プロローグ「現実世界での終焉」
前々から、ずっと未完成だった物語を、仮にも上げらせて頂きました!
テーマはよくある異世界転生系ですが、見る人を飽きさせない独特過ぎる個性を魅せていきたい
と思っております。投稿頻度は不明瞭にはなりますが、必ずや成就させたい目標の作品ですので、
暇潰し程度に読んでいただけると嬉しいです!では、御楽しみ下さい……
命。此の世には命と呼ばれる物が有る。時に其れは生物に宿る生命を、また、時に其れは事柄の最重要、其れが無ければ、色鮮やかさを質を失う要素を指す。
此の星には、人類が存在する。全地上で最も高い知能を持ち、自ずと――否、何人もの仲間と協力し、自らの生活空間を創り出した。まさしく、生物類の最終進化形。そんな人類にも、失えば活動を完全に停止させられる生の源――即ち命が有る。
今から話す物語は、一度終わった話。然し、個性を併せ持つ少年少女には、より鮮やかな「命」が与えられる。どこか本物ではない妖しさを、若しくはどこか変に青臭い人間らしさを、彼らは持っているだろう。
命が命を繋ぎ、命が命を刈る――命が紡ぐ物語。
――語り継がれて欲しい、この命。一、少年の命。
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或夜。場所は都市に当る。其処に一人の少年が歩いている。その表情、生気を失った様。その姿、現世への興味を失った様。足音をわざと鳴らすその趣向は自己の存在を周囲に知らしめんと言わんばかりの雑踏。背の高いビルが建ち並ぶこの都市に唯、独り。都市内の煌びやかな彩光が、少年の姿を照らす。
少年は、街の表側から外れた、路地裏に入る。電子的の世界を照らしていた光も、ビルの間を通す狭い道には入ってこない。空に浮かぶ月も、その姿を暗雲に隠し、月光も裏道には差さず、其処にはただ暗闇が広がるのみだった。
少年は、日常に――人生に退屈していた。
自分に与えられた『才』が、世の謎を消していく。その運命から逃れる事はできないし、故にこの一生、終焉の時まで虚ろなのだ。
――そんな人生が、今に変わらないかと、願っていた。
願う事さえも、先に待つ運命に叶う証明等、出来ないと知っていても、初めて、願った。
――そして今、願いは叶う――。
「……ク、ククキュルルル……ギュルラララ!!」
暗闇の中に、反響した断末魔。否、其の意味を捻じ曲げても表現に欠く――絶望の奇声。
直後、路地に一筋の光が差す。次第に光は広がり、暗黒を滅して周囲を照らす。少年は自然に光の行方を目で追い、瞬時に理解する。
蒼く、人間の五感を優しく擽る暖かさと、深夜の、大気に混ざって溶ける冷たさを同時に与える光。
其れ即ち――月光。空の遥か遠くから放射される月光が、視覚を閉ざしていた空間を蒼く染め上げた。
大宇宙の象徴が姿を現せども、何等異常は無い。
――今、五感が警鐘を鳴らすのは、目前の黒い影に向けられたものであった。
呑気な考察を連ねれば幾らでも答は出る。道化。コスプレイヤー。精神異常者。変わり者。……最悪、殺人鬼というテンプレートを当て嵌めよう。
それが不可能だから困ったものだ。嫌な程に賢いこの頭脳は、目の前の「これ」を認識してくれないのだ。コンピュータの様に、脳内のあらゆる知識の中から検索した結果がこれだ。
『天才』と言われるこの頭脳が白旗を挙げたのだ。これ以上の緊張感があるだろうか。
分かっている特徴といえば、全身を黒いスーツ状の衣に身を纏い、背中にはマント。素性を判別する為の顔は、モチーフ不明の仮面に覆われている。
そして一番重要な事実――右手の刃物。法に反するその武器を黒く染め、黒光りする刃先を此方に向けている。
――素性は分からずとも、明らかな攻撃姿勢。
そこまで特徴を見抜いた結果、目前に立つ巨体が敵だと判断した。戦闘は免れられないだろう。
負ければ、恐らくは死。勝てば、退屈な日常に戻るだけ。先の結果を見越した上で迷うのは、些か狂気的だと自分を酷評してやる。
――敗北する事が、可能だったならば。
今、少年の中には、無意識の中で渦巻くものがある。「正義感」。自分の捻くれ様より、余程狂気を放つ此奴に、正義の鉄槌を下してやると。身体はそう言い放って今にも動き出そうとしている。
人体が意に反した動きをする時、恐怖を覚えたり、良くない結果が来る事を、察知できる。嫌悪感だ。
だが、この少年には、その摂理は通用しない。何故なら、彼の中には――、
「……そうか、これこそ」
嫌悪感や、恐怖をとうに超えた――。
「人生の醍醐味――緊張感!!」
少年――極 銀何は、人生の憂いから、解放された。
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少年――極 銀何は、現状殺されようとしている。
素性も素顔も知れない相手、仮に『JOKER』としておこう。ジョーカーが片手に持つのは、漆黒の身を光らせるナイフ。
身体能力が不明瞭な以上、的確な分析はできないが、十分ナイフは武器になり得る。
一方、銀何はいつも持ち歩いている『装備』は、散歩と言う野暮用で出歩くには、持ち歩いていない。
――最早、頼れるのは身に宿る戦闘技術のみ。
戦闘の火蓋は、ジョーカーが先手に出た事で落とされた。
長く奇妙な脚が地を踏み切り、砲弾の様な速度で此方に飛んで来る。
「……悪い方の予想が当たったと言う訳か」
外見のと同様に――その内に秘める能力も、人間を悠々と超えるものだった。
銀何は、音速の凶刃を蹴り上げて、受け流す。標的を追い越して後方に吹き飛ばされたジョーカーは、首だけを駆動し、此方を向く。仮面の三分の二を占める巨大な「目」の様なデザインは、不気味に紅く光り、より、大きな狂気を感じさせる。
――二発目が、来る。
ジョーカーの動きは変わる。まさしく変則的なステップを二、三回踏んでから距離を詰めてくる。どのタイミングで来るのか、規則性の無いそれは銀何には予想出来なかった。
気付いた時には、数センチ先まで接近されていた。風切り音を上げながらナイフが銀何を切り裂く――。
――しかし、既にそこに姿は無い。
つまり、銀何はジョーカーと同じ速度で攻撃を回避した。ジョーカーは空を切って、一時停止する。直後、方向転換して後方に撫で斬りを繰り出す。しかし、銀何はより後方に下がっていた。
銀何は次の行動を考える。ジョーカーの速度は人智を超越した領域にあり、次の斬撃は回避不能だ。理由は単純、周囲が狭いからだ。巨体を持つ敵を潜り抜ける位の荒業を成し遂げなければ当たる。
「クキュルルル……シャハァァ……シィィ……!」
「……やっぱ人間じゃなくねぇかこいつ」
いくら、ファンタジーを否定し続ける現実があるにしても、目に見えない物や、急速な進化を遂げた技術は実在するのだ。そんな幻想が、生物状に化けただけと思えば、何等不可思議では無いのではないか――。
と、呑気な事を考える暇は無い。相も変わらず奇声を発し続けるジョーカーだが、発音の質的に、興奮状態にあるのが感じ取れた。
妥当だろう。殺したい人間や消したい物が、ずっと自分の器官を通して認識され続ける。忘れ去って、葬りたい悪が、存在を消さない。例え正義を振り翳す人間でも、煩わしくて仕方無いのは必然だ。
何を考え、何を思って刃を振るうのかは理解に苦しむが、意地でもこの命を刈り取りたいのだなとは、嫌でも察する事が出来る。
――よって、倒さなければならない。
ジョーカーが動く。先程と比べて速度は半減しているが、人体を切り裂くには十分な威力を以て、凶刃が襲い掛かる。首元を横に払う斬撃は、屈んで躱す。そのまま次は縦振り。壁に一瞬張り付く様にして躱す。頬が浅く切られる。意識は痛覚を認識する余裕を失くす。
「――っ!」
低い位置を狙う横払いが来る。意を決して、全脚力を駆使して壁を二回登って、後方に回し蹴り。ジョーカーの仮面に命中し、ジョーカーが怯んで下がる。
――さて、ここまでは予想できていた展開だ。この先はどうする。回避は殆ど不可能、攻撃方法は無し。
格闘で挑んでも、音速の斬撃を喰らう。
この路地には月光が差しているというのに、脳内に浮かぶビジョンは暗闇だ。
――途端、頭脳は回転を止める。身体も止まる。
この命懸けの勝負に、意味を感じなくなってきた。
思考が狂っていくのが分かる。こんな事を考えてはいけないのに。あぁ……
――この勝負の決着は、付かない事が望みだ。それでも、目前の狂人は一方的に決着を強いる。ならば、自分の今の煩悩を、断つ方法は?
――嗚呼、簡単だった。考えずとも、こんなにも。
黒き刃が、風切り音を上げながら、襲って来る。刃先が向く狙いは……心臓だ。確実に致命的な臓器を刺して、死の味を堪能させる気なのか。
だが、銀何は抵抗しない。ナイフは吸い込まれる様に銀何の華奢な身に突き刺さる。目的の臓器に到達したと分かると、刃を捻って突き立てる。そして、鮮やかに引き抜く――。
紅い液体が、体の内部まで沁みて出る。軈て体外に漏れ出る。生きる力の源泉が破壊されて、エネルギーが失われる。肌の色が、急激に熱したかの様に白くなる。熱い。寒い。頭脳も身体も動かない。使い物にならない。これが死の味、人生に一回しか体験できない死の味、史上最大のスリル、煩悩を消し去る終焉、輝きが失われる瞬間、嗚呼、才能が、頭髪が、感情が、腕が、脚が、足が、顔が、胃が、腸が、肺が、肝臓が、膵臓が、腎臓が、五臓六腑――心臓、生きる為の最重要要素、生物の生の根源、全ての中心、真ん中、ああああああああああ、あれだけ煩わしくて邪魔なだけだと思っていたいのちがあああ、こんなにも惜しくて失くしたくなくて落としたくなくて離したくなくてこんなところで終われない終わらせられない終わらせてはいけない、でも終わる終わる終わる落ちる落ちる落ちる落ちるどこか別の世界へとこの退屈を一片たりとも残さずに消し去る新世界へと天国の様な希望へと地獄の様な絶望へと虚無を詰め込んだ暗闇へと落ちて昇って落ちて落ちて昇れずに落ちて堕ちておちておちてあああああああああああああああああああああ命があああああああぁかがやきをうしなってああああほしになってああああぁぁぁぁぁぁぁぁぎんがのはじにきえてけずれてなくなってきえて――
――そして、極 銀何はやっと終わる。
少年は最期に、こんな事を思っていたと言う。
――嗚呼、まるで何ともこの人生、――が無い――
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或昼。少年は立つ。活気に溢れた街の真ん中に。
少年の立ち位置は、例える所では「道路」に見える広い幅の長い砂利道の上だ。周囲を見渡すと、四足歩行の動物が、車輪の付いた箱を運ぶ光景が見られる。
動物の速度は、重荷を背負っている故に速くはないが、人間を圧倒する大きさの体を持っている為、後ろの座席を加えた重量と激突するとなると、重傷は確定した様なものだと感じる。
日本の何処とも、――否、日本どころか外国の何処と見比べても見当が付かない景色。そんな「異世界」の様な場所に、少年が一人、立ち竦んでいた。少年は辺りを軽く、ゆっくりと見渡して、そして呟く――。
「さて、ここはどこだろう?」
少年――『二機目』極 銀何は笑顔でそう言った。
……と、こんな感じで序章でした!
少しでも「面白そう」と思った方は、次回の投稿時にも読んでいただければ嬉しいです!
その内、各キャラクターの設定も上げたいなと考えていますので、宜しくお願い致します。
ではまた、次の機会に!