201 エルフの森
翌日、ジュディが帰った後、マートは海辺の家を訪れた。最近になって、この海辺の家に住んでいる12人はたまにウィードの街に出かけるようになっており、街に帰ってきたのを知らせるついでに遊びに行ったのだった。
「マート様 おかえりー」
扉をくぐり、海辺の家をうろうろとしていると、マートの来訪を目ざとく見つけたモーゼルが飛びついてきた。
「おう、モーゼル元気にしてたか?」
「うんー、マートも元気にしてる?」
マートは彼女と一緒に海辺の家の庭にでた。メイスンの町も暖かかったが、この島ではもう暑いという感じだ。以前エバたちが畑にしていたところは、庭に戻され、柵の外側にそこそこの面積の畑が作られている。そこでは、ぶつぶつのあるキュウリに似たものがたくさん実っていた。
「マート様、お久しぶりです」
そう言って挨拶してきたのはワイアットだ。ほかにも数人が次々と声をかけてくる。彼らはかごに様々な野菜を収穫していた。ある程度の食べものなどは、マートも運び込んでいるのだが、彼らもこうやって畑を作って野菜やイモ類を収穫したりもしている。海の恵みや山の恵みなどもあって、食事などはかなり自給自足に近いところまで来ているらしい。ぐるっと、付近を巡り、中央転移公共地点に繋がっている裏山の崖にも異変がないことも確認する。そういえば、ニーナが中央転移公共地点の近くに魔道装置があるはずだと言っていたのを思い出した。長距離通信用の魔道具の中継に用いる魔道装置。その謎が解ければ手に入れた長距離通信用の魔道具が使えるようになるかもしれない。
“ニーナ、ちょっと探しに行くか?”
“うん、行こうよ”
マートはモーゼルと別れて、転移門を越えると、苔むした石畳の広がる場所で改めて周囲を見回したのだった。この付近は以前、魔法感知を使いながら歩き回ったこともあり、魔道装置があるとは思えない。近くといっても、この付近に別の遺構があるのだろうか。マートは、エルフの集落に向かい、長老に聞いてみることにしたのだった。
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生命の樹の精霊であるアニータの案内をうけて、マートとニーナはエルフの集落の長老を訪ねた。ここで、ニーナが顕現しているのは、エルフの里は特別な儀式によって隠されており、入口を見つけるにはアニータを召喚せねばならず、アニータを召喚するためにはニーナが顕現していないといけないという因果関係があったためだ。久方ぶりに訪れたニーナを見て、エルフの里の者たちはあっという間に集って来、口々に祝いの言葉を述べた。アニータがすぐ横でニーナたちに翻訳して伝える。
「てちすいてちすいみらのちもにとちもち(我々の神様、おかえりなさいませ)」
「といににとちもちみらのいにんちのなとんち(精霊様の契約者様、おかえりなさいませ)」
エルフの長老が、彼らから一歩踏み出、ニーナに深くお辞儀をした。
「ニーナ様、おかえりなさいませ。本日は伴侶を連れて来られたのですか?」
長老は人族の言葉を使ってニーナに語りかけた。彼の伴侶と言う言葉に、ニーナは苦笑した。
「ううん、猫は伴侶じゃないよ。僕と猫とは一心同体、文字通り異体同心。そう言うと余計に番みたいだけど、どちらかというと分身みたいなものなんだよ。長老、今日は教えてほしいことがあってきたんだ」
エルフの長老はニーナの説明によくわからない感じで曖昧な微笑みを浮かべたが、ニーナはそれ以上の説明はせずこの辺りで魔道装置がありそうな遺跡がないかと尋ねた。エルフの長老は少し考えこんでから、口を開いた。
「たしかにございます。一族に伝わる秘事ではございますが、ニーナ様は我が一族の大恩人です。説明させていただきます。こちらに」
彼の案内で、マートたちはエルフの住み処の一つに案内された。エルフの住み処は、苔むした太い木の途中に枝を組み合わせるようにして作られており、案内された住み処は地上から5メートル程の高さにあった。勧められるままに、マートたちはテーブルに座り、長老の話を聞いたのだった。
「我らエルフというのは長命な種族で、私は齢200歳を超えております」
マートたちの向かいに座り、長老は話し始めた。エルフの長老の見た目は人間でいうと60才程度にしか見えなかったのだったが、種族によって、そのように違うものらしい。
「その私の20代ほど前の長老の話ですので、少なくとも千年以上、場合によっては二千年ほど前の話になります。当時も我らは今と同じような暮らしをしておりましたが、この森の東側に人族の王国がありました。その王国の名前はピール王国といったそうです」
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