病な男である。



 そんな彼が願う事はただ一つ。



 この抜き身の剣のようなじゃじゃビビアンは、自分の手には負えない。


 故に、早く他の仲間が欲しい。



 それだけだった。


 だがシャナクの勇気ある行動のおかげで、ビビアンも少しだけ冷静になる。



「そうね、少し焦りすぎたわ。ごめんなさい。サクセスの事になると、どうしても抑えられなくて……。わかったわ、とりあえず知っている事を全部話してちょうだい。」



 勇者が落ち着いた事で、フロアに広がっていた



 状態異常【恐慌】は解除された。



 その後ルルーから話を聞くに、サクセスはとても綺麗な女性二人と、その仲間を助けに北の森に向かったとの事。


 それだけ聞くと、ビビアンから再度激しい負のオーラが発せられる。



「ひッ!」



 ルルーはその憎悪の眼差しを見て、小さな悲鳴を漏らした。



「そう……そうなのね。だからあれほど言ったのに……早速悪い女に騙されるなんて……。今頃森で身ぐるみを剥がされて泣いているわ。早く助けなきゃ! 後、その女達は……絶対コロス!!」



 ビビアンの体からドス黒いオーラが迸る。



 その姿はとても勇者には見えない。

 むしろ、魔王に近いものを感じる。



 そしてビビアンは、直ぐに冒険者ギルドを飛び出した。



 一方、目の前で激しい殺意を当てられたルルーは、恐怖のあまり、遂に失神してしまう。


 ルルーが気絶した事で、仲間の募集ができなくなったシャナクは、



  仲間を募集している。

  出来るだけ強い男のみ。



とだけ書いた手紙と、100ゴールドを入れた小袋を受付の机に置き、飛び出して行ったビビアンを追うのだった……。


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