249 探索の結果
3つの長距離通信用の魔道具は、ローラの推測がうまく当たり接続ができた。同じところに接続した3つを試してみると、書き込んだ内容がそのまま共有できるようで、緊急時の連絡用としてはきわめて役に立つものだった。これが使えることで、今まで海辺の家で魔道具の研究などを行っていたバーナードやローラたちは、より施設としては整っている研究所と呼ぶことにした場所に引っ越すことに決めたのだった。
この長距離通信用の魔道具は3つで、バーナードとマートの他、あと1つが残るが、これを誰が持つかというのはかなりの議論になった。転移が使えるジュディ、聖剣の騎士であるシェリーの2人のどちらかが持つというのもかなり有力な案だったが、マートはこの間のハドリー王国の侵攻のときのようにウィード子爵領を離れている間が心配だというので、結局ウィード子爵領にいるアニスに持っていてもらうことになったのだった。後でジュディたちは王都やアレクサンダー伯爵領の古物商などを巡り、使えないとされている長距離通信用の魔道具を探すことにしたらしい。
10本の黒い棒、これについては、魔剣が識別呪文を使って使い道がわかった。麻痺呪文、そして弱めのダメージ魔法である礫呪文、魔法の矢より大きいダメージ魔法である魔法衝撃波呪文の三種類が使えるワンドらしい。棒そのものにも壊れにくいように強化の魔法が付与されていた。なお、この礫呪文と魔法衝撃波呪文の二つはジュディも知らず、今では失われた呪文であるらしい。モーゼルを追う時に警戒装置が使っていたのがこの礫呪文だったようだった。魔剣の説明によると、この呪文は壁や家具を傷つけることが少なく、彼の時代では比較的使われていた呪文だったようだ。これについてはとりあえずアレクシアとモーゼル、ローラは1本ずつ持つことになったのだった。
魔石はまだ生成が続いており、しばらくは毎日生成された分を箱に詰めてゆくことになった。まだ閉じたままの扉とパスワードのわからない転移装置については、バーナードとローラたちが研究の合間に継続して調査することになったのだった。
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その後、今回の探索に区切りをつけたマートは、ジュディにお願いして、ウィード子爵領に一時的に帰る事にした。年始のパーティまではあまり日数に余裕もないのでせいぜい1、2泊といったところだが、アレン侯爵の問題の解決を優先したためにアレクサンダー伯爵領での戦いの後始末はアニス、オズワルト、ワイアット、アマンダたちに任せきりになっている。彼らなら大丈夫のはずだが、遠征軍はそろそろウィードの街に戻るだろうし、一度様子を見るのも良いかと思ったのだ。長距離通信用の魔道具をアニスに預ける必要もある。
ウィードの街に転移してもらった後、マートは花都ジョンソンに向かうというジュディと別れ、アニスの指揮する遠征部隊(衛兵隊、騎馬隊、蛮族討伐隊連合)を求めて移動した。彼女たちはマートが王都に向かった時の予定では、そろそろウィードの街についている頃のはずだったが、政務館にいたエバとアンジェに尋ねると、まだマクギガンの街を出たばかりだという事だった。彼は、戦勝のお祝いをしたいという彼女たちにまた年明けに帰ってからなと約束し、ヒッポカムポスが姿を変えた馬を走らせマクギガンの街に向かう街道を進んだのだった。
ヒッポカムポスの馬は疲れを知らず街道を走り続けた。最初はパウルがマートに付けた護衛も居たのだが、マートが馬が壊れるからと帰らせ、結局一人になった。マートの顔を知る人々が途中で何度か手を振り、彼はそれに元気に応える。ウィードの街からマクギガンまで130キロあったが、マートの馬は疲れを知らず、マートも元気に乗り続けて昼過ぎには遠征部隊と合流できたのだった。
彼の姿を見て、騎馬隊のメンバーは慌てて馬から降りて礼をしようとしたが、それは不要だとマートは手で合図をする。
「猫、どうしてここに?王都の用事は終わったのかい?」
アニスとオズワルトは、部隊の真ん中あたりで馬に乗って移動していた。マートは2人を見つけて横に並ぶ。
「ああ、ひと段落付いた。まず、姐さん、これを持っててくれ。長距離通信用の魔道具だ。この表面に書いたものは、これに同期してある魔道具にも表示される。同期してる魔道具は今は2台だが、一台は俺が持ってる」
そういって、マートはアニスに簡単に説明をして魔道具を渡した。
「へぇ、助かるね。この間みたいなことがあったときにはすぐに連絡できるってわけだ」
「ああ、他に見つかれば増やせるが、とりあえずウィードの街に1台はあったほうが良いと思うから預けとく。何かあればよろしく頼む」
「パウルあたりに持たせてやったほうが喜ぶだろうけど、あいつだと毎日、内政の報告しますとか言いそうだからねぇ」
「ああ、それは面倒だから姐さんに持っといてもらうことにしたんだ」
アニスは苦笑を浮かべて、自分のベルトポーチにしまい込んだ。
「そうだ、預かってた食糧なんだけどさ、ハドリー王国軍の被害が酷いところとかに配りながら歩いたよ。良かったよね?」
「ああ、姐さんのことだから、蛮族討伐隊の連中にも配らせてやってくれんだろ?ちょっと遅れてるって聞いたから、きっとそういうことをしてるんだろうなって思ってた」
「アレクサンダー伯爵もまだジョンソンの復興だけで手一杯みたいだったからね。一応、伯爵領だから伯爵との連名ってことにしたよ。どうせ、ハドリー王国から鹵獲した食料だ。日が持たないものとかもあったし、捨てるのはもったいないからね。猫は蛮族討伐隊の人気も上げたいんだろうって思ったから、主に連中に配らせといたよ」
マートはアニスの説明に何度も頷いた。続けて意見交換をしていると、アマンダが走って追いついてきた。
「マート、丁度良かった。相談があるんだよ」
「ん?なんだ」
「ちょっと内密の話だ」
マートはそうかと頷くとアニスたちには先に進ませ、隊列から外れる。
「ハドリー王国親衛隊の連中の話さ。人数にすると92人。話をすると、生まれた環境とか、いまの状況とかは私たちとそれほど違ってるわけじゃない。グラント王子に恩を感じて助けてやりたいと思ってるだけで、ワイズ聖王国に恨みがあるわけでもない感じだね。しばらくは捕虜としてついてきてもらうっていう話をしたら、最初は嫌がったけど、結局は納得してついてきた。ただ、3人よくわからないのが居る。表面的には協力的だが、私たちの構成を調べたり、食料を配ってるときにそれを受け取る村人たちの中に誰かを探していたりしている様子があるんだ。巨大グモの前世記憶を持つ男、私と同じオークの前世記憶を持つ男、オーガの前世記憶を持つ女の3人なんだけどね、このまま連れていくか、隔離するかどうしようかと思ってね」
「わかった。それはあんまりのんびりしてられねぇな。ウィードに着くまでに、一人ずつ俺が確認するしかねぇか」
「よろしく頼むよ」
読んで頂いてありがとうございます。
ようやく8月3日発売の本のカバーイラストが公開できるようになりました。
私の母は、好きな本のイラストなどは見るとイメージが壊れるから見ないという人でした。
もしかしたらそのような人がいるかもしれないと思い、少し改行をしてからこちらには載せたいと思います。
また、申し訳ありませんが、ツイッターのほうでは、改行などしても意味がないと思いますので普通に載せます。ご理解くださいますようお願い申し上げます。
次から章を改めます。おそらくハドリー王国に行く予定です。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。




