82 ヨンソン山探索1
2020.10.24 サラマンダー → サラマンドラ
「おかえり、待ってたわ、猫。杖の素材採りに行くわよ」
調査隊が無事王都にたどり着き、宿屋の1階にある酒場でマートとアレクシアが夕食をとっているところに現れたのはジュディだった。彼女はマートたちが暮らすリリーの街を含める一帯を治めるアレクサンダー伯爵の次女であり、王都の魔法学院では、1、2を争う才媛でもある。
「は?お嬢は知ってるだろう?俺達は今日王都に着いたばかりなんだ。しばらくは休みだ」
「そう言わないでよ、あなたたちが帰ってくるという話を聞いて、お父様の所には帰らず、ずっと王都であなたの帰りを待ってたのよ。ヨンソン山の火口にいるというサラマンドラから髭を貰うには、精霊魔法使いの助力が必要なのに、ずっと出かけてるんだもの。私の夏休みはあと2週間しかないの。お願いっ」
樹齢100年を超えたヤドリギの枝、リュンクスの柘榴石、そして、サラマンドラの髭。たしか、ジュディは自分に最適な魔法の杖を作るのに3つの材料を求めているという話だった。そのうち、ヤドリギの枝は入手済みだ。
「リュンクスの柘榴石もまだなんだろ?先にそっちを探せば良いじゃないか」
「そっちは、商人から入手できそうなの。残るはサラマンドラの髭なのよ。今回の休みを逃したら、次は冬休みになっちゃう」
「マート様、伯爵令嬢であるジュディさまの依頼なのです。報酬は弾みますので、是非お願いいたします」
伯爵令嬢であるジュディの横で、そう言ってお辞儀したのは、彼女のメイドであるクララであった。
マートは口をへの字に曲げ少し考え込んだが、一つため息をついて頷いた。調査隊の帰路、ワイズ聖王国の領地に入ってからは、ずっと野宿ではなく宿屋に泊まっていたので、それほど疲れが溜まっているわけではない。
「わかった、でも2日休みが欲しい。3日後王都から出発。それで良いか?」
「2日!2週間しかないのよ?間に合わなくなっちゃう。じゃぁ、1日だけ」
「……仕方ない。わかった」
「やったぁ、お願いね」
ジュディは元気よくそう言った。その横でクララも頷いている。
「クララ、護衛は?まさか、俺とお嬢の2人ってことはないよな?でも、シェリーは無理だろ?」
「はい、シェリーさんは一週間は報告にかかるでしょうから難しいですね。代わりに騎士を派遣してもらうようにお願いしています」
マートの言葉に、クララが応えた。
「そいつの斥候の経験は?ああ、御者のジョンだっけか?前の時一緒だったあのおっちゃんならある程度目配りできそうだが」
「騎士は護衛役になってしまいますね。馬車の御者は前回と同じジョンになります」
「そうか、悪いがヨンソン山は行ったことが無いからな。俺だけで斥候は大丈夫なのか判断できない。もう1人分報酬がでるのなら、安全策をとって調査隊でも一緒だったこのアレクシアを連れて行くんだが、どうだ?」
「ジョンによると中腹まではモンスターなどはほとんど出ないそうです。火口付近についてはほとんど情報がないので判りません。そちらのアレクシア様は、マート様の彼女ですか?」
クララがそう聞くと、アレクシアは少し赤くなり、ジュディはちらっとマートの顔を見る。マートはナイナイとばかりに手を振った。
「仕事上のパートナーだけど、すごく世話になってる。斥候としての腕は保証するぜ」
その様子を見て、クララはなにかを察したようだった。
「マート様は悪い人ですね。申し訳ないですがマート様だけで結構です。おそらく見張りはジョンができますので」
「そうか、ならわかった。アレクシア、悪いけどリリーの街まで先に帰っておいてくれ」
アレクシアは落胆した様子だったが、マートの言葉に頷いた。
「はい、わかりました。先に帰ってお待ちしておきますね。気をつけて行ってきてください」
読んで頂いてありがとうございます。
お盆ということで、この章は毎日更新頑張ってみたいと思います。