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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第4章 討伐クエスト
38/411

37 ウィシャート渓谷の探索

2020.9.21 マジックバック → マジックバッグ

 残りのオークを求めて、マートは目撃されたリネット村付近を中心にウィシャート渓谷を歩き回った。冒険者が一人だけしか来なかったので不安を隠せなかった村人たちも、着いた早々に1匹を倒したおかげで信用してくれ、それからは彼の扱いも向上して、寝床も馬屋から村長の屋敷の客室に変わったのだった。

 

「じゃぁ、今日も見回ってくるわ。しかし、おかしいな、痕跡も残ってたんだがな。みつからないと不安だな。とりあえず今日は北側の山地を中心に見てくる」

 

「よろしく頼むぞ。しかし、案内は本当に要らんのか?」

 

「ああ、俺だけのほうが身軽に動けるからな」

 

 村長にはそう説明して、マートは村を出た。途中、自警団らしい連中が手を振ってくれた。

 

“さっさと片付けないとな。今日は村の連中が見えなくなったら飛んで、上から探そう”


-----

 

 魔獣系統のスキルである飛行を使い、彼はオークの姿を探して回ったのだが、昼を過ぎても手がかりもみつからなかった。

 

“オークって、夜行性だっけか?”

 

“いや、基本的には昼活動していたはずじゃがな”

 

“だよな”

 

 マートは首をかしげながらも、探索するエリアを広げていく。

 

“あれは何だ?”

 

 マートはほぼ垂直に近い山肌の途中に四角い穴のようなものが5つほど規則的に並んでいるのを見つけた。近づいていくと、窓のようにも見える。下からはでこぼこの岩肌に隠れてほとんど見えないだろう。

 

 さらに近づくと、その穴は本当に窓であった。庇があり、木製と思われる窓戸が閉められているのだ。その窓戸はかなり老朽化しており、手で触れると簡単に外れ、中は岩をどのようにしたのか刳りぬいてつくられた部屋だった。

 

 マートは中に入っていったが、その部屋はおそらく居住用だったのであろう、埃が積もって居たが、ベッドと机があり、机の上にはランプなども置かれ、綺麗に整頓されていた。

 

 部屋には窓とは反対側に扉が一つあり、そこを開けると左右に廊下が伸びて、同じような扉がいくつか並んでいたが、右側の通路は岩が崩れ完全に塞がれており、そこから地下水が漏れて床に水たまりができていた。

 

“こいつは、なんだ?”

 

“岩を刳りぬいて作った何かの施設のようじゃの。砦かあるいは神殿やもしれぬ。片方の通路の先は崩れて塞がれておるな”

 

“何か、お宝が眠っているかも知れねぇな。調べてみよう”

 

 マートは用心しながら、廊下を進み、扉を順番に開けていく。山肌に開いた窓がある部屋は、大きさの大小はあれど、彼が最初に入り込んだのと同じ居住用の部屋らしかった。そして、その廊下をはさんで反対側にある扉は一つきりで、その扉を開けると、そこは一つの大きな部屋だったが、ほとんど空で、壊れかけた椅子や机、小さめの木箱がいくつかあっただけで、その木箱もカラカラに干からびたパンのようなものの欠片や空っぽの木樽が入っていただけだった。

 

“なんだ、何もねぇのか?”

 

“放棄された廃墟みたいじゃの”

 

 マートが机にあった引き出しを開けながら、すこしサイズに違和感を感じた。

 

“ん?”

 

 引き出しは二重になっていて、奥に隠しがあった。そこを探ると、小さなベルトポーチが入っていた。

 

“なんだ、金でも入ってるかな?”

 

 マートはそのベルトポーチのカバーを開けると、そこは真っ黒な空間が広がっていた。

 

“お、マジックバッグ?”

 

“そうみたいじゃの。何か入っておるか?”

 

 マートは恐る恐る手を突っ込む。すると、念話のようなものが伝わってきた。

 

“内容物:日記、魔道コンロ、ウィスキー5、グラス2、魔石31、金貨51、銀貨622、銅貨228”

 

“へぇ、マジックバッグというのはこういう風になってんのか、じゃぁ、試しに金貨を取り出してみるか”

 

 マートがそう考えると、掌に硬い何かが乗った。そのまま手を取り出すと、そこには綺麗な金貨が乗っていた。

 

“初めてみる意匠だな、それもでかくないか?”

 

“それは、ピール王国の金貨じゃな。最近ピール王国の名前は聞かぬが”

 

“へぇ、銀貨と銅貨も同じか?”

 

 マートは、順番に中に入っている物を取り出していった。グラスは、木製のカップではなく、高級なガラス製で、ウィスキーというのは、深緑色のこれもガラス製の瓶に入った酒だったが、強烈な匂いがした。

 

“ガラス製なんて、すごいな。王様でもこんなきれいなのは持ってねえだろうよ”

 

“そうなのか?火の精霊に頼めば、溶かすことができるはずじゃが”

 

“魔道コンロというのは、なんだ?”

 

“料理に使うものじゃ。鍋で物を煮たりするじゃろう?”

 

“へぇ、暖炉みたいなものか”

 

“まぁ、そんなものじゃ。鍋を上に置いて、ボタンを押すと、そのうち鍋が熱くなるのじゃ”

 

“魔道具か。便利だな。あとは、日記か”

 

 マートは、かなり太くなった巻物のようなものを取り出し、拡げてみたが、彼には読めない文字だった。

 

“なんて書いてあるんだ?”

 

“ん?王国歴321年3月21日 今日は少し頭が痛いので早めに帰って寝ることにする。パターン352から383は何もなし”

 

“最後のところはどういう意味だ?”

 

“さぁのう。最初からきちんと読んでみないとわからんの”

 

“まぁいいか、とりあえず頂いて帰ることにしよう。金貨と魔石はありがたいな。これで海辺の家の風呂がつかえるかもしれねぇ”

 

“そうじゃの”

 

 マートは取り出したものを全てポーチ型のマジックバッグに戻し、そのマジックバッグを早速ベルトに通したのだった。

 

読んでいただいてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかオープンワールドRPGやってる感覚だ こういう謎のポイント見つけてアイテム手に入ると嬉しいですよねー
[一言] マジックバッグ登場。さっそくドアノブナンバー8の物置の価値が相対的に下がった。 まーバッグなら小回りが利くのが良いね。
[一言] おー……修業ついでにオーク退治に来てみたらガッツリお宝ですなぁ(喜)
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