40 失踪
マートは、それから結局3日ほど海辺の家ですごしたが、肉ばかりの食事にも飽きて、街に戻ってくると、その足で冒険者ギルドに顔をだした。
「無事、討伐クエストは終わらせてきたぜ」
マートは村長に書いてもらった討伐証明をギルドのカウンターに提出すると、ギルドのスタッフが心配そうに聞いてきた。
「おまえのところのクラン、大変なことになってるみたいだな。大丈夫なのか?」
「え?いや、今帰ってきたばかりでよくわからねえんだが」
「魔術師ギルドの依頼で探索にいったメンバーが行方不明らしいじゃねぇか。クランリーダーのショウさんを初め、サブリーダーのエリオットさん、アニスさん、クインシーさんもって聞いたぜ。冒険者ギルドでも今、捜索隊のメンバーを集めてるらしいけどよ。黒の鷲が手におえないのならって、なかなか集まらねぇらしい」
ギルドのスタッフが報酬をマートに渡しながらそう教えてくれた。
「ち、しばらく留守にしてた間に。ちょっと行ってくる」
マートが所属しているクラン、黒い鷲は、アジトを冒険者ギルドに程近い倉庫街に構え、20名ほどの構成員を抱える中堅どころのクランだ。リーダーはショウという名前の軽戦士で、真っ黒な革鎧で素早い動きを得意とすることから黒い鷲という異名をもち、その名前がそのままクラン名となっていた。サブリーダーは3人居て、エリオットという魔法使い、ジョブという重戦士、そしてアニスだ。
彼がそのアジトに顔を出すと、リーダーのショウの奥さんで、一般人のレティシアと戦士のグランヴィル、ジェシーの3人が居たが、みな暗い顔をして座っていた。
「何か大変なことになってるらしいな。詳しく教えてくれよ」
マートがあわてて、そう訊くと、3人ともはっとしたように顔を上げた。
「猫!ようやく顔を出してくれたのね。そうなのよ、大変な事になってるの」
レティシアが説明してくれたところによると、魔術師ギルドからの直接依頼で、ショウたちはリリーの街から南におおよそ5日ほどの距離にあるパウアー平原にある遺跡に出かけたということだった。
その遺跡は、半ば崩れた塔とその周囲にある遺構で、最近地下への入口が見つかったのだが、そこから先は盗掘もされておらず保存状態が良いことから、魔術師ギルドでも何か発見が期待されていたのだそうだ。
ただ、古代遺跡には、侵入者を防ぐための仕掛けがあることも多く、そのため、魔術師ギルドは黒の鷲に、遺跡の地下の地図の作成を依頼したらしい。メンバーは手分けして探索をおこなっていた。そして、ジョブとグランヴィル、ジェシーたちが魔術師ギルドと状況報告と物資補給のため地上に戻り、その後、彼らと合流しようとしたところ、遺跡地下に残っていたはずの6人の姿が全くなくなっていたというのだ。
「消えた?6人も?落とし穴だとしても、全員というのはないだろう?」
「ああ、その通りなんだが、最後に6人が居たはずが急に全員居なくなったんだ。いま、ジョブさんたちのメンバーは他の部屋の調査を行っているが、遺跡地下はかなり広く、6人が姿を消した仕掛けがあるかもしれないというので、あまり進んでいない。俺達2人は状況報告を兼ねて昨日戻ってきたところなんだ。馬を飛ばしてきたんだが、それでも3日かかっちまった」
グランヴィルがマートにそういった。
「わかった。俺も斥候だし、一足先にその遺跡に行ってくる。レティシアさん、絶対見つけてくるよ。グランヴィル、その遺跡というのは何処なんだ?」
マートは、グランヴィルに詳しい場所を聞き、途中の店で水樽や食料を買い込んで、手に入れたばかりの魔法のベルトポーチに収納すると、大急ぎでその遺跡に向かうことにした。
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グランヴィルから聞いた遺跡に、マートは夜も空を飛び2日で到着したが、彼はそれでも焦っていた。クランリーダーたちが消息を絶ってからおおよそ一週間ということになるからだ。冒険者のたしなみとして、数日の保存食は持っているはずだが、落とし穴におちたとすれば、いくら食い延ばしたとしてもきつい。できるだけ早く救出しないと危険だった。
「ジョブさん、来たぜ。俺も探索に混ぜてくれ」
クランのサブリーダーの1人で、重戦士のジョブは、あまり寝ていないのだろう、憔悴しきっていた。他のクランメンバーもそれは同じだ。
「おお、猫か、すまん。俺が……」
「いや、そんな話はまだ早いさ。俺の鼻がいいのは知ってるだろ。6人は絶対見つける。居なくなった部屋というのを教えてくれよ」
「ああ、わかった。それは地下2階のこの場所だ」
ジョブは、手描きの地図を出して説明してくれた。地図にはさまざまな書き込みがあり、この一週間、彼と他のメンバーがいかに苦労して探索していたのかが良く伝わってくる詳細なものだった。
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