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R^-FACE【ラフェイス】  作者: D.S
第一章「黒と赤」
8/11

第一章・番外編1「憩いの散策」

今回は、番外編です!

どうぞ、お楽しみ下さい…

 レスター王国は、今も昔も美しい。それこそが此処に伝わる第一印象であり、確かな伝説だった。

 風が薫り、それに木々が乗り揺れて、その枝に付く葉が一枚清らかな水面に落ちれば、自然が織り成す美麗な絵画の様である。


 そんな国の中心に位置し、木々に囲まれているとは思えない程に、どの建物よりも背が高い城――中心城地。其処は、レスターの自然の生命を集わせた聖地だ。国を護る騎士が白銀一色の鎧を輝かせながら任務に勤しむ。その地の庭に当たる場所には、陽光を受けながら、それを身で反射させる植物が生い茂る。森の中に、地の底から建ったかの様な城。城地内に象られた池も、整えられている木々も葉も、元は森から貰った命なのだ。なので中心城地所属の騎士の任務に、庭の手入れや城地周辺の森の補助、つまり森に返す御礼を致す事柄が入っているのだ。


 ――レスターの自然は、森と人間の、恩恵と御礼の繰り返しによって、生きている。



「……という詩の様な考察を巡らせながら、庭を眺めている銀何君。どうしたのでしょう」


「お、アオラか」


「やっほー、って言うか本当にどうしたの? いつもそこら辺をウロウロしてる銀何が珍しいじゃない」


「ウロウロって……いや、本城地の庭は本当に綺麗だなと思ってさ」


「……意外な、趣向ね」



 現在、銀何とアオラが立つ場所は正面入口から広がる、左右対称の庭だった。裏庭の規模ほどではないが、こちらも中々の絶景。庭を『庭』と思えるだけ有難い事だった。本城地から見える景色に油断していると、花園に迷い込んだと勘違いしかねない。



「私もね、花は好きな方なの」


「そうなんだ、やっぱり綺麗だよね」


「……花が、よね?」


「え、うん」



 そんなやり取りの中、少しだけアオラが寂しそうな表情をするのが分かった。と言っても、隠すのが上手いのか、集中して見ないと分からないのだが。



「……そ、そうだ、銀何。『ニダン』と『オウガ』には会ったの?」


「ん? 人の名前だよね。会ってないな」


「えっと、二人はどちらも近衛騎士よ。騎士団の中でも二人は上級のそれに当たるの。烈火や黙刃と比べたら流石に能力は劣るけどね、でも『ニダン』は次の副団長候補なのよ」


「へぇ……凄い騎士なんだ」


「ま、まぁ忙しくなさそうな時を見計らって会って来ればいいじゃない」


「うん、そうさせてもらうよ」



 そうして、銀何は二人の騎士に会いに行こうと立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。

 だが、七歩程進んだ所で一旦立ち止まり――



「アオラ! さっきの話だけど、最初は敬語使っちゃうぐらいアオラは美人さんだと思ったからなー!」


「え……え?」



 然し、初対面の時に『美貌』を前にして緊張してしまったのは事実だ。それを、ありのままに伝えたのみ。

 そうしてまた、止まった足は進行方向に動き出す。銀何はその場を離れた。



「何なの……もう」



 アオラは、そう嘆息した。


 &・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 銀何は本城地の城内に入り、目的の二人の騎士を探しながら歩き回っていた。

 何せ先に記した通り、二人は騎士業に務める者らなのだ。普段は街の護衛に出ているので、本城地には帰ってくる事が少ない位だろうと予想する。二人は近衛騎士団のリーダー格に立つに相応しい実力の持ち主だと聞く。是非とも会ってみたいものだが、事情と時の運が巡って来ない限りは困難だ。

 烈火が言っていた通り、最近は『災禍』の脅威が生む恐怖を少しでも減らす為に、近衛騎士は護衛に出ている事が多い。その話の現実性は、現在人気が失せている本城地内が証明していた。


 最も、この本城地とて『最後の砦』に当る場所。少人数でも足り得る実力を持つ騎士が残っている可能性も考えられる。

 そして、「噂をすれば」と言わんばかりに一人の騎士が通り掛かる。首より上の装備――鉄兜は外しており、装着している鎧のデザインも周りとは違う。金色のラインが何本も引かれている豪華な鎧だ。伺える表情は軽い雰囲気を醸し出し、近くを通った瞬間に感じる暖かさに包まれる感覚。不思議な印象の騎士だった。



「……ん? そんなにジロジロ見てどうした? 俺の鎧、何か変だったかな」


「――え!? いや、何でもないですごめんなさい!」


「気にすんなって~気持ちは分かるぜ? 俺の鎧、金ピカで格好良いもんな~」


「は、はい」



 黄金の鎧を身に纏う騎士が気軽に話し掛けてくる。その雰囲気に完全に呑まれて銀何は困惑してばかりだ。



「……そういや、お前って確か新しい守護者だよな? 俺は謳牙(オウガ)。お前は?」


「あ、俺は銀何です。宜しくお願いします」


「ギンガ……分かった!宜しく!」



 オウガと名乗った騎士が右手を差し出す。銀何は応じて同じ動作をして、握手する。一瞬の事だったが、オウガは銀何の名前を繰り返した時の様子が変だった気がした。それが何なのかと言われればそこまでなので深くは気にしなかった。



「そうだ、俺の『友達』にも会ってみた方が良いよな」


「『友達』? ――あ、もしかして『ニダン』さんですか?」


「お、よく分かったな。そう、ニダンだ。あいつも今は城内にいるはずだから紹介するぜ」


「ありがとうございます」



 オウガに促されるままに銀何は城内を歩き出す。相も変わらずこの城は、狭さを感じる概念を消してくれるものだ。感覚が狂う領域、無限と錯覚する次元。国の中枢なのだから当然とも受け取れるのだが、そもそもそんな聖域に足を踏み入れた事がないのだ。――少なくとも、『断片的な記憶』の中では。



「なあ、ギンガ。他の守護者とは仲良くできそうか?」


「……え? あ、そうですね、アオラやゲンブは意外と話し易かったです。テリガは……うーん、やっぱり変わってると言うか、ちょっと疑われたかもしれないですね」


「ふむ、そうか……でもな、人の心の扉を塞ぐ壁ってのは、先ずは自分が自分のそれを取っ払ってやらないといけないんだ。難しいだろうけど、そうすりゃテリガも心を開いてくれるかもしれない」


「な、なるほど。オウガさんは凄い考えを持っているんですね」


「はは、実を言うと俺も聞いた話なんだ。俺自身が教えられる思想じゃなくてごめんな」


「いえいえ、勉強になります」



 人間同士の関係構築――それはとても軟弱にして頑強。一人の人間が心に宿す闇は、消えずに深くなり続ける。そんな複雑な心を、相手と共有し、交差させる。それこそがコミュニケーションの基本だ。表向きの会話は存在する。心情に蓋をしながら『友人』と呼ぶ人物と共に出掛けたり遊んだりする事もある。だが、本当に深い関係を築きたいのならば心を開放せずには難しい。

 そしてオウガは、先述の過程で起こり得る失敗を乗り越える方法を教えてくれた。互いに心を開放する事は難しいし、初対面はおろか、相手の性格に自分の心が慣れない限りは無理に等しい。だから、その間はどちらかが心の扉を閉ざし、若しくは牙を剥いて抵抗する。例えるなら、同極の磁石。例えるなら、相対する山嵐。どちらかが心を開いてやらねば解決はしない。残酷な現実だが、事実。

 もちろん、『自分が、信用もしていない相手にそこまでする義理は無い』と割り切れないのが素直な感性。そういう時も、『自分は優しいから、大人だから』だとか、『相手を信用したいと思えるから』と理由付けをしてあげれば、心を縛り付ける頑固な鎖も緩くなる事だろう。そんな難題こそが、世を生きる基本なのだ。



「ギンガ、ニダンに会うなら言っておくけど、あいつも結構気難しいんだ。最初は当たり強いかもしれないけど、どうか踏みとどまって接して欲しい」



 ――そう、この後直ぐに、心の試練が待っている。



「……分かりました」


 &・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 レスター王国には、多くの才能が集まっている。大抵、才能を持つ者らは騎士や魔導士になり、中心城地で働く道を選ぶ事が多い。

 その中でも群を抜く実力を持ち合わせ、次の副団長候補にも選ばれると予想を集めている。先天的に授かっている異才を惜しむ事無く活用し、エリート騎士まで登り詰めたらしい。



「…………。」



 そんな実力者でありオウガからも「気難しい」と評価されたニダンは、唯一人、草原で剣を振っていた。



「……あの、すみません。『ニダン』さんですか」



 銀何は、ニダンとの距離を詰める間にも唯ならぬ緊張感を浴びていたが、この際だと割り切って話し掛けた。



「――守護者、極 銀何か」


「あ、はい。特訓中お邪魔して申し訳ないです」


「確かに、妨害に当たる。今回は初見の誼で許そう」


「ありがとうございます……」



 話し掛け相手が気付いてからというもの、先程からずっとニダンから『オーラ』を感じている。それだと余りに抽象的なのでもっと分かりやすい例をあげたい所だが、銀何の全身に微電流が走るかの様な感覚は、一言で表せば『オーラ』と言わざるを得ない。



「挨拶、でもしに来たのか」


「はい、遅れたけど改めて。極 銀何です」


「……仁騨(ニダン)だ。『雷電騎士』の称号を授かっている」


「『雷電騎士』……称号、ですか」


「あぁ、知らないのか。説明は面倒なので省くが、オウガ何かは『天魔騎士』と呼ばれている。……彼奴は気に入らない様だが。大抵は能力を認められて与えられる二つ名だ」


「なるほど……」



 称号――恐らくは強く賢き者に与えられる二つ名で、国そのものか代表者にその実力を認められた者だけがその称号を持つのだろう。そうなると、騎士団長である烈火も持っているのだろうか。



「ニダンさんは『雷電騎士』と言う称号を持ってるんですよね。じゃあ、やっぱり電気を操るんですか」


「――? 銀何の様に『電気』と比喩するのは珍しいな。『雷電』と言うのは文字通り空から降る雷の力を指すんだ。そもそも、雷がどう言う原理なのかすらも未だ分からない」


「…………。」



 何やら不思議な齟齬が起きた様だ。無意識で無神経な質問から起きた現象。銀何は何も気にせず、自分の持つ知識を素材にニダンの能力を予想した。確かに間違いは無かったらしいが、『電気』という単語を口に出した途端、ニダンが意味を知らないと返してきた。

 そして――結論から言えば、銀何も同じだった。『電気』と言う比喩表現を用いた割に、当の本人ですらその単語の意味が分からなかった。理解が浅い言葉を使って表現した所で、相手に意思が正しく伝わる可能性は低い。一体、どこで『存在しない』言葉を覚えたのだろうか。



「あ、あの、何か言葉の綾だったみたいです……すみません。取り敢えずニダンさんの能力は凄いんですね」


「全く、王国に迷い込んだ兎は挙動不審だな。だが、能力の評価は素直に受け取ろう。俺は遂に――副団長になれるのだから」


「副団長になりたい理由とか、ありますか?」


「あぁ。現在、レスターの近衛騎士団において実力者の数が激減している。言い方を変えれば、全体的な勢力の減少だ。黒赤軍や王国災禍と言う障害がレスターの活力を殺いでいる。このままでは何れレスターは滅びかねない」


「そんな……」


「だからこそ、俺が副団長となって新たな指導法を烈火――団長に提案する。今残っている騎士達を鍛え上げれば、必ず勢力は増加するはず。出来る事なら街から見習い候補を連れて来ても良い。レスターは変わらねばならない。……いや、変わる時だ。必ず、俺が変えてみせる」


「――。強い、決意なんですね」



 ニダンの目指す理想は、レスター王国と共に在る。その理想を叶える為には、王国を脅かす数多くの障害を払い除け、より強い砦を築かねばならない。それにはニダン自身が王国を支え纏める役になる事こそが優先なのだ。

 そして、単純且つ大きな其の目標に懸けられるニダンの決意は、同じ様に大きい。


 &・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 これ以上ニダンの時間を取らせてしまうのは申し訳無いので、一先ず話を終えて別れた。さて、烈火が暇であれば、少々話したい事があるのだが……。



「あれ、銀何じゃないか。散歩でもしていたのかい?」



 ここぞとばかりに良いタイミングで来てくれる烈火。寧ろ窺っている可能性さえ考えてしまう。



「おお、烈火! 丁度良かったよ」


「何か僕に用事がある様だね、話なら中で聞こう」


「助かるよ」



 そうして銀何と烈火は城に入り、談話室に向かった。すると、談話室には他の守護者――アオラ、ゲンブ、テリガが入り浸っていた。



「……銀何、また会ったな」


「怪しい人だ……ハハ」



 山の如く不動のゲンブと、銀何を怪しむ危険人物のテリガがそれぞれ反応。そしてもう一人はと言うと。



「――っ!」



 アオラはこちらに気付いた様だが、何故か顔を背けてしまう。気難しい時もあるのだろうか。



「それで、銀何。君の話したい事は守護者についてかい?」


「あー……部分的には、そうかな?」


「何だヨ、濁さないで欲しいんだケド」


「あのさ、さっきニダンに会ってきた。『雷電騎士』と呼ばれる彼に。んでさ、烈火は騎士団長だし、俺達四人は守護者でしょ? だからニダンみたいに、俺達にも二つ名があるんじゃないかと思ってさ」


「……くだらなぁ」



 テリガの余りに攻撃的な態度は流石に痛いものがあるのだが、ゲンブは「道理だな」と腕を組み、アオラは小さく頷いていた。



「そうだね……僕は『魔法騎士』何て言われていた頃があるけれど、それも職業柄だよね。――よし、僕らの二つ名を決めようか」



 ――え、そんな簡単に決めていいやつなの!?

 と、銀何は驚き反面突っ込みそうになったが、思ったよりも烈火が乗ってくれた為、『二つ名決定会』が始まる事となった。



「本当は、王国経済を担う役職の方々に『称号』と言う形で貰うのが正しい形なんだけど、『二つ名』位だったら自由に決めていいと思う。……一応『守護者統括担当』にもなっている僕なんで、そこは許可しよう」


「烈火の役割の方が不安要素すぎる」



 一体、彼はどこまでお人好し……否、真摯に役を受けてしまうのだろうか。天罰が下りそうな話だが、烈火を騙し誑かす者が出てもおかしくないだろう。



「じゃあまず、誰からにする? アオラの決める?」


「――え」


「もうイメージが大分固定されちゃってるしなぁ。水を連想させる名前が良いかもネ」


「あ、あの……」



 珍しく、アオラは狼狽している。普段の強気な性格から考えたら珍しい。どうしたと言うのだろうか。先程から様子がおかしいが……

 取り敢えず、の話。そんな調子で話し合いは進んだ。



「ゲンブはこう、固くて強そうなのを」


「烈火は、うん、格好良いのを付けましょう」


「賛成」


「あ、僕のは自分で決めるネ」



 と、自分を後回しにしたテリガを除く四人の名前が話し合われ、遂に五人の二つ名が決定した。



 銀何『紅蒼の新星(ニューオリオン)

 蒼蘭『心宝の泉(ストリーマー)

 玄武『黒鋼の天変剛手(オーレギアス)

 テリガ『蒼霊侍(ウル・サーベリ)

 烈火『炎神纏いし龍騎(ジークフリート)



「少々、洒落過ぎではないか?」



 冷静なゲンブの一言によって、皆の表情に恥が垣間見えたのだった。

読んでいただきありがとうございます!

新しいPCを弄っていたりして本編よりも時間が掛かってしまいました(汗)


「本編とは関係ありません!」

と言いたい所ですが関係は断然あります。

新キャラの二人は出ます、覚えてて下さい…

物語に熱が入る前の、平和な雰囲気を感じ取って頂けていたら嬉しいです。



『過去の敵と、新たな敵』

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