表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/411

53 王都での尾行者

 

 それからの数日、彼らは、王都を観光して廻った。とは言え、教授が失敗すれば金がいくらかかるかわからない身なので、贅沢はできず、市場などを冷やかして回った程度だ。ところが、3人は途中で、尾行者に気が付いた。決して彼らは豪華な服を着ているわけでもないし、大きい荷物を抱えているわけでもないのにだ。マートたちは、お互いに顔を見合わせて首を傾げた。

 

「お嬢関連かな?」

 

「どうしてだい?何か心当たりでもあるのかい?」

 

「ああ、マクギガンの街で、彼女が尾行されてたことがあったんだ。その時は、ハリソンっていう彼女の出入りの商人のところに預けて終わったんだが、関係あるかなと思ってな。尾行されそうな事といえば、それ位しか思いつかない。どうするのが良いか…」

 

「今日は儀式だ。それの時には尾行は撒いて行くことにしよう。それ以外は、余程人数が多けりゃ別だけど、そうじゃなければ、あの程度の素人だから大丈夫だろう。気になるけど、手を出さずに居ようよ。対処はうまく呪いが解けてからでいいんじゃないかねぇ」

 

 彼らはそう言って、尾行者については、とりあえず手を出さないことにしたのだった。

 

 儀式については、何の危険性があるか不明というので、学院内ではなく、郊外の学院が持っている研究所の一つで行われることとなった。教授が学院から使用が許されている研究所ということであったが、マート、アニス、アレクシアの3人が到着してみると、ただの農家の家を改造しただけの、粗末な建物だった。


「王国の魔法学院教授の研究所というからには、すごい建物を予想していたんだが……」

 

 思わずマートは呟いた。

 

「そうだねぇ。周りの土地が凄いことになってるよ。焼き払われたような跡も結構あるし、沼みたいになってるところもある。モンスターとかも棲みついていそうだね」

 

「ああ、沼には何か気配があるな。スライムとかだろう。他は大丈夫そうだ。いったいあのウルフガング教授というのは何の研究をしてるんだ?祭壇をということからすると、魔法陣か魔法装置ってことか」

 

「ああ、その本人かどうか不安なんだけど、王国で魔法装置についての研究をしてる魔術師でウルフガングって名前は聞いたことがあるよ。たしか、かなり有名だったはず」

 

「うーん、どうなんだろうな」

 

 そんな話をしていると、農家の扉から、ジュディとクララ、そして当のウルフガング教授、2人の助手が出てきた。

 

「待っておったぞ。(キャット)君。アニス君、そして君は初めてみるな。いや、たしかその手のひらが黒いところをみると、アレクシア君か。よしよし、準備は万端じゃ。さっさと始めるぞ」

 

 教授に急かされて、マートたちが建物に入ると、そこには大きな土間があり、そこに張られた大きな羊皮紙にかなり細かい文字でびっしりと魔法陣のようなものが描かれていた。そして、その中心には、おおよそ30㎝程の人形が置かれている。それは女性の人形のように見えた。

 

「よし、そうじゃ、マート君はここ、そしてアニス君はそこじゃな。アレクシア君はふむ、そのあたりでよいじゃろう。黒くなった患部は全て見えるように。ふむ、ふむ。そうじゃ」

 

 教授は2人の助手に指示して、3人の位置を調整しながら、作業を進めていく。かなり繊細な調整のようで、一部魔法陣を手直しをしたりして、時間は過ぎていく。

 

「まだかかりそうか?」

 

「いや、もうすぐじゃ。ほれ……」

 

 教授が何かを口の中でぶつぶつと唱えると、魔法陣の一部が赤く光り始めた。

 

「アインス、そっちじゃ」

 

 アインスというのは助手の名前らしく、アニスの近くに立っていた男が、『起動初期処理スタンバイイニシャルステート』と唱える。別の一部が、青く光り始め、徐々に魔法陣全体に青白い光が点滅を始めた。

 

「よし、順調じゃぞ。ツヴァイ、進めよ」

 

起動主処理スタンバイメインモジュール

 

 緑色の蛍光色に魔法陣が光り、その光だけが、幻のように徐々に空中に浮かび始めた。

 

抽出開始(イクストラクト)

 

 教授がそう唱えると、マートの腕、アニスの手、アレクシアの手のひらからも、黒いもやが徐々に浮き出始めた。

 

「よし、良いぞ。そのまま、そのまま」

 

注入開始(インジェクト)

 

 教授の言葉に、黒いもやのようなものが、中心においてある人形に吸い込まれてゆく。それに合わせて、マートたちの黒く染まった部分の色が徐々に薄まり始めた。だが、それはある程度で止まり、黒いもやは人形の周りに留まり、その黒いもやはどんどん膨れ上がっていく。

 

「人形では容量が不足しておるのか。いや、ちがう。次の段階にすすめということか…。よし」

 

融合開始(フュージョン)』 

 

 人形自体がゆっくりと大きくなり始めた。最初は30㎝ほどであったものが、普通の人間のサイズになってゆき、ただの人形だったものが、実際の人間のようになり始める。マート自身は初めて見る女性だが、黒髪のストレートを長く伸ばした髪のかなりの美人だ。

 

「おお、素晴らしい。ここからが山ぞ」

 

 教授は上機嫌だが、女性の顔をみて、ジュディ、クララ、そして助手2人は何かに気が付いたようだ。顔色が変わる。

 

接続開始(コネクト)

 

 緑の魔法陣の光が、その女性を包む。そして、その光が、マートに伸び、彼をも包み込んだ。マートの腕の黒い色はほとんどなくなり、元の色に戻っている。 

 

進化開始(エボリューション)

 

 女性の身体が宙に浮き、徐々に半透明に変わっていく。そして、その身体はゆっくりとマートに近づいていく。そして、そのまま、マートの左腕に吸い込まれるようにして消えた。

 

 皆が息を飲む…。

 

 しばらくの間

 

 徐々に魔法陣が光を失ってゆき、全ての光が消えた。

 

 マートはそっと手を持ち上げた。色が戻ったその両腕はちゃんと動くようだ。

  

「よし、儀式は無事終わったぞ」

 

 教授の明るい声が、研究所の土間に響いた。

 

読んでいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ