298 レイスとの戦い
【肉体強化】
マートはすばやく右にからだをひねり、そのレイスの放った魔法を避けた。魔法衝撃波という呪文で攻撃されたのははじめてだったが、魔法の矢に比べると飛来する速度が断然遅いのだ。たしかにダメージは各段に大きそうだが、肉体強化をし、近接戦闘力の高いマートにとって躱すことができる程の速度だった。魔法衝撃波は今は遺失しているらしいが、それにはそれなりの理由があるということだろう。青白い魔力の塊のようなものは、マートの背後の壁にぶつかり、大きな衝撃音を立てた。
「おのれ、儂の魔法を躱すというのか。人間の敵め」
「俺は人間の敵じゃねぇよ、ちょっと待ってくれ。是非話を聞かせてくれよ、あんたはここで聖剣をつくってたのか?」
「うるさい、魔人の話など聞かぬ」
『魔法衝撃波』
「ちょ、ちょっと待てってば。聖剣の魔道具としての説明を、ベースとしての魔法があるんだろ。それを教えて……」
「うるさいっうるさいっ」
2発目は塊が4つ、続けざまにマートに向かって飛んできたが、マートはそれもなんとか躱した。聖剣の作り方、その蛮族へ特別に有効な武器の作り方はなんとしても知りたい。現状ではあの 霜の巨人には聖剣持ちのシェリーしかろくにダメージは与えられなかった。もしそれが、他の武器によって有効な攻撃が与えられるようになれば、戦い方が変わってくるだろう。マートは懸命に説得を試みた。だが、レイスは魔法でマートを攻撃するのを止めようとしない。
“だめじゃ、すでに魔物化しておる。まともな思考ではなさそうじゃ”
“ちっ、くそっ、じゃぁ、撤退するか? このレイスをこのまま倒さずに居れば、そのうち正気に戻す方法が見つかるかもしれねぇ”
魔法衝撃波がまたマートの背後で破裂した。肉を焼いたような焦げ臭いにおいが充満する。羊皮紙が詰まった木の棚にぶつかり、そこにあったなにかが燃えだしたようだ。ほこりと破片が舞い、黒い煙が立ち始めた。
“今、火が付いたのは、何かの資料ではないのか? ここで聖剣やここに来るまでに作られていた魔道具をつくっていたのなら……”
“?! しまった、そうか! このままじゃ残ってた資料とかがあっても全部台無しになっちまうかもしれねぇな。じゃぁこの世に千年以上しがみついたこのレイスをさっさと倒して成仏させてやろう”
マートは両手に剣を抜いた。
『祝福』
マートは剣に祝福の呪文をかけて聖別した。実体のないレイスやゴーストは聖なる武器でなければ素通りしてしまうのだ。
「うるさいーーーーーっ!」
『魔法衝撃波』
マートはうるさいと連呼しながら魔法を撃ってくるレイスに向かってその魔法を躱しながら、その懐に飛び込む。
<速剣> 直剣闘技 --- 2回攻撃
初老の男が身につけていた白い上着が切り裂かれた。中には実体はなく、黒いもやのようなものがあたりに散る。
「なんだとっ? これでは、蛮族との戦いがっ、栄光あるピール王国が……」
そう言いながら、その初老の男は倒れた。
「安心しな。あんたの聖剣はちゃんと役に立ってるぜ」
マートはそう呟く。初老の男は驚きの顔をしつつ、そのまま黒い靄となって消え去った。
“っと、せっかくの資料がっ、ニーナ、ウェイヴィ、ヴレイズ、フラター、手伝ってくれ”
ニーナや精霊たちが姿を現した。ウェイヴィは熱くなった資材の温度を下げ、ヴレイズは耐火性能を高めるようにして共に燃えそうな資料を守ったり、フラターは風に散った資料を集めたりといったことをしながら、皆で残された資料を集める。
最後にマートは初老の男が掴もうとしていた剣に目をやった。
“魔剣よ、識別してくれ”
“うむ……”
●聖剣(試作品)
能力:蛮族特攻(試作)(蛮族の特殊能力に影響されず通常のダメージを与えることができる)
形状変化(所持者の意図する形になることができる。その際に欠けたり汚れたりした場所は修復される)
“試作品か。かなりシンプルだな、蛮族特攻の性能もきっとシェリーが持ってるのより性能は低そうだが仕方ないか”
“そうじゃな。聖剣の雄剣、雌剣共に2倍ダメージとしか識別できなかったが、特殊能力に影響されずに2倍ということじゃろう。おそらくこの後、いろいろと試行錯誤して今の聖剣が作られたのじゃろう”
魔剣の説明にマートは軽く頷いた。そして、プロトタイプの聖剣をニーナに差し出す。
「ニーナ、これ持っとくか? どうせリベンジしたいんだろ?」
「いいの?」
ニーナは瞳を輝かせて受け取った。そういえば、今日は仮面を被っていない。早速形状変化を使って自分のカギ爪に被せるような形にし振り具合を確かめながら、ニヤニヤしている。
「そういえば、研究所で調べるって言ってたのは何だったんだ?」
「この蛮族特攻というのがどういう魔道具なのか調べようと思ってね。魔法で虫除けっていうのがあるのを知ってたから、蛮族除けとかあるのかなとか、それの細かい効果はなんだろうって調べてた」
「へぇ、結果は?」
「そんなにすぐにわかんないよ。とりあえず、虫除けと蛮族除けの呪文は習得できたから、ローラとそれを魔道具にしようってしてるところ。まだ、聖剣の仕組みがわかるには遠いなって思ってた。でも、今回収した資料とか、このプロトタイプとかあれば研究が進むかもしれない」
「へぇ、なるほどな。とりあえずこれで回収完了だ。金はなかったが、面白そうな魔道具が山ほど手に入った。今日は帰って、ローレライの港の酒場で祝杯だな」
読んで頂いてありがとうございます。
一迅社さまより書籍は絶賛発売中です。できればよろしくお願いします。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
見直してはいるのですが、いつまでたっても間違いが無くならない……申し訳ありません。
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