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水中で強化。それ以外で弱化。役立たずな水中行動スキルが実は回避不能な認識改変の極悪スキルだった件

 

 それは今後に向けての方針を話し合う場での事だった。


「わりぃ……俺らギルドに誘われてんだ」


 俺と一緒にこの世界に飛ばされてきたファンガスという男が申し訳なさそうに言い出した。

 若い剣士の男で、俺と一緒にパーティーの前衛を担当している。


「なに謝ってんだよ。別にいいぜギルド入っても」

「いや、そうじゃなくて……」


 もにょもにょと言いよどむファンガスの隣からメイジの少女ジェーンが口をはさんできた。


「はっきり言いなさいよ女々しいわね! その『俺ら』にあんたは入ってないってこと!」

「は? ちょっと待ってくれよ入ってないって事はお前ら二人ってことか?」


「……あんた鈍いわねほんと。使えないのはダンジョンの中だけにしてよね。ほんと」

「え? どういうことだよ」

「あんた以外の私たち三人ってこと! テスも一緒よ。あんただけ選ばれなかったの! あ・ん・た・だけ!」


 ジェーンに話を振られてプリーストの少女テスがうつむく。


「……はい、ごめんなさい」

「う、嘘だろ……」

「そういうわけなんだ。すまない。誘われたギルドはSランクで、団員に課せられるノルマが高いらしくてさ。お前が一緒だと無理なんだ」

「マジか……えっ、マジ……ええっ」


 急な展開に頭が付いていけない。

 まるで混乱の状態異常を食らったような気分だ。


「あ、あの……私もう一回聞いてみます。リンドウさんが一緒に入れないか」


 俺の事でギルドに掛け合ってくれるらしい。やっぱりテスはヒーラーなだけあって女神の様に優しい!

 俺はテスに感謝を述べようとした。


「テス! ありが──」

「やめなさいよもう。偽善者ごっこは!」


 俺の声を遮って、ジェーンがテーブルを叩いて立ち上がった。

 ぎ、偽善者? 何の話だ。


「ジェーン? 今度は何を言い出すんだよ!」

「あんたは知らないのよ! テスが──」


 ジェーンが一気にまくし立てようとした瞬間。

 それまでうつむいて座っていたテスがばっと顔を上げ、ジェーンの口を塞ごうと掴みかかった。


「ジェーン! やめましょう! 今はその話をするときでは」

「うっさい! 座ってなさい! ぼんくらのあんたに教えてあげるわ! テスはね! ダンジョン終わる度あんたの愚痴を私に一晩中言ってたのよ! 『あの人のせいで回復が追い付かない』って、今も殊勝なこと言って良い人ぶってるけど大喜びなんだから!」

「あーーーーーーーーー! 言っちゃいましたね! なら、あなたが攻略中よく『前の雑魚に補助呪文撃つなら、その分を空にでも打ち上げた方がまだ有意義』とか言ってるのもバラしますよ!」


「二人ともやめとけって」

「あんただって! 言ってるでしょうが『前衛に半端な奴がいるせいでターゲットがずれてめんどくさい』とか言ってたでしょ!」

「そうですよ! 一人だけいい子ぶらないでください! あなただって『水中以外ってほぼ完全にただのお荷物だよな』と言ってたじゃないですか」


「……………………………………は?」


 三人がギルドに誘われたって話から発展しての俺への悪口大会だ。

 目の前が真っ暗になるというのはこういうことなんだろう。

 いつの間にか俺は意識を失っていた。


 ────────────────


「おい兄ちゃん! もう閉店だよ! ほら、男だろ。シャキッとしなきゃ!」

「……え? あっおじさん。一緒にいた仲間は?」

「兄ちゃんが気ぃ失ってすぐ出てっちまったよ。飯代は貰ってる。さっさと帰ってくれ」

「あっはい」


 酒場のおじさんに店を追い出され、トボトボ路地裏を歩く。

 一歩ごとに一緒に冒険していた日々がフラッシュバックしてくる。

 どこをどう歩いたか、涙がにじむ目ではよく見えない。


「おいどこ見て歩いてんだ!」

「……ごめんなさい」

「っち。気を付けろよ!」


 このままどこかに消えてなくなりたい。そんなことすら思い始めた時だった。


「いてっ!」


 道の端に寄りすぎたせいで突き出た看板に頭を打ってしまった。


「……いってえなっなんなんだよ! もうっ! スキル鑑定所?」


 俺がぶつかった看板には『あなたの隠れた魅力引き出します! ハナー・スキル鑑定所!』と書いてあった。

 この世界に最初に召喚されたときに受けたのがスキル鑑定だ。

 そこで判明したんだよな俺のスキル【水中行動】が。


【水中行動】

 水中(呼吸器官が水に浸された状態)

 全能力に補正・3

 それ以外の全ての状態

 全能力に補正・半減


 正直この能力を見たとき大当たりだと思った。

 水中ダンジョンとかで大活躍だろうって。

 でもそんなに甘くなかった。


 この世界、水中での冒険なんてほぼなかったんだ。

 現実を思い出すとまた泣けてくる。


「あら? お客さん? 入っていきなさい」

「え? いやちがっ」

「いいからいいから」


 店の前で泣いていると店員らしき女の人が出てきて、俺はむりやり店の中へ連れ込まれた。

 中は薄暗く。中にはテーブルに乗った水晶と、いかにも魔女といった格好をしたお姉さんが一人だった。


「はいいらっしゃい。悩める若人さん」

「はあ、ここはなんなんですか? 俺は自分のスキル知ってるけど」

「ほんとかなあ? あなた本当に自分のスキル分かってる?」


 たった今、気絶する前だからけっこう前か。

 まあそれくらいに酷く実感したばっかりだ。

 俺はちょっと怒り気味に応えた。


「分かってるよ……水中行動っていう大外れのゴミスキルだ」

「ふーん? ほんとうにそうかしら? じゃあこの水晶に手をかざしてみて?」

「……こうか?」


 俺は言われた通り水晶に手をかざした。

 血が引くようなひんやりとした感触が指先から広がる。


「ほーう、どれどれー? あっ!」

「なんだよ。合ってたろ」

「あなた、これ気づいてるの? ほらここ」


 そういうと鑑定所の魔女は水晶をくるりと反転させ俺に向ける。


「……やっぱり合ってるじゃないか。期待させやがって」

「そうじゃないわ。ほら下の所!」


 下? 確かに一番下の右隅に小さく何か書いてあった。


「下? ん? なんか1/2って書いてあるな」

「あなた、今映ってるこの部分以外の能力知ってる?」

「い、いや。これだけしか……」


「ほらね? この1/2っていうのはとても大事な情報なの。鑑定所の専用水晶で見るか、所有者が存在を知らないと絶対表に出てこないのよ。それなのに国のスキ鑑は真面目にやらないから見逃すの!」


 なんだか興奮して早口になったお姉さんに俺は慌てた。


「え? え、ちょっと待ってくれ! つまりどういうことなんだ?」

「つまりね? あなたには少なくとももう一個スキルがあるの。さあみて見ましょう。水晶に意識を向けて、次を表示させるよう願って!」

「次を表示させるよう、願う! 頼む……頼む。頼む!」

「さあ出てくるわよ!」


 表示された2/2そこに書かれていたスキルは!

【水中行動】・全


 対象全てを水中行動可能状態にする


「同じじゃねえか! ふざけんなよ! 期待させておいて!」


 俺はこの世界に来て一番大きな声で魔女のお姉さんに怒った。


「ちょっと違うわね。一つ目は内容が書いてあるけどこっちには無い。最初のは条件を満たして勝手に発動するタイプ。こっちは自分の意志で使えるタイプ。それも他人にも行ける感じよ」

「自分の意志で? 他人にも? あっそうか! これで他人も水中行動にすればみんな俺と同じくらい弱くなって実質バフか!?」

「バフ? よく分からないけど、あなた考え方が暗いわね」

「うるさいな。いいだろ別に」


 高い料金を払わされ、俺は借りている宿に戻った。

 財布の中身はかなり減った。でも今はスキルの可能性にとてもワクワクしていた。


 明日はダンジョンへ行ってみようかな。



 ────────────────



 翌日、俺は宿から近いダンジョンの中に居た。

 仲間たちとよく来ていたところだが、一人で来るのは初めてだ。

 今日来たのは浅い階層のモンスターにスキルを試してやるため。

 えっと獲物は? いた! ゴブリンだ!


 岩陰から身を乗り出して相手を確認する。

 数十メートル先に五匹のゴブリン。

 俺はあんな奴らにすらボコボコにやられてしまうので、こっそり遠くからだ。


 スキルの使い方は分からんがとりあえず念じればいいんだろ?

 ゴブリンの一匹をにらんで頭の中で繰り返し念じる。


(お前も俺と同じくこのクソ雑魚スキルの呪いにかかれ! かかれ! かかれ!)


 数回念じていると、ターゲットのゴブリンの様子がおかしくなった。

 周りのゴブリンが心配そうに見ている。

 成功した!? 


 固唾をのんで経過を見守っていたが、ゴブリンの様子は俺が思っていたのとだいぶ違った。


「え? 死んだ?」


 俺が狙っていたゴブリンは泡を吹いて倒れてしまった。

 周りのゴブリンはそれを見て慌てている。

 そりゃそうだ。やった俺もよく分かってないんだから。


「残りの奴にもかけてみるか」


 数分後。

 俺は倒れたゴブリンたちの中心にいた。

 死んだと思ったゴブリンはよく見るとただ気絶をしているだけだった。


 自分と同じ状態にする効果じゃないのか?

 俺はスキルの詳細を把握するためにダンジョンの奥へと進んでいった。

 最初のうちは隠れながら敵を探していたのだが、そのうち道のど真ん中を堂々と歩くようになっていた。


「……よく分からないけど強すぎるなこれ」


 ダンジョンの奥。

 俺の足元にはここらで一番強い魔物・ダンジョンゴーレムが転がっている。

 生きものじゃないこのゴーレムですら俺が何もしないでも勝手に倒れた。


「……グゴゴゴゴッゴ」

「そろそろ起きるな」


 倒れたゴーレムが再起動しそうな音が聞こえた。

 たしかこのゴーレムは首元に埋まった石を砕けば壊れる。


 ゴーレムの上に登って首に剣を刺そうとした時だった。


「あれリンドウ……か? こんなダンジョンの奥で何してるんだ」

「ん? ああファンガスか? 奇遇だな」


 昨日俺を捨てた元仲間が揃ってやってきた。

 見知らぬ男も二人ほどいる。あれが俺を落としたギルドの奴か。


「あんた何してんのこんなとこで。ってあんた何に乗ってんのよ! 寝てる奴見つけたからって無茶しないでさっさと降りなさい! 危ないわよ!」

「いや、大丈夫だよ。ちょっと硬いな」


 能力に下方補正が効いてる俺じゃ無防備なゴーレムの体にもろくに傷つけられないのか。


「ほらみなさい! あんたじゃ無理なのよ! ファンガス、やってあげて」

「ああっ任せろ。火炎切り!」

「うわっ!? 危ないだろ!」


 俺が乗っているのに、ファンガスはゴーレムの胴体に向けてスキルで攻撃をしてきた。

 剣から巨大な炎が上がり、ゴーレムの体を溶かしていく。


「いや大丈夫だったのに。ほっとけよ! 捨てた癖に」

「はっはっはっ! 焦る気持ちはわかるが、無謀な挑戦は命を縮めるだけだぞ! 良いところを見せて我がギルドに入りたいという気持ちはわかるがね」


 ゴーレムから落ちて尻もちをついた俺を知らないおっさんが見下ろしていた。

 やたらキラキラした装備を身に着けて嫌な感じだ。


「はあ? なんだよこのおっさん」

「(馬鹿! この人はうちのギルドの幹部よ! 今はテスト中なの! 逆らったら危ないんだから黙ってなさい!)」


 俺の体を掴んで引き起こしながらジェーンが耳打ちをしてくる。


「では奥へ行くぞ! にしても今日は何故か魔物が少ないな! はっはっはっはっ!」


 俺を置いて更に奥へと進んでいく一行に俺はいら立ちを覚えた。そしてそのいら立ちは自分にも向いていた。

 魔物を倒せても攻撃力が無さすぎる。

 これじゃあ結局誰かに頼らないとダメじゃないか。



 ────────────────



 そんなことがあって数週間後。

 俺はそれまで拠点にしていた街から遠く離れた街で検証を重ねていた。

 この世界では街に一つは転送屋があり、お金はかかるが労力無しに遠くへ行ける。


 知らないダンジョンで知らない敵にスキルを使って反応を見るのは楽しかった。

 獣も悪魔も機械も何もかも、見たことも聞いたこともない、強そうで数が多い敵だって全部一発ですぐ倒れる。

 こんな気持ちの良いことは無い。

 それだけに止めだけ刺せないのが本当に辛い。

 そう思っていた。


 ある日宿屋でふと思った。

 これ自分にもかけられるのか? と。

 かかっても気絶するだけで死ぬわけじゃないのはもう十分に分かっていた。


 夕食前、ベッドの上に寝転がり、深呼吸一つしてからゆっくり目を閉じた。

 スキル発動。対象は自分。


 目を閉じたまま、散々見た苦しみが襲ってくるのを待った。

 しかしいつも見ていた時間を過ぎても何も変化がない。


「ん? 自分には使えないのか?」


 目を開いて体を起こす。

「……なんか感覚が。気持ち悪い」


 体が軽い? でも正面から抵抗を少し感じる。

 背中を引かれるような重力を感じない。

 まるで……そう! 水中を泳いでいるような。


 立ち上がる。空きっぱなしの窓から吹くそよ風で体がクラクラ揺れる。

 力を入れず水面に浮いていると小さな波でも体が揺れる様に。


「これって……もしかして! もしかして!」


 俺は今、水の中に居る!

 ああそうか! このスキルってそういうことだったんだ!

 スキルを使った相手は全員水に溺れていたんだ!


 感覚が狂って、呼吸ができないと思い込んで、それでパニックになって気絶する。そういうスキルだ。

 でも俺にはゴミな方の水中行動スキルがある。元々水中で息が出来るのだから今がどっちかなんて関係ない。

 しかも、この感じならきっと!


 俺は確信をもって窓の外へ飛び出した。

 ここは宿屋の三階。落ちれば良くて怪我。悪ければ死ぬ。


 だが、俺は落ちなかった。

 むしろ逆で、行こうと思えばどこまでも高く泳げた。

 高層ビルもないこの街で一番高い所からみんなを見下ろす。

 街の端から端までだってすぐ泳いで行ける!

 笑いが止まらない。


「すごい! すごすぎる! それに、これならきっと全力が出せる!」


 この日、俺は上機嫌で眠りにつき、そして翌日。

 俺は窓の外から聞こえる喧噪で目覚めた。


 なんだと思って下へ降りていくと宿屋のおばちゃんが慌てた様子で騒いでいた。


「あっ! お客さん! あんた冒険者だったわね! 今外で一人でも手が欲しいって言ってるわよ!」

「何があったんです? お祭りでも?」

「バカ! あんたそれどころじゃないわよ! 街の外に魔物の群れがいっぱいなのよ!」

「魔物が? じゃあまずいじゃないですか!」

「だからそうだって言ってるでしょ! 鈍いわねあんた!」


 宿を飛び出すと住人達がある方向から走って逃げて来ていた。

 その逃げてる人を一人捕まえて詳しい話を聞くと魔物はもう街の中に入っているらしい。


「外へ助けは呼んでるらしいから! 無茶するんじゃないよ!」

 宿屋のおばちゃんが店の中から叫んで教えてくれた。

「少し時間稼ぎすればいいだけか。実戦で試してみるチャンスだな」


 俺は自分にスキルをかけ、空を泳いで現場へと向かう。

 元の水中時に強化される効果のおかげで、もう泳ぐというよりは飛んでいると言ってもいいくらいの速度がでている。


「きもちいい」


 すぐに敵が見えた。街に入ってすぐの広場に溢れるゴブリンの軍団。

 それと街の門から外へと長く続く魔物の列。

 一目でわかる絶望的な光景だ。

 パーティーを組んでいた頃の俺たちなら、いや俺なら逃げだしていたかもしれない。


 広場で立っていた人間は二人だけ。

 どちらもボロボロで体のあちこちに怪我を負っている。

 他には倒れた冒険者や街の住人が大勢。

 時間稼ぎは無理そうだ。


「大丈夫か? 二人だけ?」

「な、なんだ? 助けか? 一人!? ……じゃあどうしようもない」

 降りた俺を見て冒険者らしき男は露骨にがっかりした。


「いや、これくらいならやれる」

「ど、どうやって……いやなんでもいい。頼めるのか」


 スキル発動。対象はここにいるゴブリン全て。

 大雑把な対象選択でも自分の思った通りに狙ってくれる、それは散々検証した。

 だからこれだけで広場のゴブリン全てが瞬時に倒れた。


「……え、どっどういうことだ! あんた何を?」

「詳しい話はあとで! そいつら気絶してるだけだから止め刺しといて。俺は入ってくる奴らを片付ける」

「あっわ、わかった。気を付けろよ。あんた」


 次の敵。

 門の近くに大型ゴーレム5

 沈黙させて、今の俺なら! あの時と同じ武器で装甲ごと中のコアを潰せる! 


 次! 

 ゴーレムよりも更に大きな、大きななんだ? 巨人?

 ビルで言ったら5階建てくらいはある大きな赤い体。

 遠くに小さく見える顔に一本の角。

 手には太いこん棒。


 デカいのは俺に気づいてこん棒を振りかぶろうとしている。

 でもその全部が遅い。


 こん棒が持ち上がり切る前に巨体がぐらりと揺れ、後方へと倒れた。

 その後ろに居た無数の魔物を巻き込んで。

 デカい奴にとどめを刺し、空から残りを見る。


 ゴブリンなどの小型魔物が大量に続く先に何か違うのがいる。

 敵の終わりが見えた。


 気絶し無抵抗なゴブリンを切っていくのは作業的で疲れるけど俺には範囲呪文が使えないから仕方ない。

 敵が全員気絶しており、怒号も悲鳴も何も聞こえない中、ただひたすら駆除を続けた。


「……はぁ。やっと最後か。悪魔って首を落としただけで死ぬのか?」


 魔物の列の最後尾には豪華な椅子に座った貴族のような悪魔が居た。

 もちろんこいつも気絶している。

 姿を確認した瞬間にスキルにかけたから。

 半信半疑だが一応首を落としておく。これで全部終わりだ。


「てかこの魔物たちの死体は誰が片付けるんだ?」


 全て片付け振り返った光景を見て俺はため息をついた。

 ただ首を切られただけのゴブリンの死体で道が埋め尽くされている。

 片付けるのも気が滅入る作業だぞこれ。




 ────────────────



 村の門をくぐると、もう片付け作業は始まっていた。

 そりゃそうだ。ただ偶然居合わせた俺と違ってこの人らはここで暮らしているんだから。


「おお、あんた! 戻ってきたか! 怪我はないか?」

「えっと……ああさっきこの広場であった人? 怪我はないよ。ありがとう。そっちこそ大丈夫だった?」

「ああ。あんたは命の恩人だよ」


 その男と俺の会話を聞いて街の人たちも作業の手を止め集まってきた。


「一人で倒したのか?」「外にもすごい数の死体が転がってるぞ!」「ゴーレムだ!」「巨人だ!」

「空を飛んでバッタバッタと倒していた!」「手をかざすだけで魔物がひれ伏してた!」


 みんな口々に褒めてくれるが数が多すぎて聞き取れない。

 その喜び方を見ていると、自分のスキルが試したかっただけなんて言い出せそうになかった。

 何となく申し訳ない気分になり、一緒に魔物の死体を片付けているとそれだけで一日が終わってしまった。


 夕方になり、そろそろ今日の作業を終えようかという頃。


「みなさーん! 我々が助けに来ましたよ! もう安心してください! ハッハッハッ!」


 広場の入り口から男の大声が聞こえた。

 俺と街の人たちがそっちを見ると、武装した集団が居る。

 朝宿屋のおばちゃんが言っていた助けだ。


「ハッハッハッ! そんなに脅えなくて大丈夫ですよ! 我々がすぐ魔物なんて退治しますから!」


 聞き覚えのある声だと思ったら、ジェーンたちと一緒に居た男だ。

 助けはあそこのギルドにいったのか。


「副長! 魔物は既に討伐されているようです。冒険者が一人で退治したとか」

「なんだ、大げさな救援要請だったということか? まったく我々も暇ではないというのに迷惑な!」

「いえ、確認してきましたが、大型のゴーレムや巨人などもいましたので救援自体は妥当かと」


 ギルドの奴らの話し声が俺の所まで聞こえてくる。


「それほどの逸材が居たとは。それはどこに?」

「ええ、そこにいるとか」


 勝手に聞こえてきた内容的に俺を探しているんだろう。

 同じくこの話を聞いていた回りの人たちは、俺をそっちに行かせようとしてくる。

 だが俺はこのギルドにいいイメージが無い。会いたくもない。


 街の人に紛れて宿へ帰ろうと思ったのだが、ギルドの奴に見つかってしまった。


「ちょっと待ってください! そこの人! あなたがこれを全部ひとりで? ってリンドウ!?」

 声をかけてきた男は、俺を捨てたパーティーメンバーの一人。

 戦士のファンガスだった。

 気取ったギルド服を着て俺を見下ろしている。


「ああ、ファンガスか。だとしたら何か悪いか? 役立たずが人を助けたらいけないか?」

「えっいやそんなことは言ってないが……あっわかったぞ! (誰か別の奴がやったのに勘違いされているんだな? だから隠れて行こうとしてたんだ)」

「違う。俺がやった」

「(いいって、俺は分かってるから。なにバラしたりしないよ。安心しろ)」

「おいっ!」


 ファンガスは俺の話しも聞かず、勝手に一人納得するとギルドメンバーの元へと戻って行った。

 腹が立ったがもうどうでもいい。信じろって言っても付き合いが長すぎて無理なんだろう。

 あいつの中で俺は永遠に役立たずでお荷物なんだ。


 なんだか魔物を倒すときより疲れた気がする。

 俺はその場に会った石垣に登って腰を下ろした。

 少し休んだら宿へ帰ろう。


「おっまだここに居たんだな。副長。こいつがそうです。あの試験の日洞窟で会いましたよね」

「っち。まだなんか用かよファンガス。疲れたんだから放っておいてくれ」

「いやさっきの話を副長にしたら会わせろってさわりいな」

「バラさないとか言ってたくせに」

「ハハハっすまん」


 俺が座った石垣を半円囲うようにギルドのメンバーがぞろぞろ集まってきた。

 全員で二十人くらいでその中にはジェーンとテスの姿もある。


「はっはっはっ! 君かね! 人の手柄を奪うという男は!」

「は? 何言ってんだ?」

「はぁっ……君が我々の仲間に入りたいという気持ちはわかる。だが、だがだよ。そんな偽りの功績を重ねようとも我の目は欺けん。それをしかと心にきざむのだ」

「誰がどこに入りたいって? 寝ぼけてるのかおっさん」


 回りの奴らも、まるで俺が悪いかのように責め立ててきやがる。

 Sランクというのに女々しい奴らだ。


「ちょっと! みんなやめてよ! こいつは確かにクズだけどわざと人の功績を奪う人間じゃないわ」

「ジェーン……」


 一人の少女が輪の中へ一歩歩み出た。ジェーンだ。

 俺を擁護してくれるのか。それは嬉しい。


「偶然、人の功績を奪っちゃったのよね? そうでしょリンドウ。あんたの事なんてわかってるわよ」

「分かってねえじゃねえか!」

「何ようるさいわね! あんたは一言謝っておけば場が落ち着くのよ。勘違いしちゃったってさ」

「何を謝れって? 俺は自分で殺した魔物の片づけをあそこでしていただけだ。ノコノコ後から来た奴に何を謝る」


「君ねえ。我々は君と違っていそが──」

「黙れ」


 副長という奴が何かを言おうとしたが、いい加減我慢の限界だったのでスキルを使ってしまった。

 副長は悪趣味なギルド服の喉元を必死に手で掴み、苦し気に悶えている。

 気絶するまで数秒だな。


「副長!? リンドウ! 何をした!」

 ファンガスが俺に掴みかかってきた。

 さっきは信じなかったくせにこの状態は俺と結びつけるのか。

 俺は思わず吹き出してしまう。


「魔物を倒したと信じない癖におっさんが勝手に倒れたらそれは俺のせいか? 矛盾してる」

「あ、あんたがやったの!? 魔力も感じなかったのにどうやって……」

「ギルドに入れなかった腹いせか? 心までクズになったのか!」


 ギルドの他の奴らもみな俺を睨んでいる。

 勝手にいちゃもんをつけ、勝手に倒れただけだろう。どこまでも勝手だ。


「っぐ、くるしぃ……」


 しばらくすると副長の他にも同じ症状で倒れだすメンバーが出始めた。

 俺をキツクにらんでいた順に。


 俺のスキルの発動条件はシンプルだ。

「対象:○○。除外は××」これを頭の中で思うだけ。

 簡単だがこれだけだと自分でいちいち相手を確認しないといけない。


 これをカウンター罠のようにする構文がある。

「対象:俺に○○しようとしている相手」

 これを何度も更新するだけ。


 今回で言えば『対象:俺に攻撃を行おうとした人間』だ。

 あとは俺が見ていなくても勝手にスキルにかかって倒れてくれる。


 ただ、かつての仲間は除外している。

 情けとかではなく現実をちゃんと教えるために。

 バタバタ倒れるギルドメンバーに焦ったファンガスは強く俺に問いただす。


「おい! やめろ! これをやめろリンドウ!」

「死にはしない。お前が変な事を言うから悪いんだろ」

「お、俺が? 俺が何をしたって」

「俺が倒したって言ってるのに信じず、執拗に粘着してきただろ。しかもギルドメンバー全員で馬鹿にするために」

「い、いやそういうつもりでは……」


「まあいい。お前らの相手をするだけで疲れる。さっさとそのおっさん連れ帰れよ邪魔だし」

「お前は! そ、そうだ! 悪魔だ! 悪魔の力を得たんだな! 答えろリンドウ! おい! どこへいく!」

「宿に帰るんだよ。お前らと違って俺は疲れたんだ。ついてくるならそのおっさんたちと同じようにするけど?」

「ひ、ひぃ──!」


 そこまで脅してやっとファンガスは口をふさいだ。

 ジェーンとテスの表情は暗くて見えないが、黙っているのでどうでもいい。


 翌日。残りの片づけをしにいくともうあのギルドの連中は誰もいなかった。

 街の人に話を聞くと『あいつは悪魔だから気を付けろ』と言いふらしていったようだ。

 だが倒すところを直接見ていた街の人たちは俺の方を信じてくれた。


 かつての仲間にああいう扱いをされるのは辛いが、俺はこの世界での生き方を見つけられた気がした。



読みやすさや分かりやすさはどうでしたか?

1ポイントでもよいので評価をしていただくととても喜びます。


もし続きを書くとなるとたぶん出てきた少女両方ヒロイン扱いになり、プリーストの少女は窒息プレイにハマるヤンデレ系になっていくと思います

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[気になる点] ざまぁ詐欺 [一言] 性格悪い癖にバカにされた女からもモテたいのか偽善者気取りで手を出さない主人公がキモい
[良い点] スキルの応用性が非常に高いので、今後何をしていけるのか想像するだけで楽しい。 泳ぐことで飛べるようになるのは凄い。 [気になる点] あまり見返したとは言えない段階で終わってしまった。 キー…
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