92 エルフの長老
2020.9.14 剣技 → 闘技 に変更しました
2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ
ニーナは、マジックバッグに入っていたバナナや、他の果物を子供たちに手渡すと、長老と話を始めた。
長老の話によると、彼らはこの付近の森で幾つかの里と呼ばれる集落をつくり暮らしており、その中心にある生命の樹と呼ばれる樹を守りつつ、森の恵みを受けて生活している種族なのだそうだ。
生命の樹の実を狙う冒険者は数多く、里自体が種族に伝わる儀式によって隠されているため、里への来訪者は極めて少なく、今回も子供が脅かされて無理やり案内させられたのだと考えていたのだと言う。
そして、今この里は北にあるオークの集落に押され、森に食料を取りに行くのが難しくなっており、里のエルフたちは飢えつつあるらしい。子供たちは、大人たちの目を盗んで里を抜け出し食料を探しに行ってしまっていたのだそうだ。オークというのは、人間よりも1まわりほど大きいブタの顔をした蛮族のことだ。
「オークって、そんなにたくさんいるの?」
「西のほうから、どんどんこのあたりに来ているようなのです。今回、里の近くに集落をつくったオーク共には、リーダーにオークウォーリヤーが居て……」
「オークウォーリヤー!ハイオークを見間違えたとかじゃないよね?」
ハイオークもオークウォーリヤーも両方ともオークの上位種ではあるが、オークウォーリヤーのほうが戦闘力は高く、同じ蛮族でも戦闘力の高いオーガの上位種であるオーガナイトとほぼ同等と言われている。
「はい、“魂の叫び”というスキルを使われたので、ほぼ間違いないかと。あのスキルはオークウォーリヤーにしか使えぬはず。あのスキルで動けなくなった我々の里の中の精鋭が5人、戦士が20人以上犠牲になりました」
「へぇ、楽しそうだ。オーガナイトと闘ってたのが羨ましかったんだよね。ね、僕をその集落まで案内してくれる?」
「集落まで?オークは100体を超えておりますぞ?」
「ああ、案内は近くまででいいよ。場所が判ったら、すぐ帰ってくれていいから」
「あの、どうして?助けていただいても何もお礼などできませぬ……」
「あは、僕は強くなりたいだけなんだよ。別にお礼なんていらない」
「厚かましいとは思うのですが、お願いがもう一つございます。実は里の娘が何人かオークに囚われております。もしかしたら他の里の娘も……」
言いにくそうに長老が付け加えた。
「ああ、わかったよ。しばらくしてから様子を見に来ると良い。とは言っても保証はできないよ」
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案内をしてくれた長老が遠くまで去ったのを見てから、ニーナはオークの集落にむかった。上空から見ると、テントのような蛮族独特の家が並び、真ん中に広場があり、それを囲むように大きな天幕のようなものが3つあった。きっとそのどれかにオークウォーリヤーがいるのだろう。1体か、2体か。ハイオークも当然いるだろう。
ニーナは、無造作にその真ん中に降り立った。オークがそれに気づいて騒ぎ出す。
【毒針】
『即死』
『魔法の矢』
『毒』
ニーナは周りのオークに様々な呪文を放ってゆく。数体は死なずに武器を構えた。それを見てニーナは舌なめずりをする。
【爪牙】
『防護』
『盾』
「ほら、オークちゃん。敵が来たよ。出ておいで!」
「ブモモモッ」
オークの1体が手近の斧を持ってニーナに突進した。彼女は軽く横に躱し、身体を回転させると、拳を振る。オークは突撃してきた勢いのまま、背中を強打され、頭から前のめりに地面に突っ込んだ。
「ふふん、一体じゃ無理だよ。いっぺんにかかってこなきゃ」
他のオークが4体、ニーナの周囲を囲む。お互いに目くばせすると、その4体はほぼ同時に斧を振り下ろし、槍で突いた。ニーナはそれらをジャンプして躱し、自分の身長よりも高い位置の4体のオークの頭部を横に薙ぐように蹴り飛ばした。
<旋脚> 格闘闘技 --- 全周囲攻撃
衝撃で巨体の4体のオークが3m程後ろに吹っ飛ぶ。
「連携がまだまだだね」
ニーナはにやりとしてそう言った。
「ブモーッ!!」
【魂の叫び】
ひときわ大きいオークの叫び声がテントから響いた。空気がぶるぶると震える。心の弱いものはこの叫び声だけで失神し、余程の戦士であっても、動きが止まってしまうという魂の叫び。使えるのは高位の蛮族だけだ。侵入者に怒ったのだろう。巨大な姿がテントから出てきた。
オークウォーリヤー、身長およそ3m。そのでっぷりと太った身体はいかなる衝撃も跳ね返すという。周りにハイオークと言われるオークの上位種を10体以上引き連れている。
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