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〆切前日は何かがトチ狂っている(〆切前日の文芸部員たちの会話)

作者: 飛鳥井 作太


 私立百川学院。

全寮制の中高一貫女子校で、自然豊かな関西の端、岐阜県との県境付近に敷地を持つ。

 特徴的なのは、部活動ごとの寮。

 その部活に特化した寮を持ち、学業が終わったあと、彼女たちは自分たちの部寮に戻り、せっせと部活動に励むのだ。

 これは、そんな学校にある文芸部のお話。


「〆切延びませんか」

 中三の怜が、真顔で言って来た。

 〆切前日。文芸部寮一階の部室であるだだっ広い和室でのことだ。

 夜は始まったばかりで、寮のあちこちから〆切前の悲鳴が上がっていた。

「ストレートだなぁ……」

 副部長の僕は、あまりに正々堂々とした怜の態度にいっそ感心を覚えた。

「延びないよ」

 すげなく、部長の藍が返す。

「わかりました。延ばしましょう」

 しかし、めげずにまた豪速球が返って来る。

「すごい、全然わかってないのに堂々としてる」

「やだこの子怖い……」

「延ばさないと大変なので延ばしましょう」

「今書かないと大変なことになるのはそっちじゃないのか」

 藍のツッコミに、

「ちがいます。先輩たちが大変な目に遭います」

 やはり怜は何処までも堂々と答えた。

「え、僕たち?」

「とりあえず、水鉄砲で狙い撃たれます」

「やめようよ、リアルにヤバい方向行くのやめようよ」

 何で幹部だってだけでタマを狙われねばならんのだ。

「ほほう……水鉄砲バズーカを持ってるワシに対してその挑戦はどうなのかな?」

「部長、アンタも迎え撃つのやめて下さい」

 てか、何でそんなもん持って……あ、そうだ。去年の我が部の納涼祭でを噴いてたわ、思い出した。

「フフッ、私の二丁バズーカも火を噴くぜ☆」

 会計の彩が、可愛らしく小首を傾げてまったく可愛くないことを言う。

「お前のは水鉄砲じゃなくてクラッカー仕様のやつだろやめろ」

 この爆裂ロリータめ。おニューのヘッドドレスは可愛いが、言っていることは完全に破壊工作である。

「くっ、ビビるのが殿先輩しかいないの弱い……」

 怜が、初めて苦悶の表情を見せた。

「大丈夫だ、僕は四天王の中でも最弱だ」

 いや、何が大丈夫なんだろう。自分で自分に心でツッコむ。

「こいつ『いざとなったら水風船かな……』とかほざいてたくせに……謙遜が過ぎるぜ!」

「殿ちょの水風船は色水だから気を付けろ☆」

「おい、勝手にキャラクター付けすんな。善良な後輩が信じちゃうだろ。しねーよ、たぶん」

 風船は持ってるけど。

「え……全員がもれなく狂ってる……幹部怖い……」

「ほら、信じちゃった!」

「そもそも、脅して〆切を延ばそうとしてる後輩は善良なのか否か」

「やだ、部員全員狂ってる説こわーい」

「よし、狂ってる奴ら全員で水鉄砲パーティーと洒落こもうぜ!!」

 やけくそになった怜が叫ぶ。

「き、気が狂ってる……」

「──してもいいですけど」

 後ろから、とてもとても静かな声。

 僕らは一斉に振り向いた。

 もう一つの大机で、せっせと個人誌の表紙を書いている高一の夢だ。

「片付けと、顧問の先生からのお怒り、ぜーんぶ自分たちだけで被って下さいよ?」

 通称・おかあさん。

 静かに怒る。怒ったらこの部でいちばん怖い。


「「「「…………」」」」


 僕らは顔を見合わせたあと。

「……書いてきます」

「おー、がんばれー」

「期末テストも乗り越えた君ならいける☆」

「健闘を祈る!」

 とても平和に事を収めた。


 がらがらぱったん


「……おかあさんつよーい」

「つよーい、じゃなくて、幹部なんだから乗らんで下さいよ。ちゃんとビシッと叱って下さいよ。うっかりとんでもねぇ祭りが開催されるところだったじゃないですか」

「僕は止める気だったんですけどねぇ」

「あんなもんでトチ狂った会話は止められないよ?」

「いや、お前らは止まってくれよ頼むから」

「はあ……」

 おかあさんがため息を吐き、僕も吐いた。

 藍と彩は、のんびりと書き上がった原稿のチェックに戻る。


 とりあえず、今夜の修羅場(〆切前日)の安寧は守られたし、明日の修羅場(〆切)の平和も守られそうだった。


 END.


あらすじの言葉は、実際に先輩が言っていた言葉です。

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