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8.魔力についての基礎知識、な話



「……う、うん、そうだね。ごめん、脱線しちゃったね」


 いえ、大丈夫です。

 思ったんですけど、俺の魔力が多すぎて問題だっていうんなら、それをどうにか減らせないんですか? こう、ちょちょいと削るなり縮めるなりして。


「それは……たぶん無理。というか、意味がない」


 意味が、ない?


「君はどうやら魔力というものを誤解しているみたいだ。フィクションを情報源とした半端な知識が理解を遠ざけているのかな。ともあれ説明すると、魔力なんていうものは、実は存在しない」


 はっ?

 いやいや何言って。だってこのもやっとしたヤツが……あれ? なくなってる。


「それは魔素。さっきからちょっとずつ引込めてたよ」


 魔素!

 知ってます! マナってやつだ! 魔法の源!


「うん、まぁ、間違ってはいないけど……えっと、たとえば『体力』ってあるだろう? 運動するには体力が必要。なくなったら動けなくなる。乏しい人は激しい運動ができない。だけどこれは、体内に体力という物質があってそれを消費しながら動いている、ということじゃないよね。それは食べることで体内に取り込まれた各種栄養素から作られる熱エネルギーの役割だ」


 おう?

 おう……つまり、魔力って。


「実体のない概念、そういうことになるね。実際に働いているのが魔素」


 え、じゃあ、魔素って、魔法的な栄養素の略?


「略っていうか、まぁそういうこと」


 マジか。イメージが壊れる。


「壊れていいじゃない、間違ったイメージなんて。とにかくこの魔素、何百何千種類とあるこれらを自らの内に取り込み、保持し、分解結合させて、求める結果へと至るための力に変えて行使する――これら全てをひっくるめた、個人の能力の強さ、大きさを、僕たちは魔力と呼んでいる。……体力より知力の方がイメージが近かったかな?」


 あー……


「で、この魔力だけど……魂から細い糸を伸ばして、それで小さな粒を扱うさまを思い描いてごらん。この糸を一度に多くのことへと向ければ向けるほど、リソースの消費が激しくなるんだ。二本なら三倍、三本なら五倍、五本なら一〇倍って具合にね。逆にいうと、これをすることで総合的な魔力量は相対的に小さく、弱くなる。わかるかい?」


 ……なんとなく。


「うん。そしてこの性質にこそ、君のその膨大な魔力の秘密があると僕は見る」


 おう? というと?


「僕を含めたこの世界の人たちは、とても多くのことに魔法を使いながら生きている。考えごとをしたり、物事を観察したり、高ぶった気を静めたりといった高度な精神活動はもちろん、何かを見聞きしたときに起こる、ほんの些細な心の動きまで、本当にありとあらゆることを、魔法で補助しながら行っているんだよ。人との対話や機械の操作のような考えながら行う動作にはさらに多くの繰糸が必要になる。生理魔法というんだけどね」


 そう、なん? そんなに?


「別に怠慢なわけじゃないよ。魔素の豊富な環境に育てば自然とそうなるんだ。だけど君たちはそうじゃない。それらのほとんどを脳の物理的な働きだけで済ませることができる。本来大きく削られているはずのリソースを別のことに回すことができる。肉体の機能だけでは実現が難しい、いわゆる魔法らしい魔法に、とかね。糸一本一本も太くできるから出力も得られる」


 おー……ということは、俺だけじゃなく?


「たぶんね。地球の他の人たちもだいだいみんな、この星の僕たちから見れば大きな魔力を持っているということになるんだろう。もしかしたらガイアさんの狙いはそれなのかもね。魔素の循環を最小限にまで絞ることで、君たち地球人類を精神的に強化しようという。当てずっぽうだけど」


 えぇ……なんでそんな。

 や、でも。あの黒服さんたちを見た限りじゃ、地球人と比べて精神的に弱いとか、そんな風には見えませんけど。


「表面的にはそう見えるだろうね。でもそれは魔法で底上げした結果なんだよ」


 はぁ。生身と自動車で競争して互角、みたいな感じですかね。

 なるほど、異世界人は魔力が多いというありがちな設定にはそんなカラクリが。


「いやだからフィクションを根拠にするのはやめて欲しいんだけど」


 あ、はい。


「うん。で、その中にあって君は、覗かせてもらった記憶から考えても、平均よりはだいぶ上の方にいるんだと思うよ。一〇人に一人か、一〇〇人に一人か。一〇〇〇人まではいかないかな」


 おー……

 でもちょっと待ってください? 今の話だと、地球にも魔素は、一切ないというわけではないことになります?


「一切ないならそれこそ死の星さ。生命の維持に必要な分だけは解放されているはずだよ」


 じゃあ、実は地球にも魔法が?


「もちろん。例えば……ほら。この、アリとかハチとかって子たち。昆虫類の中には魔法を活用している種類がいるだろう?」


 えっ。


「え、って。まぁ気付かないものなのかな。同族間だけでの伝心、テレパシーの魔法とかだし。あと一部の植物が栄養づくりの補助や水の吸い上げに使ったりするみたい」


 知られざる生命の神秘。

 マジか。他には。人間では。


「えーっと……稀に、霊素を感知できる子がいるぐらいかな。やっぱり燃料不足が響いてるみたいだ」


 霊素、というと確か。

 流しの、飛来神が何か言ってたな。魂の材料とかなんとか。なるほど、要するにいわゆる霊感ってやつですか。そっか本物もいたのか。うーん、嬉しいような残念なような。

 ちなみに魔素とは違うものなんです?


「僕から見ればほとんど同じだよ。言葉通り魔法の素と霊魂の素、なんだけど……うーん、説明が難しいな。質的な差異というより慣例的な区別だから、どちらかというと歴史の話になっちゃうね」


 はあ。


「まぁ大雑把に、小さくて掴みづらいのが霊素、そこそこ大きいのが魔素だと思ってくれていいよ。もしくは、物質でいうところの有機物と無機物みたいな感じ、とか」


 ほう。

 んん?

 えっとじゃあもしかして、魔法で人間の魂を作ったり、なんて。


「できるけど。まともな人はまずやらないね」


 あ、はい。


「いや、人工精霊がそれに当たるのかな? お察しの通り、君の世界のコンピューターと、機能も役割もだいたい同じものなんだけど。……物質だけで作れるって、すごいね、これ」


 ですか。


「……だいぶ話が逸れちゃったね。ついでにもう一つ寄り道するけど――僕がここに来る直前に、管理局の彼らが脅えていたのを覚えているだろう? あれはそのときに君が操って見せていた魔素が原因なんだよ」


 ああ、あの白い。確かにそんな感じのこと言ってたけど。竜気、とか。危ないヤツだったんですか?


「別に危なくはないよ。このとおり、どこにでもいくらでもあるしね」


 おお、手のひらの上に光の玉が。魔法っぽい。


「ただ、名前は重竜素っていうんだけど、これが本当にとんでもなく重いんだ。全ての魔素の中でも断トツにね。まともに扱えるのは竜族ぐらいだと言われている。つまりそのことを、恐れられた」


 竜族って。あなた以外にも竜がいるんですか?


「そこ? そりゃもちろんいるよ。この姿が人を模したものなら、あっちは竜を模したもの、当然でしょ」


 なるほ、ど……?


「絶対的な力の象徴、というか。わかりやすい自己紹介みたいなものかな。母さんイコール竜って印象がいつの間にか広まっちゃってるからさ。あと単純に、あの姿で飛ぶのが一番速いという理由もあるし。ちなみにこっちは対話用ね。知を操り群れに生きる者たちの姿」


 ……なるほど。


「話を戻すよ。これで君も魔力というものをだいたい正しく理解してくれたと思うんだけど、そんな魔力を削ったり縮めたりということが何を意味するか、わかるかい?」


 え、あ。ああ。

 はい。えー……脳やがってるアレコレの処理を、魔法の力に肩代わりさせる、そうできるように訓練なりする……え? できるの?

「うん、そうだね。おそらくそれが正解だろうし、どういう訓練をすればいいのかわからないという点も同感だ」


 ダメじゃん。

 え、あなたにもわからないんですか? 神様みたいなものなのに。


「別に全知全能ってわけじゃないよ。僕はもちろん、母さんもね」


 そんなもんすか。


「そんなもんなの。で、生理魔法に回す魔力をどうにか減らすことができないかって研究は、こっちの人たちもかなり長く続けていて、それなりに成果も出てるけど、逆となるとね……とりあえず君の脳を解析して、それをもとに訓練メニューを組んで、やってもらう……いややっぱり無理だな」


 え、なんで。確かに時間はかかりそうですけど、できなくはないんじゃ。それに俺にはほら、飛来神からもらった成長限界解除のスキルだってあるし。


「そんなのあるんだ。まぁそれなら確かに可能、可能ではあるんだけど……今ざっと解析してみた感じだと、脳の構造をかなり大きく作り変えることになりそうなんだ。たぶん、人格が変わっちゃうぐらいの規模で。つまり君は君でいられなくなる。それじゃあ今ここで殺してしまうのと大して変わらない」


 ……だから、意味がない?


「うん」


 じゃ、じゃあ、だったらアレだ。こういう場合は、魔素を取り込んで保持して分解してどうとかっていう、さっき言ってたプロセス。これをどこかで途切れさせるというのはどうだ。どうでしょう。


「そんなことしたら死んじゃうよ」


 死。

 え、死。


「だってそれって魂の働きを止めるってことだからさ。機械じゃないんだ、一部だけを止めて他は元のままなんてできないよ」


 でも、でもじゃあ、あれ。どうすれば。


「だから、無理だし、できたとしても意味がないって」


 待って待って待つんだ。だったらアレは、どうなの。さっき黒服さんたちにかけられた魔封じの枷は。アレは魔力をどうこうするヤツなのでは。


「……ああ、なるほど」


 おっ。いけますか!


「確かにあれなら、魔素の消費と排出を促進させるだけの術式だから、魂に触れることなく魔力に制限をかけられるね。でもそのあとどうするの?」


 やった――やってない!?

 え、どうするってなんすか!?


「だって、ずっと檻の中にいるつもり? こっちとしてはそれでもいいけど、本末転倒ってやつじゃない?」


 そっ、れはっ……それは、そこは、あなたの技で。技術で。小型軽量化してコンパクトに持ち運びもOK的な改造で。いかがか。


「んー……まぁ、うん。できなくはない、けど……でもなぁ」


 だ、ダメすか。


「だって僕が手ずから改良した魔法を人間に渡すっていうのは、それこそ未達技術の供与になっちゃうし」


 そこを何とかお目こぼし願えませんか。


「自分でやるのに目こぼしも何も」


 黙ってれば大丈夫ですって。仮にバレたとしても神様の技術をかすめ取ろうなんて罰当たりがいるわけないじゃないですか。


「いや何言ってるの。普通にいるよ、それぐらいの輩は」


 あれ、マジすか。


「当たり前でしょ。人間の欲深さと探究心を甘く見ちゃいけない」


 戒め。


「え?」


 いえなんでも。

 でもそれなら、こう、流出や悪用を防ぐ安全装置的な対策を、(ほどこ)す。みたいな。


「一番簡単で確実なのは、そもそも君に渡さないことなんだけどね」


 ですよねー。


「……でもまあ、仕方ないかなぁ」


 えっ。


「抹殺や隔離なんかよりはよっぽど穏当だし、なるべく人の少ない、かつモラルの高い地域に置いて、監視と護衛もつければ、大丈夫だと思う。ただ、かなり不自由な生活になると思うよ?」


 構いませんとも! 強大な力を宿しながらも使うことは許されず封印とともに生きていくとか、めっちゃかっこいいじゃないっすか。


「……異世界の人の感性はよくわからないな。まぁ、わかった。それで行こう」


 お、おおっ! やった!


「あ、ごめん。やっぱり駄目だ」


 ぬかーっ!?






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