08 ゴブリン退治
2020.4.4 魔法にルビを追加しました。
2020.4.4 スキル発動は『』ではなく【】表記にし、ルビを追加しました。
朝、マートが雑貨商フィンレイさんの店まで行くと、積み込み作業が行われていて、店員らしい連中は慌しく働いていた。
「よう、猫間に合ったな」
通用口をくぐり中に入っていくと、マートはいきなり声をかけられた。かけてきたのはグランヴィルだった。黒い鷲のメンバーの戦士で、身長はマートよりすこし高いぐらい、これぞ戦士だって主張するほど筋肉が盛り上がっていた。
「アニスにしっかり頼まれたからな、楽しみにしてたんだぜ。道中はみっちりしごいてやるからな」
マートは暑苦しさにすこしげんなりとしたが、いい機会なんだと自分に言い聞かせた。
「ああ、お手柔らかに頼むよ」
そして、アニスとクインシーもいたので2人にはかるく挨拶しておく。他に冒険者ギルドで何度か顔はみかけたことのある人間が2人出発を待っていた。そこに立派な服を着た男と、革鎧を着た2人の男がやってきた。
「皆揃っているか?私はフィンレイだ。こっちはうちの店の警備隊長スティーブと副隊長のジェラルド。護衛はここにいる2人の指示にしたがってくれ。アニスたちは何回も頼んでいるから大丈夫だな。ん、新顔が1人いるのか」
「はい、去年から斥候が1人交代しました。目が良いんで安心してください」
アニスはそう応えた。
「ふむ、良いだろう。冒険者ギルドからはキミたち2人か。軽く自己紹介してくれ」
そうすると、見覚えのある2人が順番に自己紹介をした。最初はフードをかぶった男だった。
「魔法使いのフランキー、第二階層まで使える」
最後に、黒い髪を伸ばして後ろでまとめている男が名乗った。
「戦士のジェシーだ。2人で仕事をしていて、一応俺がリーダーだ。2人ともランクC」
「アニスだよ。戦士兼神官。うちのメンバーは戦士のグランヴィル、斥候のクインシーとマート になる。よろしく頼むよ」
アニスはメンバーを代表してそう応え、ジェシーと握手をした。
スティーブは、皆にどういったことが得意で何が不得意なのかを簡単にヒアリングして、移動中の隊列や夜営のときの警備の組み合わせなどを指示し、マートはグランヴィルとペアで隊列の先頭にあたり、夜営は真夜中の当番となった。
「ふむ、ペアとは丁度いいな。夜営しながら、太刀筋とかをみてやるよ」
グランヴィルがそう呟いて、マートににっこりと微笑んだ。マートも微笑み返したが、唇の端はちょっとヒクついてしまったのだった。
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旅は二日目から雨が降り出した。この時期は雨が多くなるので仕方ないことだが、馬車が轍にはまって動けなくなったりすることが増え、なんども手伝いに借り出されることになった。
「ほら、いくぞ!」
「せーの!」
雨に打たれながら、マートはグランヴィルやジェシーと一緒に馬車を押す。御者はそれにタイミングを合わせて、木切れや藁を車輪の下に詰め込み、ロバに合図して泥沼からなんとか抜け出した。
「ふぅ……。今日はこれで3度か。きっついな」
「まぁ、そう言うなよ。これも含めて今回の仕事さ」
マートが愚痴ると、グランヴィルが背中を叩きながらそう言った。
「今年はいつもより雨が多いのかねぇ。なんとなくこういった事が多い気がするけどさ」
アニスはそんな事を言いながら、次の馬車が同じ轍に嵌ってしまわないように御者たちに合図をだした。そうやって喋っているとマートは藪になっているところで茶色いものがなにか動いたような気がした。雨が降っているとどうしても視界が悪く、物音も聞こえづらい。
「ちょっと、何か動いた気がする。見てくる」
マートは他のメンバーにそう告げると、そちらのほうに走り出した。
低い木立がならび見通しは良くない。その中に深緑色の肌の人間型のモンスターが居た。ゴブリンだ。気づく範囲で5体居るのがマートには判った。彼の剣の腕からすると、すこし相手をするには厳しい。今までなら石でも投げてひきつけたあと、味方のところに釣りだすのだが、今回は投石の代わりに新たに手に入れた呪術や魔獣スキルをつかってみようと考えた。
『痛覚』
呪文の名前は周りには聞こえないように小さく口の中で唱える。関係あるかどうかわからないが、対象のゴブリンの右脚の小指の先を意識してみた。どこまで有効かというのは半信半疑だったが、対象のゴブリンが右足を抑えてうずくまったところを見ると有効っぽかった。
ゴブリンたちはマートにまだ気付いていないようだった。呪術はどこから使われたのか判りにくいらしい。
【毒針】
5匹が向かってくるかと思って身構えていたマートは、ゴブリンの反応に予想外の余裕ができ、もう一体に、声を抑えて毒針スキルを使った。距離があるので顔を狙って撃つ。プシュッという音がした。当たった。1体のゴブリンが片手で顔を抑えつつ、マートのいるほうを指差した。だが、一体はまだ足を押さえているし、毒を受けたほうも指差しはしたものの身体が思うように動かないようでゆっくり膝をついたので、こっちにくるのは3体だけだ。
「ゴブリンが居たぜ、もうすぐ来る」
マートはそう警告し、グランヴィルとアニスは身構えた。
『魔法の矢』
その2人の横を、魔法の矢が3体のゴブリンに向かって飛んでいった。魔法使いのフランキーだ。魔法の矢は3体とも命中し、プギッとゴブリンは喚くと、くるっと後ろを向いて逃げ出した。
マートはその様子をみて、逆にゴブリンたちを追いかけ始めた。ここで逃がすとまた、後で襲ってくることがあるかもしれないからだ。グランヴィルも同じように追いかけ始める。足を押さえていたゴブリンは回復したのか一緒に逃げ始めた。藪のなかで毒で倒れていたゴブリンはまだ死んでいなかったが、マートはそいつに止めを刺し、グランヴィルと共に残り4体のゴブリンも倒すのに成功した。
「よし、ゴブリン5体ぐらいなら楽勝だな」
グランヴィルとマートはハイタッチして、討伐証明部位である耳を切りとり、ジェシーたちのチームと分け合ったのだった。
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