233 決戦3
ガツン!
呪文はアマンダには効かず、アマンダの矛は突進してくる騎士の胸板を見事に突き、相手は驚愕の顔のまま、衝撃で馬から放り出された。
「次は誰だい?」
アマンダは残る2人の騎士のほうを振り返り、大声で尋ねた。残る騎士と従士たちは恐怖の表情を浮かべた。
「私の弱点は魔法だって誰に吹き込まれたんだい?魔法さえ使えば勝てると思って、いそいそ出てきたんだろ。でも残念だったね」
彼女は矛を構えなおした。そしてそのまま突進して、一薙ぎ。
<波打> 鈍器闘技 --- 全周囲攻撃技
騎士と従士たちは矛の柄に薙ぎ払われ、吹き飛んだ。生き残った数人が腰を抜かしながら、這う這うの体で逃げ出す。ハドリー王国親衛隊のスウェンの姿もいつの間にか近くに無かった。
アマンダは周囲を見回し、魔法無効化の魔道具のスイッチを切った。今回、三人組は余りにもわかりやすく狙ってくれたおかげで魔道具を起動するコマンドを唱えることが出来た。誰から情報が伝わったのかわからないが、魔法が通じなかったという情報がクローディアに伝わったときの彼女の表情を想像し、アマンダはにやりと笑った。
「突撃!」
その時、アマンダのすぐ後ろでシェリーの凛々しい大声がした。彼女を先頭にしてウィード騎馬隊が集団となって今迄の戦いをみて呆然としていたハドリー王国騎士団に突っ込んでいく。ハドリー王国騎士団はろくに抵抗できず、シェリーを先頭にし楔型で突っ込んでくるウィード騎士団が陣を切り裂くようにして真ん中を抜けてゆく。切り裂かれたハドリー王国の左右の隊長は慌てて体制を立て直し騎馬隊を包囲して殲滅しようとするが、さらにそこにアマンダ率いる蛮族討伐隊が騎馬隊の後背を守るように動き、その意図を挫いた。そのまま、2つの部隊はグラント王子が居るであろう中心に向かって突進しようとした。
「本陣を守れっ!大盾を並べよ」
ハドリー王国騎士団長が控えていた徒歩の従士部隊に指示を出し、2つの部隊の進路を塞ぐ。ひとあて、ふたあてとシェリーの騎馬隊が盾を構えた従士部隊を削ろうとしてなんども小さな突撃を繰り返す。ハドリー王国側にはかなりの損害を与えるものの、完全には削り切れない。無理に攻撃して味方の死傷者を出すのを厭ったシェリーたちは、そうやってしばらく攻め立てた後、完全に包囲されてしまう前に本陣を突くのを断念し集団の形を保ったままそのまま脇に抜け、離脱を図ったのだった。
ハドリー王国側も、そのまま何もせずに彼らを逃がすわけではなく、追撃をしようとした。だが、そこでアレクサンダー伯領騎士団が前に進む動きを見せる。そのあたりは、もともとアレクサンダー伯領騎士団に所属していたシェリーとランス卿との呼吸だった。その動きに、損害の激しいハドリー王国側は追撃を断念して守りを固め、崩れた前衛を立て直すのに専念せざるを得なかったのだった。
結局、その後もハドリー王国側は戦いの主導権を握ることができなかった。ただ、数に劣るアレクサンダー伯爵側も決定打を欠き、小競り合いに終始する形で夜を迎えたのだった。
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ハドリー王国とワイズ聖王国の間は長大な山脈によって隔てられており、越えることのできる峠道は一般的に一本しか知られていない。ホワイトヘッドの街はその峠道の西端に位置し、はるか昔は交易によって栄えたこともあったらしい。だが百年ほど前から両国は国交断絶状態にあり、ワイズ聖王国側から見れば最東端の国境の街として位置づけられていた。
その国境の街を守る砦に、かつてはアレクサンダー伯騎士団から100人ほどの騎士を含む千人ほどが詰めていたのだが、今ではそこをハドリー王国の騎士たちおよそ二千が占拠していた。
「ワイアット、どうする?弓で見張りを倒すのは簡単だけどよ。それだけじゃだめだよな?」
ジョンソンでの戦いが始まる2日ほど前、砦から少し離れたところに、蛮族討伐隊の一部、1個中隊100人ほどを率いたワイアットとマートが砦の様子を見ていた。元々はセオドールからホワイトヘッドの砦を脅かしてくれるだけでいいという依頼だったが、シェリー、アマンダたちが到着し、改めてランス卿も含めて会議をした結果、落とせれば落としたいという話になり、ジョンソンの守りは気になるが、そちらはアマンダとシェリーに任せ、マートがワイアットと共に、ホワイトヘッドに向かうことになったのだった。
「もちろん、相手は二千です、そのうち、騎士は200。マート様にはまず敵の兵糧と矢の備蓄を奪ってきていただきます。忍び込むのは簡単でしょう?」
「ああ、みたところ特別な見張りも居ねぇ。大雑把に回収してから焼き払うでいいか?」
「はい。ですが、できれば焼き払うのはやめてください。この砦はすぐに使いたいのです。あと、捕虜となっているアレクサンダー領の騎士たちが見つかれば、できれば解放を」
そう言われて、マートはぐるっと砦の付近を見回した。
「捕虜になってる連中の人影はねぇな。街のほうか、後はこの10キロほどの峠道を越えたところにハドリー王国の砦があったはずだ。そっちに連れてったのかもしれねぇ」
その砦は以前マートがアンジェの両親を探しに潜入したときに、潜入したことがあった。城といっても良いほどの規模で、魔道具をつかった警備が厳しかったところだ。その時はハドリー王国の諜報機関の関係者が多く詰めていたが、今ではどうなっているだろうか。
「いえ、そちらのほうに手を出しても維持できません。少数の貴族或は指揮をしている騎士はそちらに護送されている可能性はあるでしょうが、一般の捕虜はそんなに手間をかけないでしょう。もちろん、向こう側の砦に備蓄なども大量にあるでしょうが、そちらに手を出すと泥沼になるだけです。やめておきましょう」
「なるほどなー。ワイアットは賢いなぁ。いつも俺は行き当たりばったりだからさ。あと、峠の道には何箇所か矢を撃つための見張り台みたいなところがあった。それと、峠道のすこし東側に抜け道もある。そのあたりはどうする?」
「両方とも今は放置で良いでしょう。マート様にホワイトヘッド側の砦の倉庫から食料や矢などの備蓄を奪って頂いた後、我々は降伏勧告をします。我々の目的はこの砦の回復です。自分の国を守るとなれば相手は死に物狂いになるでしょうが、侵略した他国ではそうではありません。おそらく相手は逃げ出そうとするでしょう。そこは我々の裁量に任されていますので、私は敢えて見逃してもよいのではないかと考えます」
「そうか、わかった、さっさと行ってくる」
読んで頂いてありがとうございます。
以前からお伝えしておりました書籍化の件ですが、なんと刊行日がきまりましたっ!
2021年8月3日 出版社は一迅社さんになります。
なんと、もうアマゾンなど複数のサイトで予約が開始されています。
猫と呼ばれた男で検索していただければ出てくるかと思います。
残念ながらまだイラストなどは伏せられていますけどねー。
また情報が入り次第告知させていただきます。
誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。




