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2.地球に戻れなくなった話



 って、おう? 着いた? 寝てた?


「着きました。寝ていました」


 おう……

 あ、ほんとだ地球だ。地球だー。

 ……地球だ?


「地球です」


 や、なんか白くね?

 さっき見たときは、さっきっていうか、これが始まったときだけど。そのときはもっと青かったぞ? 間違えてない?


「間違いありません。天の川銀河、太陽系、第三惑星、地球です。白く見えるのは凍結している部分が多いためでしょう」


 凍結?


「氷河期に入っているようですね」


 氷河期。


「氷河期です」


 ひょうが……ひょう……

 いや、いやいやいやいやいやいやいや!

 なんで! なんで氷河期!?


「地球はおよそ十万年から十五万年の周期で寒冷な氷期と温暖な間氷期を繰り返しており、そのサイクルに狂いはありません」


 そんな時間経ってないよな!?


「いいえ、経っています。ことのおこり――私があなた方との 『接触事故』 を起こしてから、七万二二八二年二ヶ月と二十一日が経過しています」


 2多いな!?

 じゃなくて! え、ちょ、ま……まじで? 俺そんなに寝てたの?


「はい」


 はいじゃないだろ起こせよ!


「途中で起きていただいても意味はないと判断しました。これはあなたが眠っていた期間ではなく、私が移動に要した時間という意味であるとご理解ください。事故からあなた方に気付くまでの往路に六万一五六九年五ヶ月と六日、復路に一万〇七一四年九ヶ月と十一日です。残りの四日間はあなたとの会話に費やしました」


 いや……細かい数字はもういい。

 ってゆーかなんで往復でそんなに差があるの。


「急ぎました」


 あ……ああ、そっか。

 そうか、うん……

 えぇー……じゃああんた悪くないじゃん……怒れないじゃん……


「いいえ。もとはといえば事故を起こした私が悪いのです。本当に申し訳ありませんでした」


 いや、まぁ、それは。まぁ。

 でもこれ……マジこれ、どうすんの……? 俺の身体どころか人類ごと終わっちゃってんじゃんよ。


「終わってはいません」


 へ?


「人類はまだ存続しています。それに、お忘れですか? 惑星上で起こったことであれば時間をさかのぼらせて任意の状態へと回帰させることが可能です」


 そっ――! あ、え? ん!? んん!?

 待って。人類、滅亡、え? 存続?


「混乱していらっしゃいますか? 大丈夫ですか?」


 いや……いや、うん。

 大丈夫。

 待ってくれ。ちょっと待ってくれ。大丈夫だ。整理する。


「わかりました」


 えっと……時間は、戻せる。俺は元の時代に戻れる。


「はい」


 地球は――いや人類は、地球はこんなんなってるけど、まだ生き残ってる。


「はい」


 ……よし、わかった。

 まずはだな、帰るのは後回しだ。その前に人類がどうやってまだ生き残ってるのか教えてくれ。気になって仕方がない。


「了解しました。まず現時点の総人口は約五十六億人です」


 意外と多いな!

 どこにそんなに。


「全体の約七三%が火星に、約一八%が月にそれぞれ移住しています」


 あ、テラフォーミング、なるほど。


「残りのほとんどが地球の地下と海底、および衛星軌道上に都市を築いて生活しており、地上で活動しているのは一%未満です。また冷凍受精卵やデータ化された人々を搭載した移民船団が移住可能な惑星を求めて外宇宙を複数航行中であり、これも『生存』の範囲内に含めるのであれば、約二十二億がプラスされます。データ人格は電磁波の形に加工、調整され、宇宙の各方面に照射されてもいるようですが、これは彼らが想定している地球外知的生命体に自らの存在を流布するための措置であり、人類そのものであるとは見なされていません」


 おう、SF……

 思ったよりいろいろできてるんだな。


「氷河期の到来は予測されたものであり、また気候変動自体も人類の観点からすれば非常に緩やかなものであったため、対処のための時間的余裕は十分にあったようです。あなたがイメージしている、いわゆるディザスタームービーのようなことにはなりませんでした」


 なーる。それで今と――いや二十一世紀の人口とそう変わらんのな。


「ですが、人類選別委員会と呼ばれる組織の公式発表では、七億人程度とされています」


 急に少なっ!

 なんだよその物騒な組織。ディストピアかよ。


「あなたの知識の中で言うなら、国際連合に近い組織です。『正当な人類種の存続と繁栄』を基本理念として活動しています。彼らが『改造人間』、もしくは『亜人』と呼んでいる方たちが統計から排除されているため、この数字となっています」


 改造、亜人て。

 何その心惹かれる響き。


「寒冷化や移住する先の環境に適応するため、あるいは各種作業に従事させるため、機械的、遺伝子的、霊的な改造を加えられ生み出された方々ですが、『基準人類』と呼ばれる方々との交配が不可能になるとこのカテゴリーに組み込まれるようです」


 ええー……いやまぁわからんではないけども。マンアフターマンってやつか。アフターじゃないか。

 ん? 待って、霊とか言った?


「はい。霊、魂の存在は二十七世紀に科学的に確信され、これに基づいた技術も数多く開発されました」


 まじかよSFにファンタジーが混ざりおったか。胸熱だなおい。


「特に、呪詛エネルギーを利用した兵器はそれ以前に最大火力とされていた核兵器に迫る破壊力を非常に安価かつ容易に得られるものであったため、開発から二年余りで個人レベルにまで浸透し、第四次世界大戦の引き金となったようです。これにより当時約九十二億だった人口は七〇〇〇万にまで減少したとされています」


 一%切ってんじゃねーか何やってんだ人類! てか第四次て!


「第三次大戦が勃発したのは二十二世紀です。ただしこれは中印戦争、アジア戦争とも呼ばれ、世界大戦にはカウントしないと主張する声もありました」


 ……ああ、うん。

 なんかもう、いいや。


「了解しました。それでは、事故当時までの時間遡行を開始します。よろしいですか」


 え?

 ……あ。そうか、うん。そうだったな、忘れてた。わかっ――いや待って。待って?


「どうかしましたか?」


 うーん……いや、それだけの歴史を俺なんかの一人だけの都合でなかったことにしちゃっていいのかなって思って……あーでも……


 んー……


 ……いや、いいや。いいか。俺一人が生き返ったところで大して変わらんよな。

 よし。うん。

 ごめんお待たせ。時間戻しちゃって。


「了解しました。遡行を開始します。――失敗しました」


 おう。

 おう!?


「拒否されました」


 拒否!? 誰に!?


「地球にです」


 ガイアぁ!!

 ちょっと待ってマジかよ、ここに来てマジかよ。


「申し訳ありません。想定外でした」


 どうにかできないの? 説得とか。


「試みましたが、聞き入れられませんでした。それにどうやら私は嫌われているようです」


 え、なんで? ぶつかったから?


「いいえ。それ以前の問題として、決まったテリトリーを持たない私のような存在は少なからず見下される傾向にあるのです。こちらの方が若輩者でもありますし、あまり強く出ることもできません」


 世っ知辛いなおい。

 てか、そうか、地球って四十六億年とかだっけ。で、あんたは三〇億とかさっき言ってたな。四十六歳会社役員と三〇歳フリーターみたいな関係か。


「…………どのような評価でも、甘んじて受け入れます。それだけのことを私はしたのです」


 あ、いや、すまん。

 そういうつもりは別に、アレなんだが。


「いえ。……それに、そうでなかったとしても、主義に反するのだそうです」


 主義。

 え? ガイアに主義とかあんの?


「いくつかあるようです。そのうちの一つ、身の上に起こるあらゆる事象に対する自身あるいは同程度の他者の介入を許さないこと、に今回は抵触するそうです」


 あ? あー……俺の縄張りに手は出させん、自分も出さん。全てはあるがままに。みたいな?


「はい。その理解で間違っていないかと」


 まじかよなんでだよ、堅物ってそういうことかよ……

 どうしても無理なのか?


「はい。意志は固いようです」


 じゃ、じゃあ、俺は?

 同程度とかってのはあんたやガイアみたいな神様レベルの人のことだよな? だったらそのレベルにない俺が話す。説得させてくれ。


「頼んでみます。……拒否されました」


 なんで!?


「地球上で生まれたあなたは『身の上に起こるあらゆる事象』に含まれるため、直接交渉それ自体がルールに反するそうです。それに、仮にあなたが了解を得られたとしても、実際に遡行の作業を行うのは私か、でなければ地球自身であることに違いはありません」


 まじか……! そりゃそうだ……!


 くそっ……だがっ……

 あー……、えー……、……………………いや。

 いやいやいや。待て待て待て。

 待って?


「はい」


 いや、あのさ。

 なんかあんたがナチュラルに地球ごと巻き戻す前提で話してるみたいな感じだから俺もそんなもんなのかな的に受け止めてたけどさ、別にそんな必要なくない? 俺らだけ、俺とあんただけが過去に跳ぶとかすればいいんじゃね? そういうのはできないの?


「できません」


 できっ――できないのかよ! なんでだよ!?

 時空を超えてさすらう存在じゃないのかよ!?


「過去に跳ぶ、それ自体はもちろん可能ですが、そのためには目標となる時点にあらかじめマーカーが打たれている必要があるのです。あなたの知識の中で例えるなら、ゲームで、セーブしていないところからは再生できない、というようのなものです」


 うわぁわかりやすい。

 そのマーカーとやらは、打ってないんだよな、もちろん。


「はい。申し訳ありません」


 いや、でも……その、なんだ。七万年前に、一度地球にぶつかってることは確かなわけだから、その時の記憶だか記録だかを手掛かりにどうにかこうにか、とかは……


「……可能、ではありますが」


 おお!


「地球の協力が不可欠です。そしてそれが得られる見込みはありません」


 おおぅ……


「申し訳ありません」


 あんたが謝ること……なのか?


「はい。仮に、ですが」


 うん?


「私が七万年前に連れ去ってしまった八四〇億の生命がこの場に全て揃っていたならば、地球も協力を断らなかった、と言っています。ですので私の罪であり、責任なのです」


 いや無茶言うなよ……かぐや姫かよガイアのくせによぉ。

 あぁもう……じゃぁ、だったら……


「はい」


 えっと……

 うぅんと……

 …………いやもう、無理じゃん。無理じゃね? どうすんの? どうすりゃいいの?


「……選択肢は、ひとまず二つあります。一つは、私の旅に同道すること」


 推すね。

 まぁそれも……いや、もういっこは?


「肉体を新たに構築し、現在の人類社会に合流することです。こちらの場合はさらに選択の幅が広がります」


 なるほど。

 てか他にないよな。

 ……いや待て? それは地球に対するあんたからの干渉ってことにはならんの?


「大丈夫なはずです」


 はずて。


「では確認します。……黙認する、だそうです」


 おお。

 基準がわかんねぇ。

 けどまぁ、認めてくれるってんならありがたく頂いとくか。


「はい」


 でも、うーん……その場合、あれだよな。作り直してもらう身体って、融通が利くっていうか、馴染めるようにカスタムとかできるよな?


「はい。加えて、受け入れてもらえるよう、私も同行して説得にあたります」


 それは……大丈夫なのか?


「はい」


 なら、お願いするかな。悪いね、何から何まで。


「いいえ。元はといえば私が招いた事態ですから」


 うん、まぁ。てか何回もそれ言わせちゃってるよな、ごめんな? わざとじゃないんだよ。


「謝ることはありません」


 そうか。でも気を付けるよ、なるべく。

 で、えっと、どうするかだけど、とりあえず今の人類の暮らしぶりを見せてほしいかな。選ぶにしても手掛かりが欲しい。


「了解しました。ではまず、二十一世紀初頭の日本にもっとも近いと思われる、火星の大都市の様子から――」






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