228 会議第1回
セオドールとマート、ジュディはジョンソン城の会議室に入った。アニスとアズワルトがすぐにやってきて、忙しいんだけどねぇとか言いながらマートの横に座る。3人で小声で話をしていると、そこからしばらくして、一人の男がやってきた。禿げ頭で逞しい体躯をした男だ。身長はマートよりすこし低いぐらいだろう。
「セオドール様、お呼びと伺いました」
「副騎士団長きたか。マート・ウィード子爵が到着され、状況がわかったのだ。どうするか話し合おうと思って呼んだのだ」
セオドールは、マートの方を振り返る。
「ウォルト副騎士団長だ。騎士団長は攻防戦で残念ながら亡くなったのだ。現在、彼が騎士団のトップだ。よろしく頼む」
ウォルトはマートを見て軽く礼をした。マートはよろしくなと言いながら軽く手を挙げた。
さらに少し経って、ウォルトと同じぐらいの歳だが、背の高い痩せた男がやってきた。茶色い縮れ毛を脂で綺麗に撫でつけている。
「セオドール様、遅れて申し訳ありません」
彼は口ではそう言ったが、あまり申し訳そうではなかった。彼は部屋の中で座っているマート、アニス、アズワルトの三人を見て、何かいいたそうにしたが、そのまま空いた席に座った。
「ゼブロン、ご苦労だった。マート子爵殿。彼は衛兵隊長のゼブロンだ。よろしく頼む」
ゼブロンは座ったまま、軽く顎を引いて会釈した。マートは再びよろしくなと片手を挙げたのだった。
その後、マートはマクギガン北で騎馬隊と蛮族討伐隊がカイン王子の軍勢を北に潰走させ、諜報の報告によると、グラント王子の軍勢は北に移動中だという話をした。このあたりの全貌について言わないのはセオドールとジュディから了解を得ていた。
二人はマートの話を聞いた後、ウォルトは、立ち上がった。
「ならば、全兵力をジョンソンに集めて、決戦をするしかあるまい。幸い、ジュディ様の魔法でマクギガンに居るロニー様の兵力、移動中のウィード子爵の騎馬隊も集めることが可能なのであろう?ならば兵力としては十分。ウィード子爵の騎士団で倒せたのだ。前回、我々が破れたのは不意を突かれただけで、ハドリー王国騎士団の力はたいしたことがないのであろう」
副騎士団長は見たところ40歳近いベテランのように見えた。金色の髭はもみあげまで蓄えており立派なものだ。彼は兵力を花都ジョンソンに集め、北上してくるグラント王子率いるハドリー王国の騎士団を迎え撃ちたいようだった。
「しかし、それではマクギガン方面から移動してくる敗残兵どものがこのまま野盗と化してしまうかもしれぬ。治安維持という面ではきわめて憂慮すべき事態だ」
衛兵隊長も副騎士団長とほぼ同い年のように見えた。彼はずっとカイン王子配下だった敗残兵の様子を気にしていた。治安を守る者としては気になるのだろう。
「騎士団は怪我人も多く野戦を挑むには厳しいでしょう。敗残兵の処理には王国かアレン侯爵家からの応援が来てからのほうが良い。衛兵隊から動かせる部隊はないだろうか?」
伯爵家の嫡子セオドールは副騎士団長の意見に不安を感じているようで、どちらかというと慎重論だ。だが、二人の意見を聞きながら、どうするのか決めかねているようだった。先程からいろんな調整案を出している。
「現在、ハドリー軍から略奪を受けた被害状況を確認中で衛兵隊には余裕がない」
「2万を超えていると言っても敗残兵だ。グラント王子の騎士団を撃破すればその後でなんとでも出来よう」
3人の話し合いはなかなか終わりそうになかった。マートはつまらなさそうな顔をして会議に参加していた。ジュディもどうしたらよいのかわからない様子で、考え込んでいる。
「ウィード子爵殿、貴殿の御意見を伺わせていただけるだろうか?」
副騎士団長がマートに尋ねた。
「うーん、俺は専門家じゃねぇからなぁ」
マートはそう言って首を傾げる。アニスやアズワルトに話を振ろうとしたが、二人は重ねてマートに尋ねてくる。
「そう仰らずに、皆、英雄の言葉を聞きたいと思っております。是非」
マートは困ったなと思い頭を掻き、それなら二人も呼ばなくてもよかったじゃねぇかと内心思いながら、乗り気でない様子で話し始めた。
「んー、逃げ出してきてるカイン王子の部下の連中にパンを配って、グラント王子のところにけしかけたらいいんじゃねぇの?そしたら、野盗とかにはならずに帰ってくれるんじゃねぇかな」
副騎士団長と衛兵隊長は最初きょとんとしたが、困った顔をして、首を振った。
「いやいや、ウィード子爵殿は戦を知らぬ。たかがパン一つで恩を感じる様な連中ではない」
「パン一つで国に帰れるわけがないではないか。何を考えておられるのか」
二人はそう言うと、それ以上の話は不要とばかりに2人で、再びどうすべきか話し合い始めた。だが、話は堂々巡りになっていて、結論は出ない。
マートはしびれを切らして立ち上がった。
「セオドール殿、申し訳ないが、俺は2日ほど戦場を駆け回ったので疲れている。このあたりで退出してもよろしいか?」
セオドールは、仕方ないとばかりに頷いた。
「お嬢、とりあえずランス卿とロニーを連れてきたらどうだ?マクギガンに2人はいなくても大丈夫だと思うぜ」
マートはそう言い置いてアニスやアズワルトを連れて会議を出たのだった。
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「猫、私はさっきのパンを配るっていうのは良いと思うよ」
割り当てられた宿舎に向かいながらアニスはマートに言った。
「んー、うまく行けばだろ?うまく行くもんかなぁ」
「マート様、私には意図がよく呑み込めないのですが、教えていただけませんか?」
アズワルトが首を傾げた。
「ああ、逃亡してきてる連中に、パンを配って、グラント王子の居場所を教え、そこに向かわせるんだよ」
「そんなことをしたら、グラント王子の騎士団の規模が膨らむだけではないですか?」
「俺は戦争の経験ってのはないが、補給が大事っていうのだけは理解してるつもりだ。敵地のど真ん中で、2万も増えるんだぜ。従士って言っても、逃亡してる連中は武器とかも放り出してた。当然食料とかも持ってるわけがねぇし怪我してるのも結構居るだろ。どうなると思う?」
「そうか、そんな連中戦力にはならない。ただの足手まとい」
「ああ、ただでさえ、補給基地にしてたジョンソンは奪回されてしまってる。それほど物資は持ってねぇだろ。そりゃ非情に徹して逃げてきた連中を盾として使って磨り潰せば済む話かもしれねぇが、それは生き残りがいたらどう思うだろうな。集まって来るなとも言えねぇ。敵はパンをくれたが味方には……なんて話にならねぇかなって思ったのさ。まぁ、俺がそういう羽目になったら、これ幸いと兵をできるだけ回収して戦いはせずにさっさと帰ろうとするけどな」
「なるほど。どうしてその説明をされなかったのですか?」
「俺は素人だからさ。うまく行くかどうかわからねぇ、ただの思いつき。それに副騎士団長とかいうのは戦いたいみてぇだから目的が違うだろうしな。まぁ、戦争の話は、俺みたいな素人が口を出すよりやりたいやつに任せて、寝てる方がマシってもんだろ。ランス卿がくれば少しはマシになるんじゃねぇか」
マートはそう言って、まだ良く判らないという顔をしているアズワルトの肩を軽く叩く。
「いろいろ考え方も違うってことさ。こっちは都市の市民も含めて極力怪我人がでないように考えようぜ」
その横でアニスは思案顔でつぶやいた。
「衛兵隊でちょっとやらせておくかねぇ……。猫いいだろ?」
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誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。
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うーん、戦争の話って難しいです。作者の独りよがりになっていないか、すごく気になります。そういう点で感想とか参考にさせていただいていて、助かっています。




