25 雇い主探し
「なぁ、こういう2人なんだが、なんとか住み込みで雇ってやっちゃくれねぇか?」
「猫、判るだろ。30過ぎじゃぁ年増すぎる。たしかに、美人だし、今店に出せば客は付くかも知れねぇが、ちゃんと仕込んでねぇから数年したら、身体を壊しちまうだろう。性悪な連中なら、それで使い潰すなんてことも考えそうだが、俺とお前さんの仲でそんな話はしたくねぇ。小さいほうは、まだ8才なんだろ?うちじゃ客は取れねぇし、そんなのを預かれねぇよ」
「そういうので雇ってくれと言ってんじゃねぇんだ。雑用係とかで頼むよ」
「雑用係は、すでに、ばあさんが2人いるんだ。新しい人間を雇うなんざ無理だね。悪いが帰ってくれ」
リリーの街で、マートはエバを連れ、知り合いの店を回っていたが、断られたのはこれで10軒目だった。
「くそ、俺の身の回りは貧乏人ばっかりだからなぁ。そうだ、ジュディだ。帰ってきたら連絡くれって言ってたな」
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マートたちは、アレクサンダー伯爵の次女であるジュディが借りたという家を探して、めったにきたことのない貴族街を訪れた。
「冒険者ギルドで聞いた話だと、このあたりの青い屋根の邸宅らしいんだが……。ああ、あそこか」
「マートさん、こんな貴族とお知り合いなのですか?」
「ちょっとした縁でな。こういうところなら、雇ってくれるかもしれん。金は持ってるだろうし、一人、二人ぐらい……」
「貴族の方に仕えるような行儀作法など、私にはとても……」
「いやいや、アンジェはたしかに厳しそうだが、エバなら賢そうだから、なんとかなるだろ。まぁ当たって砕けろさ」
マートが邸宅の通用門らしきところの前で大声で中に呼びかけると、ジュディと一緒にこの街に来たメイドのクララが御者をしていた年老いた男と共に中から出てきた。
「こんちわ。お、クララと、たしかジョンさん。お嬢が寄ってくれって言うからきたぜ。それと今日は頼みもあるんだ」
「はい、猫さん。ようやく来てくれたんですね。お嬢様がお待ちかねですよ。って、その後ろにつれている女性は誰ですか?お姉さん?従姉妹?もしかしてお母さんとか?」
「いや、ちょっとした知り合いだ。事情があってな、彼女と8才の少女が働ける住み込みの仕事を探してるんだ。そういう伝手はないか?」
「事情を聞かないとなんともいえませんね。いいでしょう。とりあえずその人も入ってもらってください。ジョン、お2人を居間のほうに案内して頂戴」
年老いた男に案内されて、マートとエバの2人はローテーブルとソファのある部屋に通されたが、彼が部屋に入るのとほぼ同時に、ジュディとシェリーがやってきた。
「ようやく来たわね、猫、待ってたわよ」
「お嬢、待たせて悪かったな」
「今日は頼みごとがあるんですって?先にそれを聞くわ」
「ああ、そうなんだ。実はな……」
マートはエバとアンジェに関する話を、魔法のドアノブを除いて説明した。島の家については、話せないので、アジトの奥に隠れていたという感じだ。
「なるほど、あの巨大な鉄槌のアジトを調べるというのが、猫さんの用事だったのね。お嬢様の依頼をわざわざ断って…、結果、女性と女の子を拾ってきたと……」
丁度飲み物をもってきたクララがそう口を挟んだ。
「なにか、言葉に棘があるんだが……。まあ、たしかに巨大な鉄槌のアジトを調べてたのは確かだけどよ」
「それで、その2人の住み込みの仕事を探してるの?猫の家に囲うんじゃないの?」
「いやいや、そういう仲じゃない。もう、あんたと話してると調子が狂うな。だいいち、俺は知り合いの宿屋に居候の身で、家なんかねぇよ」
「そういうことらしいですが、お嬢様いかがしましょう?」
「いいんじゃない?うちで雇ってあげなさい。あなたの名前は?」
ジュディが尋ねた。
「エバと申します」
「じゃぁ、クララ、エバを連れて行って、詳しく話を聞いて頂戴、あと、ハリソンたちを呼んできて」
「わかりました」
クララがエバを連れて行き、しばらくすると、ハリソンと、レドリー、アニスの3人が部屋に入ってきた。
ハリソンはマクギガンの布商人の息子で、レドリーは彼の護衛を勤める戦士だ。かれら2人は以前バッテンの森で狼に襲われていたところをマートが助けたことがあり、ハリソンとジュディとは幼馴染である。
アニスは、マートも所属するクラン、黒い鷲の幹部であり、戦士兼神官としての能力を持つ実力派、ジュディたちが花都ジョンソンからこのリリーの街に移動してきた際に、マートと共に護衛をおこなった女性でもある。
「よく知ってる顔ばっかりだが、なんだ?この組み合わせは」
「まぁ、みんな座って。ハリソン、シェリー、前から言ってるように、このメンバーで会うときには身分とかはあまり考えなくて良いわ」
ローテーブルを囲むように置かれたソファに、6人は座った。
「猫、私は今、自分に合う魔法の杖を作るのに、材料を集めているの。何故、伯爵の娘である私が人に頼らずに、自分で探しているのかというと、理由があるのよ。その話をさせて欲しいの。荒唐無稽だと思うかもしれないけれど、我慢して聞いてね」
ジュディはそう言って話し始めた。
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