第一章・一話「転生と驚天動地」
第一章、スタートとなります!
新キャラも多数登場しますので、その点にも注目してお楽しみ下さい!
――少年・極 銀何は、異世界に転生した。
しかも、その人格を明るいものに豹変して、だ。
此処は、地名すら不明の街。普通の様に、人が公道の両脇を歩いている。四足歩行の動物が背負って走る車も行き来しているし、家っぽい建築物も、正に軒並みに建っている。
どうやら、無事に人は住んでいる環境の様だ。此処が地獄であるかの様には、誰の目にも映らない。
勿論――現在の視点主である銀何の目にもだ。どころか彼は、より一層頬を上げ、目を輝かせて立ち止まっていた。
「……あれ、ここで何してたんだっけ」
起こった現象を噛み砕いて説明するならば、銀何は、この道路の中心に「転移」した、と言う事になる。
故に、銀何は行き成りここに飛ばされ、過去に何をしていたなんて事実は存在しない。
「――?」
銀何の表情が、連続する疑問に曇る。が、その顔でさえ、無邪気そのものだった。
そして数秒後、その終わりの見えない思考は、途切れる。先程から広い公道を走り回る重量級の車が、銀何の近くで急ブレーキを掛け、停止したからだ。
車の座席部に当たる箱、その天井の部分から、男性が旗を横に向け、振り続けている。黄色の旗布の催促に従って、後に続く車は横に逸れ、銀何と止まった車を避けて進んで行く。
――そんな中、一人の男性が箱から地面に降りる。
「危ないですよ、そんな所で立ち止まっていては。
行き交う馬車に轢かれてしまう」
――赤髪の青年が、そう言ったのだった。
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赤髪の青年に促され、銀何は馬車の中に入った。よく見るとこの馬車は豪華だ。白い身の縁には、日光を反射する金箔が塗り込まれている。中は暖色に染め上げたデザインで、「いかにも」感が出ている。
銀何が理由は分からずとも、この馬車に乗るのに気が引けていたのも、頷ける話である。
「――あの、どうして貴方は公路の中心線に?」
銀何が謎の場違い感を味わっていた所、赤髪の青年がそう尋ねてきた。『公路』というのは、この馬車が走っている巨大な道路の事だろうか。
どの道、銀何自身にもその理由は分からなく――
「実は、俺にもよく分からないんです……その、さっきの所に立ってた理由も、それまでも……」
「――成程」
赤髪の青年は、銀何の応えを聞き終えると、整った顔を一瞬凍らせた。が、直ぐに元に戻り――、
「事情は理解しました。――緊張しないで良いですよ、僕は貴方の味方なので。名前は憶えていますか?」
――凍える真冬の銀世界に灯る、小さな火の様な表情を銀何に向けた。
「極……銀何、です」
「よく教えてくれた。他に憶えている事は?」
「――。……ごめんなさい、何も……。」
「いえいえ、十分にご尽力いただきました。ありがとうございます」
暖かい笑顔は、より深くなって銀何に浸透する。銀何は人間的な本能で、この青年を信用していた。
「――そうだ、僕は烈火。猛尊 烈火です。宜しくお願いします」
赤髪の青年――烈火は、手を差し伸べそう言った。
銀何はやっと緊張が解け、無邪気にはにかんでその手を取ったのだった。
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『二機目』極 銀何は、記憶喪失だ。
前世の記憶は勿論、転生した影響か、主人格まで一変していた。その性格は正に無邪気。天真爛漫は過言だが、警戒心や緊張感は幼い少年そのものであり、精神年齢が下がった、と言うのが正しいだろう。
「それで、この後の事なのですが」
「――あ、俺は迷惑ですね。すぐ降りて……」
「逆に降りないで下さい、迷惑何てとんでもないですよ。お手伝いさせて下さい」
「ほんと、ありがとうございます」
烈火は銀何に、馬車に残るよう言った。確かに、走り続ける馬車から降りるなど言語道断。それに、烈火は最初から、この縁を置いて行く選択はしなかった。
「それで、ご提案なのですが――簡単な事です。このままこの馬車に乗り続けて貰って、目的地までご一緒させて貰うと言うものです」
「目的地?」
こんな豪華な馬車が向かう先――回転速度の落ちた銀何の頭脳でも、容易に想像できた。
「僕がこの馬車で行く目的地、それは即ちレスター王国の中枢――中心城地です」
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此処の国名は、レスター王国。東西南北を大森林に囲まれた民主主義国で、比較的洋風な雰囲気を持つ景色が広がっている。
そんなレスター王国の中枢を担うのが、中心城地だ。
王国内の経済事情、国外との貿易情報、そして近衛守護騎士を集結させた、「最後の砦」。
「銀何君は、泊まり先が見つかり辛い状況かと思ったのです。そこで、中心城地内に一時滞在すれば、身の安全も含め安心ではないかと」
「――。凄いありがたい話ですけど、大丈夫なんですか?」
「何かお困りな点でも」
「いや……俺にとっちゃこれ以上ない救いなんですけど、そんな重要な場所……関係無い人は入れないんじゃないんですか」
銀何の予想は的を射るものだ。レスター王国にとって中心城地は、核――つまり命の源、王国の心臓とも言える場所だ。その為、万全なセキュリティが施されていたり、近衛騎士が集結した戦力等、一般人は間違っても足を踏み入れてはいけない。
「――その通りです。ですが、その点に関しては僕の方で説得します。成功率には自信があります」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
「中心城地は、一般国民の住宅街から遠く離れた場所に建てられています。到着は馬車でも遅くなります。もう少しお休みになって下さい」
「……そう、させてもらいます」
銀何は疲労感に限界を感じつつあった。烈火はその表情を見抜き、十分な配慮をくれた。何という美男子なのだろう。非の打ち所が無い。
そうこう考えている内に、銀何は、羽毛状の座席の背に身を倒して眠りに就いた。
烈火はその寝顔を見ながら、一人で呟いていた。
「ようやく――果たされる時が来た」
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静かな雰囲気を漂わせる林を越え――見えてくるのは巨大な城だ。それこそが、中心城地である。
そもそも、正面に聳える城は住宅街の方からも見える程の物だ。そう言う意味でも、中心城地は街のシンボルになるのだ。
銀何と烈火の乗る馬車は、間も無く目的地に到着しようとしていた。
――が、馬車は急停止する。
「――!?」
「……銀何君、君はこの馬車に残っていて下さい。僕は少しの間降ります」
「一体何が……?」
「後程、説明します。衝撃が来ると思うので、何かに掴まっていて下さい」
「分かりました、気を付けて下さいね」
烈火の整った顔立ちには、翳りがあった。銀何に向けていたものとは一変した、引き締まった表情。その姿からは、怒気を感じる。まるですぐそこまで、許し難い愚者が入り込んだかの様だ。
烈火は急いで馬車を降りる。窓があったので、銀何はそこから外の様子を窺う。
既に日は落ちて辺りは暗く、森林の周囲はより視覚を妨害する。辛うじて烈火の純白のマントが目立つので、見える場所には居る様だ。
馬車を護る態勢で仁王立ちする烈火は、中心城地の方向を見ている。――ふと、風が強くなり、数秒後には吹き荒れていた。自然が、怯えているかの様に。
――直後、烈火の周囲が煌めく。
小さく紅い光の玉が何個も現れ、烈火の体を囲む様に、ゆっくりと回る。次第に輝きが強くなり――。
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馬車を降り、烈火は草原に降り立った。此処は既に中心城地の領地内で、今馬車が停まっているのは裏庭に当たる。そんな中、城に走って行く三つの黒い影が見えたのだ。
「命を脅かす……不届き者が」
烈火が、燃える怒りを込めてそう呟く。直後、烈火の周囲に、紅い輝きが現れる。光の玉はその数を益々増やし、烈火を覆い尽くす。
「――爆灼熱弾」
烈火がそう詠唱すると――光は、焱を帯びる。
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銀何からは、烈火が口を動かした様に見えた。小さく小さく、呟いたみたいで。
そして、馬車の中でさえも熱を感じたのは、考える暇も無い直後の事だった。
烈火を取り囲んでいた紅い光達はより明るくなり、銀何はその眩しさに目を隠す。次第に光は弱くなり、光が揺らめいた様に見えた。それは気の所為ではなく、実際に光が燃えていたからだ。
烈火が右手を宙に挙げる。すると、炎を纏った光が右の掌に集まってくる。
光同士が接触すると一体化し、より大きな炎になる。全ての光があっという間に集まり終え、気付いた時には一つの火球に化けていた。
烈火は巨大な火球を、勢いよく前方に投射する。
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烈火は、バーンブラストなる火球を投射した。
火球は速度を上げながら前方へと飛んでいく。黒い影は停止して火球を前に立ち竦んでいた。火球は高度を少し上げて黒い影の真上に来ると、光を一瞬強くして――爆発した。
火球は一瞬で原型を崩し、その周囲には巨大な炎の波が広がった。波は一気に黒い影を飲み込み、焼き尽くし、焦がし尽くした。
火球の大爆発による爆風が草原一面を吹き抜けた。暴力的な爆風は草達を抜けるかの様に揺らし、空に火花を浮かばせていった。
無論、爆風は停まっていた馬車にも届いた。銀何が覗く窓からは、「突然外が見えなくなった」様にしか見えない。景色が黒煙に覆われたと思った直後、馬車が突然衝撃を受け、大きく揺れた。
車内も大きな揺れの影響を受けていた。ソファを固定する金具に軋み音が響き、重力が反転しそうになっていた。
「――!? 一体、何が!? 烈火さん!!」
銀何は、突然の衝撃に半パニック状態を起こす。爆風はその勢いを止めず、馬車を揺らし続ける。銀何の意識は、朦朧とし始めていた。
「……俺、また……烈火さん……」
爆風がやっと弱くなり、馬車の半輪が持ち上げられていた状態から一気に地面に落ちる。大きな軋み音を上げて馬車が着地した時には、銀何は気絶していた。
後書きのネタは直ぐ無くなってしまいそうですね…
では、「伏線」っぽい発言でも残していきます
「無事、魔法はあったんだね」