81 最終日
2020.11.4 誤り訂正 魔龍連盟 → 魔龍同盟
最終日、マートは慰労会を抜け出し、ヘイクス城塞都市の市場にやってきていた。アレクシアも一緒である。
「マートさん、本当によかったんですか?」
「ああ、どうせ、貴族同士の堅苦しい挨拶と自慢話だろ、大丈夫さ」
「結局、抜け道については、何も動きがありませんでしたね」
「無いな。自分たちだけの功績にしたくて、俺達が帰るのをまってるんじゃねぇかな」
「まぁ、私はどうでもいいです。こうやって、マートさんと2人でお買い物してるほうが良いですね」
「買い物って言っても、明日からの食料とかで、あとは精々、クランの連中への土産物とかだぜ?」
「そうですけど…。あ、マートさん、あれ素敵じゃないですか?」
アレクシアが指差したのは、赤い柘榴石、それも比較的透明度の高くてガーネットと呼べそうな宝石がトップに飾られたネックレスだった。この付近の山地では元々柘榴石の鉱脈があって、特産品らしい。
「だな。丁度いい。今回アレクシアには世話になったからな。買ってやるよ」
「えっ?そ……そんな。い……いえ……」
とっさに言葉が出てこないアレクシアを横目に、マートはさっさと対価を払い、アレクシアの首に架けた。
「ふわぁ…ありがとう…ございます」
「悪いけど、他の連中の分を見繕わないといけないので、手伝ってくれよ」
「もちろんです!」
「男連中は酒で済むから楽で良いんだけどな。女性陣はいろいろとなぁ。好みもあるし、似たようなのを贈ると比べたりして煩いし難しいんだよな」
「あはは、そうですね。ああ、あの木彫りの女の子の人形とかどうですか?」
「ああ、アンジェに良いかもだな。いや、あいつは最近色気づいてきたからアクセサリのほうが良いか。エバのほうが逆に喜んでくれるかもだな。よし、買おう」
そんなことを言いながら買い物をしている2人に近づいてくる女性が1人居た。
「こんにちわ、猫」
そう言って話しかけてきた相手はクローディアと名乗ったスリだった。
「よう、クローディア。やっぱり話しかけてきたな」
「そりゃそうでしょ。私がいることは気付いてたくせに」
「……あの、どちらさまでしょう?」
親しそうに話をする2人の様子をアレクシアは不思議そうに見て、そう尋ねた。
「ああ、あの時のスリだよ。輜重の連中の財布を抜いてった奴さ」
「やっぱり。そして女性には相変わらず甘いんですね」
「まぁ、そう言うなよ。それで、クローディア、今日は何を話しに来たんだ?」
「良いんですか?このままお話してお友達に知られても」
彼女はアレクシアのほうをチラッと見た。
「どうせ、わざとなんだろ?まぁ良いさ。なっ、アレクシア」
マートは少しふざけた感じで片目をつぶって見せた。
「ええ、大丈夫ですよ。何があっても」
「じゃぁちょっと、落ち着いて話ができるところはあるかな」
-----
「私の瞳や猫の瞳をみて、アレクシアさんは、どう思う?」
酒場の2階の個室を取ると、彼女はアレクシアをじっと見て、そう尋ねた。
「ああ、クロ-ディアさんの目も縦長の瞳なんですね。いえ、少しは変わってるのかなと思いますけど、それだけですね」
アレクシアは、どうしてそんな事を聞くのかという感じでそう答える。
「ふぅん。じゃぁ、身近で緑色の肌の人とか、鱗がある人とかはいた?そういう人達のことをどう思う?」
「そういう見世物があるのは知っています。私自身はふぅん、そうなんだっていう感じですけど」
「そうなのね。猫は恵まれてるわね。私の場合は、この瞳のせいで、母親は苦労して苦労して、その結果、働きすぎて死んじゃったの。幼い頃はこの瞳のことがずっと嫌だった。疲れたときに見る変な夢も嫌い。でも、生きていくためになった冒険者で、なんとか一人前になって、ステータスカードを手に入れてからすべてが変わったわ」
「最初、前世記憶って何かわからなかったけど、わたしに特別なスキルがあるんだっていうのは判った。ああ、アレクシアさんは前世っていうのはわかる?この世界は、死んだ後、魂は消滅するんじゃなく、次はまたどこかで生まれるっていうのの繰り返しがあるみたいなの。それが生まれ変わり。そして、生まれ変わる前の記憶が残ってることがあって、それが前世記憶っていうものみたい。この前世記憶を持つこと自体稀だけど、その中でもさらに稀なケースで蛮族や魔獣から人間に生まれ変わりしているものがあるの。その場合、前世の記憶に影響されて、身体にその特徴が表れたり、蛮族や魔獣特有のスキルを持つの。私や猫もそれなのよ。そして、それが、ステータスカードには書いてあるのよ」
「猫がどういう前世記憶を持つのかは知らないけれど、その目からすると、猫かそれに近い蛮族か魔獣の生まれ変わりで、私のした事が見えたとすれば、たぶん普通の人より格段に目がいいのでしょうね。目が良かったり、耳が良かったりっていうのは、魔獣や蛮族によく見られるスキルなのよ。鋭敏視覚とか鋭敏聴覚って言うんだけどね」
「それで、何が言いたいんだ?」
長い説明に少しうんざりした様子でマートは先を促した。
「猫に、魔龍同盟に入らないかなとお誘いに来ました」
そう言って、彼女は指輪を見せた。半ば水没した遺跡の奥底で前世記憶がリッチと言っていたあの男が持っていたのと同じ紋章が描かれたものだ。
「私達魔龍同盟は、身体特徴で迫害を受けてきた者や、その協力者が集まって作られた組織。今まで、前世記憶って、ステータスカードを作らないとわからないことが多くて、ステータスカードを作るって凄く高いから、今までは猫みたいな冒険者ごく数人が恩恵を受けていたに過ぎなかった。でも、私達はそれを拡げ、前世記憶を持つであろう人々に積極的に勧誘しているの。そのおかげでいろんなことが判ったりもしているわ。人数が多くなれば、お互い助け合ったりもできる。ワイズ王国にも似た組織があるって聞いたことがあるけど、うちのほうがきっと人数は多いし、力もあるわ。あなたは前世記憶を持った冒険者として、私よりも戦うことが出来るでしょう。他の前世記憶を持つ虐げられたものたちを救う気は無い?」
「なるほどな」
マートはしばらく時間を置いて首を振った。
「悪いけど、最近変にこき使われてな、全然金は余って無いんだ。それに、もし、人助けをする気になったら、リリーの街の孤児院に寄付でもするよ」
「孤児院……そんなところじゃなく、私たちと一緒に」
「そんなところ……」
彼女の言葉に、マートは再び首を振る。
「虐げられたり、苦労しているのは前世記憶を持つ連中だけじゃない。旅芸人の一座にいたんで、見世物にされた連中なんてのも良く知ってる。そんな事を言い始めたら救うべきなのはもっとたくさんいると思うぜ?孤児院なんてのもその一つさ。それを、そんなところって言う奴とは助け合うことはできないな」
「そんな事を言うんですね。私たちが偉くなってから、仲間にしてくれって言っても遅いですよ?」
「ああ、偉くなりたいわけじゃねぇしな」
クローディアと名乗った少女は、マートのその言葉を聞くと、ガタンと音を立てて席を立ち、部屋を去っていったのだった。
ニーナ:「どうして、さっさと抜け道つぶしちゃわないんだ?突っ込んでいけばすぐだよ。何か苛々する。」
マート:「金ももらえないのに、そんな働いてどうするんだよ。メンドクサイから止めようぜ。」
ニーナ:「せっかく、強そうなのと闘えそうなのに…。帰り道はしばらく別行動でもいいかい?ストレス解消に島でちょっと遊んでる。真理魔法も勉強したい。」
マート:「まぁ、帰りは何もないだろうから良いか。しかし、ほんと真面目というか貪欲というか…。」
いつも読んで頂いてありがとうございます。
次は、新章で、ジュディの魔法の杖の材料探しです




