80 継続調査2
2020.9.14 剣技 → 闘技 に変更しました
『感情操作』
【毒針】
『毒』
マートは、他の2人に気付かれない程度に呪文やスキルを使って、オーガナイト1体とオーガ2体の敵意を集めたり、麻痺させて弱体化したりしながら、攻撃をいなし続けた。
アレクシアの協力も得て、牽制程度にしか攻撃はおこなわず、確実に防御をすることを選択したマートは粘り強く続け、2人で3体を抑えつづける。
マートが守りの戦いをしている間、シェリーともう一体のオーガナイトとの戦いは白熱していた。何十合打ち合っただろうか。オーガナイトの膂力は格別で、かなりの修行を積んだシェリーであっても何度も吹き飛ばされそうになったが、その度に馬は体の向きを変え、その勢いを殺し、相手の力を削ぐことで上手く防いでいた。だが、その力はほぼ互角で、なかなか状況は好転しない。
「アレクシア、こっちよりシェリーの援護を」
マートはオーガナイトの剣をかわし、1体のオーガの剣は右手の氷の籠手で防ぐと、そう声をかけた。
「はい」
躊躇無くアレクシアは標的をシェリーと戦っているオーガナイトに代え、その顔を狙って矢を放つ。
<速射> 弓闘技 --- 2連続攻撃
オーガナイトの左手の盾が上がる。
「よし、そこ!」
人馬一体となったシェリーの突きが、その盾の動きの隙を捉え、オーガナイトの左肩を貫いた。大きくその肉を削ぐ。ぐぎっ!とオーガナイトが唸る。
<速突> 槍闘技 --- 3連続攻撃
一度大きく揺らいだバランスを見逃すシェリーではない。怒涛の突きが3連、鮮やかに決まる。血しぶきを上げてオーガナイトが一体倒れた。
「よし、1体。マート殿待たせたな」
「さすがシェリーだ。残りはさっさと行くぜ」
『氷結』
オーガナイトとオーガの頭が氷に覆われた。
シェリーとマートは目配せをして武器を構える。
バキッ
オーガナイトは自分の額を自分の盾にぶつけて早々に氷を壊そうとしたが、その隙にマートは剣を突き立てる。
<破剣> 直剣闘技 --- 装甲無効攻撃
シェリーは馬を走らせ背後からほぼ同時にオーガナイトの身体を貫いた。
<突破> 槍闘技 --- 移動突撃攻撃
アレクシアの弓もオーガナイトの硬い皮膚を貫く
<貫射> 弓闘技 --- 装甲無効射撃
オーガナイトは両方の攻撃に対処しきれず、大きく手を天にむけて広げるようにして断末魔の痙攣をすると、ドゥと地面に倒れた。
「ふぅ、やったな!」
シェリーの笑顔は晴れやかだ。マートとアレクシアも握りこぶしを作ってそれに応え、残ったオーガの始末をした。
「しかし、オーガナイトまで出てくるとは。ライナス卿が討伐していた集落では上位種の存在の報告はなかったはずだ」
「ああ、聞いた事は無かったな。調査隊で上位種とたたかったのは私達だけだろう」
シェリーはどちらかというと、上位種と戦って勝てたことが嬉しいらしいが、マートは首をかしげた。
「まるで、俺達が探索しているのを知っていて、それを邪魔しに来たみたいなタイミングだった。いや、まさかな。それだと、蛮族の中にそこまで頭の回るのがいるってことになる。蛮族って部族単位でしか動かないんだよな?オーガナイトってことは、かなり大きな部族でしか見られないはずなんだが……それも2体」
「マート殿。細かい事を考えるのはライナス卿やブライトン卿の仕事で、私達のすることではないぞ。まずはこのオーガナイトがどこから来たのかを調べるのが良いのではないか?」
彼は少し苦笑を浮かべ、それから頷いた。
「ああ、そうだな。オーガナイトが来たって事はかなり大きい集落があるはずだ。アレクシア、討伐部位を確保したら行くぞ。シェリー、怪我は無いか?」
シェリーは怪我という言葉で思い出した。
「マート殿、神聖魔法を使っていたな?そなた精霊魔法の他に神聖魔法も使えるのか?」
「ああ、ほんの初歩、治療と防護だけだ。ないよりはマシってぐらいしかない。言うとややこしくなるし、治療に駆り出されたりするから、内緒にしておいてくれよ」
「わかった。だが、防護と治療呪文があるというだけで安心感がまるで違うからな。もし、治療ができるのならすこし怪我を見てくれるか?」
「いいとも。すこし岩陰に移動しよう」
オーガナイトの死体から、所持品を調べたり討伐部位を切りとったりしているアレクシアの横で、シェリーは革鎧を外した。
「化膿止めや痛み止めは塗っているのだが……」
シェリーは無造作に上着、そしてシャツを脱いだ。肌が眩しい。
「ここに到着した日、オーガの連中を調査隊の騎士たちと一緒に駆逐したのだが、いつもは金属鎧なのでな。革鎧だとどうしても守りが甘くなってしまった。不覚にもその時にわき腹に一発貰ってな」
シェリーは胸に巻いた晒を解く。
「ああ、骨もやられてるのか?よくそれで我慢して戦っていたな。アレクシアにも隠してたのか?」
マートはシェリー自身で大きな胸をすくい上げるように持ち上げてもらいながら、わき腹の骨を確認する。触れるとシェリーは痛みにうめき声を上げた。
「ここの骨か…。わかった」
マートは患部に手を触れ神聖呪文を唱えた。
『治癒』
マートが呪文を唱えると、シェリーの肌のアザがすこし薄くなった。
「おお、すこし痛みが引いた。助かったぞ」
「あと3日ぐらい治療すれば大丈夫だろう。もう患部は判ったから、鎧の上からでも大丈夫だ。使えるのを先に言っておけばよかったな。悪かった」
「いや、切り札は隠しておくものだ。仕方あるまい。先ほどの戦いでもマート殿には余裕が感じられた。精霊魔法の使い方も凄かったが、他にもまだ切り札があるのだろう?」
シェリーは器用に晒を巻きなおし、身支度を整えながら言った。
「ああ、それは……」
マートが何か言いかけたが、それをシェリーは遮った。
「言わなくて良い。私はそなたを信頼していると言っただろう?私は隠し事は苦手だからな」
「わかった、ありがとう、シェリー」
「これからも、頼むぞ」
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オーガナイトの足跡をたどっていくと、東西に連なる山脈の僅か20㎝程の幅しかない風の強い断崖絶壁に沿った道につながった。馬も通れないような険阻なものだ。だが、マートの目には何十、何百体もの蛮族が通り抜けた痕跡が見えた。
「ここだな」
マートが指差すと、シェリーは唖然とした表情でその道をじっと見つめた。
「こんな道を越えてきて居ているのか?」
「ああ、ゴブリン、オーガ、オーク、様々な蛮族が通り抜けたような足跡がある」
「馬は無理だな。ということは攻めるのは難しいか」
「俺にはわからないが、少なくとも俺はこんな道で蛮族の上位種と出会いたくは無いな。ただ、こちら側に砦を作って守ることは出来るかもしれない。まぁ、そのあたりは俺達が考えることじゃないな。戻って報告するか」
「そうですね。帰りましょう」
アレクシアも賛同し、3人は一旦ヘイクス城塞都市に戻ることにしたのだった。
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