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01 森での遭遇

よろしくお願いします。


2020.9.23 半時間→30分

「よし、これでそろった」

 

 そう言って、彼は落ち葉をかき分けると、臙脂色で四角い殻をもつカタツムリを慎重につまみ上げた。


 彼の名はマート。赤ん坊の頃に旅の一座に拾われた孤児だった。

 感覚が鋭くて身が軽いのを見込まれて、幼い頃から、楽器や軽業を仕込まれて働いていたのだが、1年ほど前、はやり病で一座の主要な人間が倒れてその一座は解散となり、それからは、冒険者としての道を選んだのだった。

 

 年齢は拾われたときから計算すると、15才程だが、すでに身長は180を超え、ほどよく筋肉もついているので、もっと年上に見られることが多かった。

 

 目をよく見ると、普通より瞳孔が縦長になっており、一座にいた頃は、(キャット)というあだ名で呼ばれていた。親父かお袋が猫なんじゃないかと揶揄われたりもしたが、彼もその名をいやがるわけでもなく使ったので、冒険者になった今でも(キャット)という名前で通っていた。

 

 マートが探していたその珍しいカタツムリは、喉の痛みや喘息に効く薬を作る材料として、冒険者ギルドで採集クエストに出ているものだ。彼が拠点としているリリーの街やその近郊でいうと、モンスターが多く出る森の深いあたりにしか生息しておらず、それも、夜にしか活動しないという特性の所為で見つけるのが非常に難しいとされ、高額買取商品となっていた。

 

 マートはこういった高難易度の採集系のクエストを得意としていた。というのも、彼は夜目が非常に利き他の五感も鋭いので、真っ暗な森の中でゴブリンや狼といった脅威を避けつつ、探しものをすることができたからだ。

 

 そのおかげで、まだ冒険者としては1年ほどのキャリアしかなく、魔法が使える訳でも、剣の腕も我流で訓練場での評価では素人に毛が生えた程度である3級でしかないという彼が、冒険者としてはそこそことみなされるランクCのライセンスを持っていた。

 

 マートはつまみ上げたカタツムリを採集用の木の箱に入れ、付近の落ち葉を足すと、背負い袋の一番底に入れた。

 

「これぐらいにして、そろそろ帰るか。うまく行けば、少しは贅沢できるぜ」

 

 ねぐらの安宿であれば、一泊、朝夕食がついて銀貨5枚だ。この収集クエストは金貨3枚。溜まっている未払いの宿賃を支払ったとしても、しばらくは遊んで暮らせるだろう。なじみの踊り子の艶めかしい肢体を思い出して、おもわずニヤニヤとした。

 

 そろそろ夜は更けて、危険な動物やモンスターがうろうろし始める時間だったが、マートはそれは気にせずさっさと歩き始めた。夜目が利く彼にとっては、森は昼も夜も変わりないし、休憩するにしても、こんな深いところではなく、もうすこし浅いあたりまで出たほうが安心だというのが経験上わかっていたからだ。

 

 だが、30分程歩いていると、急に前方が騒がしくなった。風が血と汗、煙のにおい、そして微かではあるが、複数の何かが戦っている音を運んでくる。マートは身をかがめると、慎重に足を速めて、その争いに近づいていく。狼や熊、狐の争いであれば、漁夫の利で毛皮か何かが楽に手に入るかもしれないと考えたのだった。

 

 100mほどまで近づくと、争っているのは人間と狼の群れであるのがわかった。人間側は、3人居たが、ちゃんと剣を持って戦っているのは1人だけで、あとの2人は明らかに素人で腰が引けていた。そのうち1人はそこそこ高級そうな服を着ているので、商人かなにかと護衛の戦士、使用人といった組み合わせだろうか。狼の群れはそれほど大きいものではなく10匹だったが、彼らの回りを取り囲んでいた。

 

 熟練した戦士であれば狼相手に戦えそうなものではあるが、夜の森という場所で、2人を庇いながらではさすがに分が悪そうだった。護衛の戦士はすでに肩で息をしていた。

 

 恩が売れそうだと判断したマートは、彼らに近づくと大声で叫んだ。

 

「助けが要るかい?」

 

 突然現れた彼に、狼は慌てて飛びのき、警戒して唸った。

 

「助かった、頼む。マクギガンの街のレドリーだ」

 

「オッケー。俺はマート、リリーの街の冒険者で(キャット)って呼ばれてる」

 

 お互い簡単に自己紹介を済ませると、マートは腰の剣を抜いてレドリーたちが戦っている場に飛び出した。初手で、警戒している2匹に牽制で横なぎに振るい、狼はさらに後ろに跳び退った。他の狼も警戒しながら姿勢を低くして唸り、この新たな侵入者を睨みつけたが、その姿勢のまま、少しづつ後退していく。レドリーとマートの2人は商人と使用人を背後に庇いながら、視線を外さず睨み返した。狼は敵が1人から2人になり楽に勝てる相手ではなくなったと判断したのだろう、さらに10m程退がるとくるっと後ろを向き去っていった。

 

「ふう、助かった。リリーの街の(キャット)か。ありがとう」

 

 一息ついて、レドリーは手を差し出した。マートもその手をとって握手した。

 

「助かった。ありがとう。ありがとう。僕はハリソン。父がマクギガンの街で商人をやっていて、それを手伝っている」

 

 立派な服を着ている男はそういった。年は20代前半ぐらいだろうか。その使用人らしき男は、安心したせいか地面に座り込んだ。

 

「ここは、バッテンの森の中でも結構奥の方だ。こんなところで何をしてるんだ?」

 

 マートは彼らに聞いた。

 

「いや、それがな……」

 

 レドリーの話によると、彼ら3人は、リリーの街での商談を終え、マクギガンの街に戻る途中ということだった。ハリソンがリリーの街の酒場でこの森を抜けると早いというのを聞き、試してみようとして、道に迷ったらしい。

 

 道を探してうろうろしている間に、狼の群れに追跡され、一度は荷物を積んでいたロバを犠牲にして撒いたのだが、また、別の群れに見つかってしまったらしい。そこまで聞いて、マートは首を振った。

 

「んー、バッテンの森は一応横断できなくはないけど、それが出来るのは猟師とか、余程慣れてる連中だけだぜ。そしてロバなんてつれてくるのは自殺行為だ。そんな話を教えたやつは誰だよ」

 

 レドリーは肩をすくめ、両手を上げてわからないというポーズを取った。

 

「俺は危険だと言ったんだがな。ハリソン様が試してみようと言うので仕方なくさ。それも無理そうならすぐ引き返すつもりだったんだがな。狼に追いたてられて、逃げるのに必死でな。こんな羽目になっちまった」

 

 レドリーは横目でハリソンをチラッと見る。見たところ、2人の仲は結構親しそうだった。

 

「そりゃぁ、大変だったな。道案内は要るか?ここから近くの街道までだったら、護衛も兼ねて金貨2枚でどうだ?弱みに付け込むようで悪いが、それほど高くはないだろう?」

 

 マートがそう言うと、ハリソンが言った。

 

「マクギガンの街まで2日で着けたら、金貨5枚払おう」

 

「5枚?!……坊ちゃ……」

 

「ちゃんと着けるというのを証明したいんだ」

 

 使用人がそう言いかけたが、ハリソンにそういわれて口をつぐんだ。

 

 そのやり取りを見てマートはにやりと笑った。

 

「5枚?良いだろう。ただし、3人ともしっかり歩けよ。そうしなきゃ間に合わないからな。あとは、途中では俺の命令は絶対だ。ちゃんと守らねえと命の保証はできねぇからな」

読んで頂いてありがとうございます。

序章は6話を予定していますが、その間は毎日 その後は1日おきで、朝10時投稿を予定しています。よろしくお願いします。



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