76 ヘイクス城塞都市
誤字訂正)ラシュビー → ラシュピー
オーク → オーガ
2020.9.25 10匹前後 → 10体前後
調査隊は約1月半の行程を経て、ラシュピー帝国の北の守り、ヘイクス城塞都市に到着した。
この街は東西に連なる山脈の中で唯一南北に抜けることのできる峡谷に作られ、ラシュピー帝国に侵入しようとする大陸北部の蛮族たちを長年跳ね返してきた。都市の城壁は渓谷の幅と同じ東西約3キロ近くにわたり延びており、城壁の高さは30mはあると思われた。
「すげぇな」
巨大な岩だらけの地形の向こうに見えはじめたその威容に、マートは思わず感嘆の声を上げた。
「?」
「この渓谷をさえぎって、城壁が立ってる」
シェリーはマートが指差す方向をじっと見、感慨深げに言った。
「ああ、ようやく着いたのだな。私たちの目的地、ヘイクス城塞都市の城壁だよ。別名、帝国の北門。100年にわたって蛮族の侵入を阻んできたと言われている」
「ああ、そうなのか。手前の街から遠かったな」
「ああ、3日か」
「これだけの城塞があっても、隣国に助けを求めないといけないのか」
「さぁ、どうなのだろうな。そのあたりの確認も我々調査隊の仕事なのではないか?」
「ん?」
そう話しているマートの目には、城壁との間で何者かが争っているのが見えた。
「2キロほど北西に行ったあたりで何かが戦ってるぜ。人型だけど、かなりでかいな。オークかオーガ、トロールかもしれねぇ。馬車を襲っているみたいだ」
「何?どこだ?」
マートの話を聞いて調査隊には緊張が走った。この1月半の間、蛮族や魔物の襲撃は何度かあったが、常にマートは先にそれに気付いて警告を発してきた実績があり、彼の言葉を疑う者はこの調査隊にはいなかった。
人より背の高い岩が乱立し、砂嵐もあって視界はかなり悪い。馬の背で立ち上がりそちらの方向を見る騎士もいたが、その姿はまだ彼らには見えていないようだった。
「馬車は2台。かなり立派だ。周りに剣を持っているのはいるが劣勢。人型の蛮族は身長が3m程で10体前後いる」
「それ以外、付近に姿は?」
「無さそうだが、かなり視界が悪いのではっきりしない」
「よし、助けるぞ」
横で聞いていたライナス・ビートン子爵がそう声を上げた。
「ブライトン男爵は輜重隊と共にここで待機。万が一の時は指揮を委ねる。2騎残れ。私とそれ以外の配下の騎士、そしてシェリー卿は討伐に向かう。マート殿は先導を頼む」
マートは襲撃現場に向かって走り出した。その後ろを馬に乗ったライナス、シェリー、騎士たちが追いかけていく。5分程走ると、叫び声や剣戟の音が聞こえ、さらに進むと襲われている馬車が見えて来た。襲っている蛮族は、身長3m、筋骨隆々で赤い肌をしている。オーガだ。単体でもランクBにあたる強敵だ。身長と同じほどの鉄の棍棒を振り回して戦っている。襲われている側の馬車にはマートの知らない紋章が描かれているので貴族だろう。馬車を守って戦っているのは数人の騎士と冒険者のようだった。
「ワイズ聖王国第三騎士団 ライナスである。助力する」
先頭に立った彼は槍を構え、そう叫びながら、オーガの集団に突撃して行った。配下の騎士たちも彼を先頭に紡錘形の陣形を取り、それに続いていく。オーガたちの集団のど真ん中に道が開かれ、当たったオーガたちは吹っ飛んだ。
「助力感謝する。助かったっ!」
防戦一方だった馬車側の面々は喜色を浮かべ、馬車を中心に防護態勢を取り直す。オーガたちは予想外の闖入者たちに対処できず、個々では身構えるものもいたが、次々とライナス配下の騎士たちに倒されていく。残り数体になったオーガは慌てて逃げ出していった。
襲われていたのは、ヘイクス城塞都市の内政官らしかった。護衛を連れて別の街に行く途中を襲われたらしい。最近はこのヘイクス城塞都市の外側だけでなく、内側にも蛮族が出没することが増えてきているという話だった。そのため、内側にあった街は徐々に数を減らしているのだという。
マートは追跡するかとライナスに確認したが、彼はそこまでは不要と判断した。調査隊の面々は損傷の激しい彼らを護衛しつつヘイクス城塞都市に入ることにしたのだった。
ヘイクス城塞都市の街門は昼間でも固く閉ざされているようで、都市の南側は人族側の領域であるはずなのに警備はかなり厳重だった。さすがに調査隊は停められたりということはなかったが、都市の警備隊はかなりピリピリしているのが肌で感じられた。
「なんか重苦しい雰囲気だな」
マートは隣のアレクシアにそう呟いた。
「ですね。店にもあまり活気が感じられないです。物が足りてないのかも?」
「たしかに、最寄りの街まで3日もかかったし、途中で蛮族に襲われることが多いっていうのなら厳しいのかもな」
「そうなりますね。オーガ10体の群れが出没するとなると、冒険者の護衛を雇うにしても、ランクA以上のパーティになるでしょうね。荷物を運ぶのも命がけです」
「そうだよな。それだと、この都市で生活するのはかなり難しそうだ。どんどん物価はあがるだろう。都市の中で育てるって言っても、野菜ぐらいが精一杯だろうしな」
調査隊の一行は都市の西側で使われていない兵舎の一棟に案内され、マートたちも部屋を与えられた。そして、調査隊の隊長であるライナス、副隊長のブライトンは、城に今後の方針を話し合いに出かけたのだった。
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