26 聖剣の神託
2020.10.24 サラマンダー → サラマンドラ
「私の父、アレクサンダー伯爵が仕えるワイズ聖王国には、建国の英雄王、ワイズ様が残した国を守る聖剣というのが存在するの。そして、その聖剣が3年前のある日、神託を下されたのよ」
「その神託は、『邪悪な龍が目覚めつつある。それに対抗するために力を急ぎ集めよ。偏見にまどわされてはならぬ。聖剣を使う騎士、それを支える魔法使い、さらにその2人を支える戦士たちを育てるのじゃ。』というものだったわ」
「聖王国の中で王の代わりに聖剣を振るえる騎士、それを支える魔法使い、この2人がいったい誰なのか。どのように集めたらよいのか。聖王国の会議ではそれはそれは紛糾したそうよ」
「そして、残念ながら、騎士も、魔法使いも、いまだに誰というのは決まっていない。どのように支えるのかすらも」
ジュディは寂しそうに微笑んだ。
「私の魔法の素質は6つ☆なの。聖剣を使う騎士を支える魔法使い。その役を担うだけの素質はあるはず、そう自負しているわ。決して王様に認められたわけではないけれど、私は聖剣の神託を信じている。もしかしたら、私は騎士と魔法使いを支える戦士たちの役割かもしれない。どちらにしても、力を蓄え、いざという時に戦えるようにしておきたいと考えているわ」
「それの第一歩が伝説の魔法の杖を作るための材料探し。私の魔力に最も適し、一番力を発することのできる魔法の杖を作りたいの。そのための材料として必要なのが、樹齢100年を超えたヤドリギの枝、リュンクスの柘榴石、そして、サラマンドラの髭。そのために、アニスと、猫にはここに来てもらったの」
ジュディは整った顔で、マートの顔をじっと見つめた。
「私とシェリーでは戦うことはできても、探索行の経験はほとんどないわ。アニスと猫の様子を今回一緒に旅をすることによって見させてもらった。アニスにはもう承諾してもらったわ。猫、あなたにも、この探索をするのに力を貸してほしいの。もちろん報酬は払うわ」
「なるほどな。お嬢の話はわかった。こんな美人に頼られちゃ、俺も断れない」
「猫、じゃぁ……」
「でも、その前に、確認したいことがある。ハリソン、先に、あんたの話を聞こうか。お嬢の幼馴染だからここにいるってわけじゃないんだろ?これから仲間になるっていうのに、ぶっちゃけて話をしておこうぜ。伯爵はどこまで本気なんだ?あんたは、伯爵からのお目付け役ってところじゃねぇの?」
「ハリソン?」
ハリソンは、短い金髪をかきあげながら、苦笑いを浮かべた。
「あーあ、どうしてそういうのがすぐわかるのかね。いいよ、丁度いい機会だから、素直に喋っておこう。聖剣の予言について、実は伯爵はあまりにも曖昧すぎるので、動きようがないと考えておられるようだ。王国の貴族の中でも、お嬢のように真面目に受け取っているものも居れば、そうでないものも居る」
「ただ、僕は、お目付役って訳でもないよ。どうせお嬢は僕が反対しても、聞いてくれないからね。僕は、お嬢が必要とするお金や情報を調達してやってくれと伯爵に頼まれている。そして、定期的に状況を報告することになっている。ああ、猫、君の監視は厳重にと言われているよ。お嬢も、シェリーさんも妙齢だ。伯爵は、お嬢が気に入った男がいるという話を聞いたときは、絶対に許せん、お嬢を呼び戻せとずっと言ってたよ」
「へぇー、なるほど、あはは。猫も大変だね」
アニスはハリソンの話を聞いてそう言って笑った。
「おっけー、あと、あのときの尾行は誰の差し金かわかったのか?」
「いや、結局正体はつかめなかった。お嬢はきさくな人柄から民たちには人気があってね。そういうのを妬む連中もいるし、単に金稼ぎをしようとした犯罪者の可能性もある」
マートは、花都ジョンソンでの出来事をアニスに話した。
「へぇ、そんなことがあったんだ」
「一応、ここの出入りには気を付けておいたほうがいいな。リリーの街でだと、よそ者は目立つから大丈夫だとおもうけどな。話はわかった。3つの魔法の杖の材料の探索の仕事、引き受けようじゃないか。どこにあるかはわかっているのか?」
そう聞かれて、ジュディは首を振った。
「ううん、ハリソンたちが調査しているわ。猫こそしらない?バッテンの森には詳しいでしょう?あの森はかなり深くて、人が入れないようなところも多い。ああいうところに、ヤドリギは生えていないかしら?」
「ふーむ、きちんと覚えてねぇな。そうだ、森の奥に住む老人を知っている。あいつに聞けば何か知っているかもしれない。もし、そんな木があったら、どうしたらいいんだ?2mぐらい切って持って帰ってくればいいのか?」
「いや、4人で行ったほうがいいんじゃないかねぇ。あの森はそれほど強いモンスターが出るって話も聞かないし、今のところ手がかりはないから、ここでぼーっとしてるより、一緒に行って、お互いの役割や体力を確認するのに丁度いいだろ」
それまでの話を聞いてアニスはそう言って、ジュディのほうを見た。ジュディがうなずく。
「そうね、そうしましょう。出発は明後日ぐらいで良い?ああ、あと、猫、何か必要なものがあったら、ハリソンと相談してね。2階の部屋や倉庫も使えるけどどうする?」
「へぇ、部屋か。いやいや、この屋敷で泊まったりしたら、ハリソンが当然、そう報告するだろ。そうなったら、俺は伯爵に殺されちまうんじゃねぇか?」
「そうなるかもしれないね」
ハリソンは真面目な顔をして答えた。
「ああ、ハリソン、依頼はわかったんだが、あと、一つたのまれてくれねぇか?あとで連れてくるが、アンジェっていう8つの女の子なんだが、6年ほど前、マクギガンの街で両親がパン屋をしてたらしいんだ……」
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