第12話 続・奪
スティーグは部屋に入ると、最初に紙とペンを渡してきた。口約束では信用できないから、一筆書けということらしい。
ケイティは仕方なく、カミルと結婚するという旨の誓約書を書いた。
それを確認したスティーグは、ケイティをベッドの上へと座らせる。
「私、どうすればいい……?」
「お前は学習能力がないのか。いちいち聞くな」
自分で考えて行動しろということだろうか。まずはどうすればいいのだろう。そんな風に考えていると、スティーグが隣に座り、そのまま横から押し倒される。
「スティーグ……っ」
「髪が濡れているな。服装も違っている」
「お風呂に入って、着替えたから……あっ」
「あいつに処女をくれてやるなど、何を考えているんだ!? もっと、大切にしてくれる者が、いただろうがっ」
ケイティはそうしてスティーグに抱かれた。
怒りに任せるようにかき抱かれ、目からは涙が溢れる。
違う。もっと、ロマンチックなのを想像していた。
確かにスティーグが楽になるなら、無茶苦茶にされてもいいと思っていた。
けど、こんなのは、違う。
何が違うのかは明確にはわからない。だが、これでスティーグが癒されているとは、到底思えなかった。
ただ、悲しい。
「…………これで満足か」
慈しみとかいたわりとか、そういった物が一切感じられないその行為。
懇願して、無理やり抱いてもらった結果がこれだ。ケイティの中で、何かがパキンと音を立てて壊れる。
ずっと夢見ていたスティーグとのセックスだったというのに。ケイティは後悔した。スティーグとすべきではなかったのだと。
「………………帰る………」
鈍い痛みを堪えながら、ケイティは立ち上がった。下着を取り付けることもせず、扉へと向かう。
ツツー、と太ももから何かが流れ落ちた。スティーグが吐き出した物とは、違う感覚。
「ケイティ、何だ、それは……」
それを見て、スティーグは目を疑っているようだった。それもそのはずだ。そこには破瓜の血が流れ落ちているのだから。
「どういう事だ……お前は、ロレンツォと……」
「……下着の上から触られただけ。処女をもらったことにして、スティーグに証言をしてあげるって、そう言ってくれたのよ」
ケイティは本当に処女を捨てるつもりだったが、ロレンツォにその気はなかったのだ。そこまでする必要はない、処女を捧げるならやはりスティーグの方がいい、と言うのが彼の見解だった。
「なーーっ! では、今のがケイティの初体験……!?」
「さよなら」
驚愕するスティーグをよそに、ケイティは家へと帰った。
すでに寝静まっている自宅の廊下をトボトボと歩く。
長年好きだったのが嘘のようだ。
まさか抱かれることで冷めるとは、思ってもいなかった。
どちらにしろ、あの誓約書がある限りスティーグと結婚はできないのだから、諦めがついてよかったのかもしれない。
でも、悲しかった。
初体験の相手がスティーグだったにも関わらず、ちっとも幸せを感じなかったことが。
長年の恋が、あっさりと終わりを告げたことが。
自室に入り時刻を見ると、とうに十二時を超えていた。
「う、うっ、うわぁぁあああーーーーっ」
一体、何のための三十八年間だというのだろう。
時間を無駄に費やしただけだということに気付いて、ケイティは大声で泣いていた。




