306 碧都ライマン到着
芸術都市リオーダンの近郊で行われた戦いから2ヶ月が経った。魔龍王国の勢力は講和にしたがって北に去り、代わりに城塞都市ヘイクスやリオーダンといった最後まで魔龍王国が支配していた地域にも元の統治者であった貴族たちが戻ることになった。そして、ワイズ聖王国の騎士団もラシュピー帝国から撤収を開始したのだった。
ワイズ聖王国、ラシュピー帝国の2国は、蛮族との戦いに勝利しラシュピー帝国の国土をすべて回復できたと宣言し、ここでおよそ4年間にわたった魔龍王国とラシュピー帝国の戦争は終結に至ったのだった。
両国は2国の国境にある碧都ライマンで祝勝会を行うことにした。この祝勝会には、ワイズ聖王国、ラシュピー帝国の主だった貴族はすべて招待され、ハドリー王国、ダービー王国からも祝いの使者が訪れていた。
マートもシェリー、オズワルト、アズワルト、アレクシア、ライオネルといった配下の貴族たち、エバ、アンジェといったメイドたち、そして20人の衛兵を連れて船でライマンに入った。既に都市はお祭り騒ぎになっており、通りは様々に飾り付けられ、広場では様々な旅芸人たちが華やかに自慢の出しものを演じ、料理の屋台なども沢山出ていた。
マートは遊びに出かけたくてうずうずしていたが、補佐官のアレクシアにそのまま行くと大騒ぎになってきっと遊びどころじゃなくなりますよと窘められ、仏頂面をしながら馬車にのってとりあえずライマン城にむかったのだった。
ライマン城に入るとマートたち一行は第1騎士団の騎士団長であり、この都市の領主であるライナス伯爵の出迎えを受けた。彼は長い戦いでかなりやつれていたが、穏やかな顔でマートを迎えたのだった。
「よく来てくれた、マート殿。そなたのおかげでこの長い闘いを勝利で終わらせることができた」
そう言われてマートは照れて頭をガシガシと掻く。
「俺は手助けをしただけさ。あんたたち騎士団が頑張ったからこそだ。もちろんうちの騎馬隊、いや、騎士団と蛮族討伐隊も頑張ったけどな」
「ああ、アマンダ殿は活躍だったな。俺は遠目でみていただけだが、すごい戦いだった。火の巨人は俺も戦いたかった」
「私も戦いたかった」
横でシェリーが思わず呟いた。
「おお、シェリー殿、ヘイクス調査行の後の新年会以来だな。なかなか会えず残念に思っていたのだ」
ライナスはそう言って、彼女に礼をした。シェリーは慌てて礼を返す。
「ご無沙汰しておりました。ヘイクスの調査行では大変お世話になりました」
「いやいや、シェリー殿とマート殿にはその時から大きく働いて頂いた。積もる話もあるが、主催側としていろいろ忙しくてな。ひとまず部屋に案内させるので、くつろいでくれ」
「ありがとうございます」
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マートが到着してすぐ、彼がライマン城の一室でエバの入れてくれた紅茶を飲みながらくつろいでいると、早速ライラ姫と宰相であるワーナー侯爵が彼の部屋を訪問してきた。
「お疲れさまでした。あの戦いからあっという間に2ヶ月が経ちました。あれから魔龍王国はどうなりましたか?」
部屋に通されたライラ姫は余程気がかりだったのだろう、挨拶もそこそこにその話題を切り出した。マートは2人に席を勧め、自分もソファに座る。
「ああ、アマンダとは何回か会ったよ。オーガやオークたちとは別れ、千人の集落を作って北で暮らしている。あれはもう王国という規模じゃねぇよ。男爵領より小さいぐらいだな」
マートは敢えてその規模を小さく話をした。
「千人程の集落でしたら、さっさとマート伯爵のところに戻ってこられたらよいのでは?」
宰相のワーナー侯爵が不思議そうに尋ねる。
「ああ、俺もそう思うんだが、今は北に拉致された人々を回収しようとしているらしい。アマンダとしてはせめてもの罪滅ぼしという認識みたいだな。俺は火の巨人がやったことをアマンダが被ることはねぇって言ったんだがよ」
「そうなのですか……、マート様に救い出されたラシュピー帝国の人々が、領地に帰っているという話は耳にしておりましたが、そのようなルートだったのですね。なるほど、そういう所までは意識出来ておりませんでした」
「そういうこったな」
「そうですか……」
ワーナー侯爵とライラ姫は顔を見合わせ、そして頷いた。
「マート・ローレライ伯爵様」
ワーナー侯爵は改めてマートをそう呼んだ。
「我々は聖剣の救護者としてマート様を信頼し、その行動を支持しております」
「ありがてぇ話だし、照れくさいが、何を今更って感じもするな」
「その上でお聞きください。まずはジュディ男爵の件についてです」
マートは怪訝そうな顔をした。彼女は前回のハドリー王国との戦いの褒賞として男爵領を貰って独立した貴族として領地を貰っているはずだ。何か関わりがあるのだろうか。
「ジュディ様はマート様の配下になりたいと以前から何度も我々に申し出ており、今後の聖剣の魔法使い《ホーリーウィザード》としての活動を考えるとそれも仕方ないのかと考えるに至りました」
話すライラ姫はなんとなく不機嫌そうだ。ジュディがマートの配下になることに彼女は別に不都合はないはずなのだが。
「おそらく、ダービー王国復興に向けて、 霜の巨人や嵐の巨人を倒すための協力依頼が、今後ハドリー王国なりダービー王国から来る事になると思います。そうなるとどうしても留守が増えますが、その期間の統治面を考えるとマート様の配下であるほうが都合が良いでしょう」
「今の領地はどうするんだ?」
「それについては、すこし話が前後しておりますが、今回の戦功に対して、我々はマート様にブロンソン州の半分、東ブロンソン州を与え、侯爵に昇爵していただきたいと考えております。東ブロンソン州は十分な広さがありますので、今のジュディ様の領地は王家の領地として返還していただき、彼女には改めて東ブロンソン州或は、今あるローレライ伯爵領、ウィード子爵領の中から領地を与えて頂けないでしょうか」
「そういうことか」
「これによって、マート様はワーナー侯爵に並んでワイズ聖王国最高位の貴族となります」
ライラ姫は急に誇らしげにそう言った。
「良いのか?俺は魔人だぞ?」
「我々は最初に申しました。マート様を信頼していると」
マートは複雑だった。仕事がまた増えそうだ。面倒なのは勘弁してもらいたい。表情を見て何かを察したのか、ワーナー侯爵が口を開いた。
「大丈夫ですよ。伯爵と侯爵とで所領に関してする事はあまり変わりません。違いは王国で果たす役割だけなのですよ。本来であればマート様にも王国の役職も持っていただきたいところなのです。邪悪な龍との戦いがありましょうから、もちろんそこまでは申しませんが……」
「……」
なんとなく罪悪感を感じてマートは何も言えなくなった。ラシュピー帝国での戦いで彼もかなり苦労していたはずだ。
「3日後の式典で陛下より改めて発表があります。よろしくお願い致します」
読んで頂いてありがとうございます。
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誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
見直してはいるのですが、いつまでたっても間違いが無くならない……申し訳ありません。
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