203 聖剣の予言の裏側
“邪悪な龍の出現を聖剣に知らせる警告装置?それが、人族が滅びぬための安全装置だって?確かに人族が脅威となる存在がある事を知らせるのは大事かもしれねぇが、それだけじゃ安全装置というにはかなり物足りねぇんじゃねぇか?”
マートは魔剣の説明に首を傾げた。
“確かにの。では残りの二つの魔道装置を識別してみよう。これら二つとも今は魔力切れで動いていないようじゃ。おそらく魔石から魔力は補充できるとはおもうがの”
魔剣は続けて、左右の魔道装置の識別を行い、その結果を教えてくれた。
まずは右側の魔道装置は、邪悪なる龍追跡装置。邪悪なる龍の能力や、その居場所を聖剣に伝える機能を持つ。
左側の魔道装置は、勇者候補抽出装置。聖なる騎士やそれを支える魔法使いや戦士になり得る人材について、その名前や居場所を聖剣に伝える。
そう教えられて、マートは少し苦笑を浮かべた。この装置が動いていれば、マート自身、勇者候補としてはもちろん、場合によっては邪悪なる龍の一人として聖剣に伝えられるかもしれないということに思いが至ったのだ。邪悪なる龍という定義、聖なる騎士やそれを支える魔法使い、さらにその2人を支える戦士たちという定義は一体何なのだろう。この装置は何をもって邪悪だと判断するというのだ?
ジュディは以前、予言の話をしたときに、騎士や魔法使いたちが誰かというのがわからず、会議は紛糾したと言っていたが、なんらかの伝承が王家なりに残っていたりするのだろうか?それとも何も残っていないのだろうか?ライラ姫は何かを知っているのだろうか。
「そっか。わかったよ。マート、長老、これ、壊していい?」
ニーナがそういった。右手がすでにかぎ爪となっている。
「待てよ、ニーナ。この装置は魔力が切れてて動かない。この装置の存在はエルフの長老と俺達しか知らねぇんだ。少し考えてからにしようぜ」
マートは慌ててニーナを止めた。この装置自体は信用できないが、マート自身の敵となるかもしれない相手の情報が知れるかもしれないのだ。
「邪悪なる龍追跡装置だけでも壊そうよ。僕たちにとっても危険なものになる可能性があるよ?」
ニーナの言葉にマートは何度も首を振った。
「中身をきちんと調べてからだ。それも現在は動いていないから、何も起こらない可能性のほうが高い。それによく考えてみろよ、すげぇ強いやつの居場所がわかるかもしれねぇんだ。それは知りたいだろ?」
そういうと、急にニーナが大きく目を見開き、そっかと呟いた。強いやつの居場所については興味があるらしい。
「長老。悪いが左右の二つに装置については今は魔力切れで動いていないようだ。持ち帰って調べたい。壊したりはしないので、預からせて欲しい」
残念ながら長距離通信用の魔道具を使うための魔道装置の情報はなかったが、いまは動いていないこれらの装置については、いろいろと調べる必要がありそうだ。長老の了承を得て、これらの装置を持って帰ることにしたのだった。また、バーナードたちに調べてもらおう。時間はかかるかもしれないが……。
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ジュディがマートの居る政務館を訪れたのは、数日後の事だった。その日、マートは領内の町や村を訪れて問題点をヒアリングするといういつもの巡視に出かけており、帰ってきたのは夜遅くだった。ジュディはエリオットと気が合ったらしく、政務館の二階にある彼の部屋で時間をつぶしていたが、急いで政務館の入り口まで降りてきた。メイドのクララも一緒だ。
「猫ってずっと日向ぼっこしてるようなイメージだったけど、意外に忙しいのね。おかえりなさい」
「忙しいって訳でもねぇよ。ちょっと散歩してただけさ。自分の領地の連中の顔ぐらい知ってたいだろ」
政務館の階段の前でパウルと立ち話をしていたマートはジュディに出迎えられそう答えた。
「ふーん。お父様と兄さんたちは領地を守るためにって、ずっと騎士団の訓練をしてるわ。お父様は最近は病気で寝込むことも増えて来たけどね」
ジュディはその答えに不思議そうにそう言った。マート自身は、領主がどうやって過ごすべきという教育を受けたこともないので首をひねるだけである。
「うちはそういうのは、シェリーやオズワルトが頑張ってくれてるから大丈夫さ。第一、伯爵領と子爵領じゃ規模が違うだろ。アレクサンダー伯爵のところはホワイトヘッドのところからハドリー王国へ通じる道があるからな」
「そういうものなのかしらね。そういえばシェリーは騎士団長なのよね。すごいわ」
シェリーはジュディの身辺護衛をずっとしていたことを考えれば、たしかに人生を変えてしまった筆頭かもしれない。
「すごいのかね。お嬢と一緒に過ごしてるほうが良かったかもしれねぇぜ」
マートがそういうと、ジュディは驚いたような顔をした。何を言っているのかという感じである。信じられないというような感じで軽く首を振ったが、少しため息をついた。
「いろいろ言ってあげたいけどいいわ。今日来たのはライラ姫、そしてワーモンド侯爵夫人と話ができたからなの。ちょっと聞いてくれる?」
ワーモンド侯爵といえば、ヘイクス城塞都市の領主である。一体どんな話ができたというのだろう。マートはジュディを二階の会議室に案内したのだった。
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