250 ライラ姫の相談
聖剣の騎士の誕生と、ハドリー王国に対する大勝利という知らせは年末から大きなニュースとして王都を駆け巡った。吟遊詩人たちはこぞって、彼らの物語を謡い、大きな劇場でも様々な尾鰭の付いた物語が作られて上演された。
特に水の救護人として知られ、物語の中では聖剣の救護者と呼ばれるマートと姫騎士と呼ばれるほどの人気者で聖剣の騎士となったシェリーの主従、聖剣の魔法使いとして認められ、二本目の聖剣を見つけた魔法使いとして知られるジュディ、そして最初に聖剣の騎士を任命し、王家の弓姫として人気の高いライラ姫の4人は、様々な物語、場合によっては恋物語なども描かれ、繰り返し演じられ、一躍時の人となったのだった。
それは、年始のパーティでも変わらず、特に、シェリーが聖剣の騎士ということで、国王陛下に次ぐ扱いを受けたことで注目の的となり、マートと共に2人そろって多くの貴族や令嬢たちに囲まれ、挨拶攻めを受けて忙しい時を過ごしたのだった。
「一緒に新年パーティに来たのはたしか4年前だったか。ヘイクス城塞都市から帰ってきて、シェリーが1等騎士に、俺が勲章をもらった時だったな」
ようやく挨拶の切れ目を見つけ、2人は一息ついた。
「そうだな、懐かしい。あの時も、本当はマート殿が活躍していたのに、そなたが勲章で良いというから、私が騎士爵をもらえたのだ」
そう言って、シェリーはグラスを受け取ると、くいっと飲み干した。
「いや、オーガナイトを倒せたのはシェリーの力さ。聖剣の騎士にまでなるとは思わなかったけどな」
「私も思わなかったさ。翌年にはマート殿は男爵になって、私を騎馬隊長に任命してくれた。ワイアット殿やアマンダ殿の動きもすごく勉強になっている。ここ数年は私にとっても凄く成長ができた。嬉しく思っているよ」
「いや、俺こそ何もわかっていないことは多いからな。皆がいろいろやってくれてうまくいってる。蛮族連中がもうちょっと大人しくなってくれたらいいんだけどな」
「そうだな、そうなれば……」
そこまで言って、シェリーはまた次のグラスを飲み干した。
「シェリー、あんまり強くねぇんだから飲み過ぎないようにしろよ」
「あ、ああ。わかった。ありがとう」
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数日後、久方ぶりに魔法庁に顔を出したマートは、ライラ姫に呼ばれて彼女の執務室を訪れた。そこで、彼女の相談を受けたのだった。それは、ハドリー王国との停戦に関する話だった。彼女は、つい数日前の国王陛下も臨席した御前会議での内容をマートにそのまま伝え、彼に協力を仰いだのだ。
「ふぅん、カイン王子とグラント王子は国王に呪いがかけられてるに違いないっていうのか。それで助けてくれと? たしかに今の王の側近で、元親衛隊のエイモスとかいうのはドラゴンの前世記憶を持つ男と関わっているという話だからな。自分がそういう目にあったので、そうだと考えたんだな」
「マート様はどうお考えですか?」
「2人の王子は本心で言ってるかもしれねぇが、王様が本当に呪いを受けているのかもはっきりしねぇし、逆に完全に取り込まれてるとしたら、全員でノコノコ行くのは危険だろうな」
「なるほど、危険ですか」
「ライラ姫、ブライトン子爵、シェリー、俺の4人は呪いとかは大丈夫かもしれねぇけどな。4人だけってわけにも行かねぇだろ。王様の話でいうなら、グラント王子も連れていって説得させろって事だろ。正式な使者ってことになれば、随伴の人間も増えるだろうし、それだけの数の人間は何かあった時に守り切れねぇ」
マートは少し考え、話を続けた。
「こっちに来いじゃぁダメなのかよ。こっちは勝ってるんだし、わざわざ行く必要はねぇだろ?」
「それだと、使者のやり取りになってしまいます。2王子はハドリー王の呪いを解き、エイモスの影響を無くしたいというのです。そのために協力をお願いしたいと」
「影響を無くすって、殺すってことかい?まぁ、蛮族連中の間諜なら仕方ねぇかもしれねぇが、自分で親衛隊として取り立てて、自分の思い通りに動かなくなったから処分するっていう風に見えなくもねぇな」
「そんな事はありません。蛮族から人間を守るためです。ですが、確かに2王子の言われることを鵜呑みにしてしまった部分はあるのかもしれません。では、どうすればよいのでしょう。私と2人、身分を隠してハドリー王国に潜入し真実を見極めるというのはいかがですか?」
ライラ姫は困った顔をしていたが、そう言いはじめた。途中で何かを思いついたのか赤くなり、マートは頭を抱える。
「姫が伴も連れずに行くのはダメだろ」
「ジュディ様、シェリー様、エミリア様もマート様と旅をされたことがあると伺いました。わたくしも……」
「仕方ねぇな、俺一人で行くか」
「連れて行って下さらないのですか?」
ライラ姫は少し泣きそうな顔になった。
「無理なのは自分でもわかってんだろ?諦めな。それよりハドリー王が呪いじゃなく、自分から蛮族側に与してたらどうするか考えておいたほうがいいんじゃねぇのか」
「その場合については、王子とお話をしました。それならできれば譲位と仰っておりましたが、最悪の場合は覚悟すると」
「へぇ、そっちはそこまで話してんのか。王族はすげぇな」
「そのための王族だと考えております」
「わかった、じゃぁ、行ってくる。とりあえず調べてくらぁ」
「無事解決しましたら、マート様には加増の上、伯爵にと考えております」
「加増は困るな、もう回り切れねぇ」
「回り切れない、と仰いますと?」
「都市や街はもちろん、それ以外の町、村の連中とは必ず年に2回巡って話を聞くことにしてる。最近開拓村が増えてな、これが結構大変なんだ。でも領主になったときの約束だからよ。とはいってもこれ以上領地が増えたら回り切れなくなっちまう」
「なんと……」
「だから、領地が増えると困るんだ」
「それにつきましては、家令の方とご相談ください。シェリー様にも聖剣の騎士になられましたので、男爵をと考えております。爵位を持つものが配下となると、王国の慣例としては伯爵以上である必要もあるのです。しかし伯爵以上のいわゆる高位貴族はみな領地は配下のものに任せることが多いのですよ」
「うーん、参ったな。とりあえず話してみるか。でも、じゃぁその高位貴族ってのは、普段は何をしてるんだよ」
「騎士団や内務庁や外務庁といった庁の長官や副長官の仕事ですね」
「言っとくが、俺はそういうのは御免だぞ。どうせ務まらねぇしな」
「魔法庁の副長官なんていかがでしょうか?」
「いや、だから無理」
ライラ姫の言葉にマートは苦笑を浮かべて断ったのだった。
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