349 王城での戦い 6
霜の巨人は肩口の傷をものともせず、ニーナと向かい合った。
「ギャギャギャヒ、ギャヒヒ……(おのれ、どうして精霊が聖剣を使えるのだ?)」
ニーナは首を振った。両足を広げてすこし腰を下げ、左腕を突き出し、右手を頭上に構えるような恰好で身構える。
「何言ってんのかわからないね。今日は逃げないの?」
「ギャヒヒヒッ ヒッギャ……(調子に乗りおって、そんな事を言ってられるのはいまのうちぞ)」
霜の巨人の身長は5m程でそれに対峙するニーナの身長は1.5m程、およそ3倍だ。先に動き出したのは霜の巨人だった。一歩、二歩と巨体に似合わず動きは速い。ニーナを踏みつけるような感じで踏み出してくる。だが、彼女はそれに合わせる感じでヒョイ、ヒョイと後ろに飛んで距離を保ったまま下がりながら、口の中や目を狙い無音で毒針を飛ばす。だが、それを霜の巨人は身体をゆすって狙いをずらしていた。龍鱗スキルのおかげで瞼や唇ではニーナの毒針は貫通できないのだ。
「ヒヒッギャ ヒギャ……(小賢しい手を、だが、同じ手は食わぬ)」
『魔法衝撃波』
霜の巨人の呪文をニーナは両手を交差させて受け止めた。魔法抵抗力は高いので大したダメージではない。
「ギャ ギャギャ……(くっ、やはり魔法は効かぬか、ではこっちだ)」
『加速』
一気に霜の巨人の動きが速くなった。右手の拳がありえないような速度で真っすぐ突きだされる。ニーナは両手で必死にその打撃を防ごうとするが、間に合わない。そのままの勢いで吹き飛ばされた。辛うじて後ろには飛んで勢いを少しは逃がしたようだが、それだけで精一杯だ。
<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る
霜の巨人はさらに追い打ちをかけるかのように後ろの壁に激突したニーナに向かい、その勢いのまま膝蹴り。
「ぐふっ……」
ニーナは今度は勢いを殺しきれなかった。霜の巨人の膝がまともに入り壁との間に押しつぶされたような形になる。
「ヒギャ ヒギャヒギャ……(ふふふ、どうだ)」
霜の巨人は得意げに立ち、その場に膝をついたニーナを見下ろした。仮面で顔は見えないがかなりダメージは大きそうだ。
“ニーナ、一度戻れ”
弓を撃とうと構えていたマートはそれを見て弓を放り出して走り出た。左腕の獅子の文様に触れて顕現を解く。ニーナは文様に吸い込まれた。一瞬ふらりとしたが顕現解除のペナルティはそれだけで済んだようだ。
霜の巨人を前にしてマートは左手に剣を抜いた。ゴブリンの強欲の剣だ。そして、右手には吸い込むとほぼ同時にニーナから受け取った試作品の付け爪を構える。
「ギャヒ ギャヒギャ……(ちっ、姑息な真似を)」
「へへっ、残念だったな」
マートは親指でかるく自分の鼻を掻き、にやりと笑ってみせた。
その横でレッサードラゴンは、後足で立ち上がり、大きく羽根を広げた。
「ウギャギャギャ……(裏切り者め、目にもの見せてくれる)」
何かを察したのか、レッサードラゴンと対峙していたアマンダはウエストにつけていたマジックバッグから空を飛ぶ魔道具である半球を取り出すと、それに飛び乗る。レッサードラゴンは大きく口を開けた。口から黒いブレスを吐きだす。だが、それより一足先にアマンダは空中に飛び立った。
黒いブレスは酸のようだった。その効果は嵐の巨人程ではないようだが、それでも床の大理石にそれらは零れ落ち、シュワシュワと腐食音を立てている。
アマンダは飛行の魔道具を操り、黒いブレスを避けてレッサードラゴンの周回軌道をまわりながら立ち上がった頭部に近づいていく。
『麻痺』
『魔法解除』
アマンダを狙ったレインボウラミアの麻痺呪文は即座にジュディの魔法解除呪文によって打ち消される。アマンダが飛行の魔道具を使う時は魔法無効化の魔道具を使えない。それは敵の魔法使いにとっては狙い時というのはわかっていた。そしてジュディもそれは心得ていたのだ。
アマンダの円を描くような軌道は邪魔されることなく完成した。
<速突> 槍闘技 --- すばやく2回攻撃
「ウギャギャ、ウギャーーーーーーッ」
矛の穂先は根元までレッサードラゴンの左目に突き刺さった。ねじる様にしてアマンダは矛を引き抜く。黒い血しぶきが噴き出した。レッサードラゴンは目をつぶされた激痛にのたうち回った。闇雲に巨大なしっぽを振り回す。ジュディはあわてて飛び退いた。
さらにその奥、酸の息を聖盾で凌いだシェリーは、嵐の巨人の隙をつき、足元に走り込んだ。
<速剣> 直剣闘技 --- 2回攻撃
そのまま足元を潜り抜け、アキレス腱を狙って足首に斬りつける。ダメージを受けた巨人はバランスを失い、たまらずその場に倒れる。
『魔法の矢』
さらにそのタイミングでブライアンの魔法の矢が目のあたりに連続で命中した。巨人はたまらず左手で顔を覆う。シェリーはくるりと反転し、今度は巨人の身体を駆け上がった。
<暗剣> 直剣闘技 --- 相手の死角に回りこんで斬る
聖剣が嵐の巨人の首筋に突き立った。三分の一ほどを一気に切り裂く。血が噴水のように噴き出て、辺り一面を水色に染めた。
「ギャ、ギャヒー」
嵐の巨人が悲鳴のような声を上げた。残された左手をあげ、そこで実際に何かを掴んだように何度か開いたり握ったりして……そのまま、力を失い、がっくりと地面に伏せた。
「ギャヒギャヒギャヒー……(イクトゥルソ!!)」
霜の巨人が叫んだ。だが、嵐の巨人はそのままピクリとも動かない。
「嵐の巨人、打ち取った!」
シェリーの雄叫びが高らかに響いた。
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