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第11話 奪

 風呂から上がったケイティは、ロレンツォの部屋に誘われた。牛乳臭い服ではなく、コリーンに借りた服を身に纏っている。

 彼女よりも背の高いケイティは着丈が短くなっており、膝丈のワンピースのはずが膝上十センチまで上がってしまっていた。


「いいですね、お似合いですよ」

「こんな丈のスカート、学生以来よ。恥ずかしいわっ」

「眼福です。こちらにお座り下さい」


 促されたのは、彼のベッドだ。否が応でも緊張が高まる。


「あの、なるべく早く終わらせてくれると嬉しいんだけど……私、早くスティーグのところに行かなきゃいけないから……」


 もじもじとベッドから目を逸らすように懇願する。座らずに立ってにいると、ロレンツォが包むように抱き締めてきた。


「ロレンツォ様っ」

「嫌ですよ。折角だから俺も楽しみたい。いいでしょう?」


 耳元で息を吹きかけながらそう囁かれ、ケイティは顔を赤く染めてぎゅっと目を瞑る。


「でも、コリーンが隣に……」

「気にせず声を上げてくれて結構ですよ。聞かれていると思った方が、興奮しませんか?」


 そんな恥ずかしいことをして、興奮するはずもない……と言おうと思ったが、いつの間にかベッドの上に押し倒されてしまっていた。


「ロレンッ……」

「ファーストキスは奪いません。それはスティーグ殿にあげてください」

「きゃ、きゃああっ!!」


 ロレンツォの手が膝から順に這い上がり、ケイティは思わず拒否の態勢をとる。しかしロレンツォはクスクスと嬉しそうな笑みを漏らすばかりだ。


「やはり処女はこうでなくては……」


 ケイティはロレンツォの目論見通り、あられもない声を上げながら、何度も何度も絶頂に達した。


 ケイティはぜぇぜぇと肩で息をしている。一方のロレンツォは出会った時と寸分違わず、涼やかな表情だ。


「ロレン、ツォ、様……もう、私……」

「そうですね、これくらいでやめておきましょうか。これ以上はケイティ嬢が壊れかねない。……壊れた貴女を見るのも楽しそうですが」


 クスクスと笑われ、ケイティは冗談とも本気とも取れる発言に、心底怯える。


「さぁ、行きましょうか」


 ロレンツォは腰の砕けたケイティを優しく引き起こして、乱れた衣服を整えてくれた。


「ど、こに……」

「スティーグ殿の家ですよ。俺が処女をもらったと証言してあげます」

「で、でも……」

「その方がいいでしょう。足腰が立たなくなっているようですし、お送りするついでです」


 ひょいと抱き上げられ、ケイティは断る元気も出ずに、グッタリとロレンツォに体を預ける。こんな状態で、スティーグとできるのだろうかと不安が過った。


 時刻は十一時を過ぎている。スティーグはすでに寝入ってしまっているかもしれないなと思いながら、クラインベック家の扉の前に到着する。


「ロレンツォ様、降ろして」

「大丈夫ですか?」


 あまり大丈夫ではないが、ロレンツォにお姫様抱っこされているところをスティーグに見られたくない。

 ロレンツォに支えられながら立ち、そっと扉を引いた。…………閉まっている。

 ガチャガチャと何度もノブを回すも、開く様子は見られない。


「……寝ちゃったのかしら」

「それはどうでしょう。少し待ってみては?」

「そうね、ロレンツォ様、ありがとう。ここでいいわよ」

「俺も付き合いますよ」


 カンカンとドアノッカーを鳴らしてみるも、中に人の気配はなかった。

 ようやくスティーグと結ばれると思ったのに、拍子抜けだ。

 五分ほど待ってみたが、状況に変化はない。


「十二時になっても会えなかったら、諦めるわ」


 ケイティがそう言うと、ロレンツォは奥の道を指差した。


「どうやら待つ必要はないようですよ」


 その指の先には、大きな体がのそのそと動いている。紛れもなく、スティーグの姿。


「スティーグ!!」


 ケイティが叫ぶとスティーグはこちらに気付き、ドスドスと走り寄ってきた。


「ケイティ!! お前、大丈夫か!?」

「どこに行ってたのよ、スティーグ!」

「それはオレの台詞だ!! ケイティを探していたらカールに会って、お前が売春をするつもりだと聞かされた! だから必死に探していたんじゃないか!!」

「スティーグ殿、少し声が大きいですよ。すみませんが、中に入れてもらえませんか?」

「ぬ、ロレンツォ」


 スティーグは今ロレンツォの存在に気付いたようで、バツが悪そうに扉の鍵を開ける。そして三人は家の中へと入った。


「ロレンツォが保護してくれたのか。すまなかったな」

「いいえ」


 スティーグは、ロレンツォとケイティの間に何かがあったなどとは露ほどにも思っていないようで、恐縮していた。


「とにかく、無事に戻って来てよかった。……無事、だよな?」


 スティーグはケイティを覗くように聞いてくる。しかしケイティが何かを言う前に、ロレンツォが発言をした。


「処女が守られているのかと言う意味で聞いているのなら、答えはノーですよ」


 スティーグの顔が一瞬青ざめるも、仕方ないと思っているのだろう。深く息を吐き出すに留まった。


「……そうか。バカだな、お前は。見知らぬ男に大事な処女を捧げてどうする」

「見知らぬ男ではありませんよ。ケイティ嬢の処女を頂いたのは、俺ですから」


 そう言った瞬間、ロレンツォの体が後方へと吹っ飛んだ。何が起こったのか理解できず、スティーグがロレンツォを殴ったのだと気付くまで、たっぷり十秒はかかる。


「………………………っな、何やってるのよ、スティーグ!! どうしてロレンツォ様を殴るの!!」

「わ、わからん……手が、勝手に……」


 自分で殴っておきながら、呆然と答えているスティーグ。ケイティは急いでロレンツォの元に向う。


「だ、大丈夫??」

「っく、さすがスティーグ殿……受け身を取るのが精一杯だ……」


 ロレンツォの意識があるのを確認してホッとする。しかし顔は大きく膨れ上がってしまっていた。明日には派手な青タンが出来上がっていることだろう。


「ごめんなさい、ロレンツォ様……」

「いえ、こうなるかもしれないと覚悟はしていましたから。ともかく俺の役目は終わったようですので、帰らせて頂きますよ」

「ええ……ありがとう。本当にごめんなさい」

「貴女の嬌声を聞けただけで、お釣りがきます」


 そう言うとロレンツォは出ていった。一番惚けているのは、ロレンツォを殴った張本人、スティーグである。


「スティーグ?」

「…………ロレンツォの言っていたことは、本当か?」


 スティーグらしくない、小さな声で問われ、ケイティは何も言わずに俯く。彼はそれをイエスと捉えただろう。


「そう、か……」

「これで、抱いてくれるんでしょう?」

「…………」


 長い沈黙の後でスティーグは口にした。「抱くわけがない」と。その言葉に、ケイティは耳を疑う。


「どうして? 処女だったから、抱けなかったんでしょう?」

「あの時はあの時だ。今はもう冷静になっている。女を抱く必要はない」


 スティーグの言葉にケイティは顔を歪ませる。涙がこみ上げてくるのを、ぐっと堪えた。


「じゃあ、私は、何のために……」

「…………」


 スティーグからは憐れみの目が向けられた。それでも彼はケイティを抱くつもりはないらしく、ケイティを見つめるばかりだ。


「スティーグ、そろそろ私の誕生日よ。……考えて、くれた? 私のファーストキスを貰ってよ」

「もうキスも済ませているだろうが」


 その言葉に、ケイティは首を左右に振った。唇は奪われてはいない。これだけは、真実だ。


「ロレンツォ様は、ファーストキスはスティーグにあげろって言ってくれて、奪われてはいないわ」

「そうか……ロレンツォらしいな」

「ねえ、スティーグ……」


 ケイティは、スティーグの大きな胸板に寄り掛かる。しかしスティーグは拒否する様にケイティの肩を掴んで引き離してきた。


「せめて唇くらい、婚約者に置いといてやれ」


 我慢していた涙が、ポロポロと流れ落ちてくる。これでは、あんまりだ。


「お願いよ、スティーグ……」

「お前は相変わらず嘘泣きがうまいな」

「嘘泣きなわけ、ないじゃないっ!!」

「処女を捨てておいて、今さらだろう」

「誰のために捨てたと思ってるのよ!?」

「オレは頼んだ覚えはない」


 さらにケイティの目から涙が泉のように溢れ出す。これは、悔し涙だ。


「じゃあキスはいいから、抱きなさいよ! 私を抱いたところで、どうせあなたは二番目の男よ! 臆することもないでしょう!?」

「断る。そんなことはお前とやる理由にならん」

「お願いよ、スティーグ……! 一生に一度くらい、好きな人と結ばれたっていいじゃない……私、このまま、カミルと結婚するなんて、嫌よ……」


 ボロボロと涙を流し続けるケイティ。スティーグはその姿をじっと見ていたが、やがて諦めたように口を開いた。


「不公平、か……」

「……何の、話?」


 スティーグが何のことを言っているか分からず、ケイティは首を傾げる。


「来い。抱いてやる」


 しかし驚くべき発言がスティーグの口から飛び出し、思わず嘘ではないかと疑ってしまう。


「ほ、本当に……?」


 スティーグは覚悟を決めた様子で、頷きを見せた。


「ああ。ただし、これっきりにしてくれ。お前は婚約者と結婚しろ。それを約束してくれるなら、抱いてやる」

「…………」


 どうするべきか、ケイティは悩んだ。抱いてくれるのは嬉しいが、カミルと結婚するのが条件だ。しかしこのままでは、スティーグと結ばれることなくカミルと結婚することになってしまうだろう。


「……わかったわ……」


 スティーグはケイティの決意を聞いて、己の部屋に歩み始める。


「来い」


 もう一度言われ、ケイティはスティーグの後を追った。

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