181 キロリザ退治
「オッケー、カルヴァン。さっさと片づけよう」
『氷結』
マートの呪文で2体のキロリザードマンの右手と、一体のリザードマンの頭が凍った。マートは頭が凍ってもがいている手前のリザードマンを蹴飛ばし、2体のキロリザードマンの目の前に飛び込む。
「うぉっ?おおっ」
カルヴァンもマートが使った魔法が意外だったようで一瞬動きが遅れたが、そこはすぐに補正して一歩踏み出し、周囲のリザードマン2体を切り伏せる。2体のキロリザードマンは凍ったままの右手の曲刀でマートに襲いかかったが、その攻撃は単純で勢いよく空を斬ったに過ぎなかった。
<旋脚> 格闘闘技 --- 全周囲攻撃
マートが勢いをつけて地を這うように円を描いて放った蹴りが体重5百キロを超えるであろうキロリザードマンの太く短い脚を刈った。2体とももんどりうって倒れる。
残る3体のリザードマンがセドリックたちに斬りかかったが、彼を守る3人が盾でなんとか防ぐ。1人の脚の傷はかなり酷くそれが精一杯の様子だ。マートは声に出さずに呪術呪文を使う。
『痛覚』
カルヴァンの攻撃でさらに1体のリザードマンが倒れ、残るリザードマンは4体となった。キロリザードマンは立ち上がろうとしたが、マートの呪文の影響を受けたようで、脚が痛んで力が入らず再び転倒した。
『炎の矢』
マートはセドリックたちを攻撃している3体のリザードマンに炎の矢を撃ち込んだ。セドリックの護衛の3人はそれに合わせてそれぞれ自分の前のリザードマンに斬りかかり、なんとか止めを刺す。カルヴァンは転倒したままのキロリザードマンに一歩踏み込み、槍で胴体の中央を貫く。
「セドリック、最後のキロリザードマンに止めを刺しな」
マートはそう声をかけ、再び立ち上がろうとしたキロリザードマンの膝を蹴飛ばす。セドリックは、唇を硬く結び、持った剣を腰だめにして、よろめくキロリザードマンに体当たりをするようにして剣を突き刺したのだった。
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「マートはどうしてこんなところに?」
「ああ、ここの奥に地下遺跡があってな。探索をしてたんだ」
リザードマン達を片付けたマートたち6人は少し離れた安全そうなところまで移動すると、一息ついた。
「この国が亡びそうだというときに、何を呑気な」
一人の男は呆れたように呟く。
「止めろ、それは我々の都合だ。私たちは助けてもらったんだぞ。我が騎士団は礼も知らぬのか」
「それは……団長申し訳ありません」
2人のやり取りをマートは横で静かに聞いた。
「ああ、ダービー王国はかなり酷い事になってるんだな。以前カルヴァンには話したけど、俺は街とかには入らないようにしてるんでそのあたりは全然わからねぇんだ。わりいな」
「いや、こちらこそ、危うく命を落とすところを助けてもらったのに申し訳ない」
カルヴァンがそう言うと、呟いた男も頭を下げた。
「これは、癒しの泉の水だ。時間はかかるが効き目は確かだ。そしてどういう状況なのか教えてくれよ」
マートは頷いて、水を勧めた。脚に傷を負った男がそれを飲み、痛みが減ったと驚いた顔をした。
「ダービー王国は、蛮族の侵攻に苦しんでいるというのは2年ほど前にそなたに話したときと変わっていない。我々はなんとか南部の拠点を守りつつ耐え忍ぶのが精一杯という状況だ。最近、この古都グランヴェルに蛮族が大量に集まり、糧食もかなり運び込んでいるという情報があってな、蛮族がなにか企んでいるのではないかというので偵察に来たのだが途中で蛮族に見つかってしまった」
「そうか。へぇ、糧食ね」
マートは思わずにやりと笑った。
「どうしたんだ?」
「いや、穀物を貯め込んでいるのなら貰って来ようかとおもってな」
マートの言葉に、カルヴァンたちは驚いたような顔をした。
「気楽に言うのだな。古都グランヴェルに集まった蛮族は、巨人族、先ほどのリザードマン族、ラミア族などおよそ5万程だ。監視の目もかなりあるぞ」
「まぁ、無理そうなら諦めるが、蛮族が溜め込んでるものなら貰っても大丈夫だろう」
「もちろんそうだが、穀物など嵩張るだろう」
「ああ、マジックバッグがあるからな。残った分はついでに焼き払ってこようか?」
「それが出来れば助かる。蛮族といえども、数が多ければ食べ物が要るからな。焼き払えばバラバラになってくれるかもしれぬ」
「オッケー、任せとけ」
マートはにやりと笑った。
「そなたのような者が仲間に居れば心強いのだが、我々と一緒に来てくれぬか?」
セドリックは思わずそう呟いた。
「悪いがそれはできねぇんだ。大変だと思うが、頑張ってくれ。ああ、さっき見つけたマジックバッグだが小さいほうは使い道があまりないから一つやるよ。これぐらいの人数なら重宝するだろう」
「こんな貴重なものを」
「ついでにちょっと教えてくれよ。どうしてそんな蛮族に押されてるんだ?」
「巨人族の長が蛮族とは思えぬほど賢いようでな。他の蛮族にも指示をだし、今回のようにどこからか糧食まで用意して連携して攻めてくるのだ」
「そうなのか。ここからはるか西にあるラシュピー帝国というところも、蛮族にかなり攻め込まれているらしいんだが、そこは魔龍同盟という連中が協力して、その所為で苦労しているらしい」
「なんだ?その魔龍同盟というのは」
「俺の目みたいに、蛮族に似た特徴を持つ連中のことを、なんと言う?」
「魔人……だな」
「その魔人の中には、蛮族と話が出来る連中がいるらしいんだよ。現状に不満を持つ、そういう連中が集まって、魔龍同盟という集まりを作っているらしい。念のため言っとくが、俺はその連中の仲間とかじゃねぇよ」
「ふむ」
「去年の話らしいが、その魔龍同盟の一番強いというやつが、魔龍王と名乗り、蛮族を使ってラシュピー帝国の半分を支配した」
「なんと……そのような事になっているのか。救援が来ぬわけだ」
マートの話に、カルヴァンたちは絶句した。
「連中は、その蛮族と話せる魔人がゴブリン共に麦などを作らせて、糧食を用意している。同じような事が、こっちでも起こってるのかと思ったのだが、蛮族の傍らに人族の姿は目撃されてないか」
「いや、聞いたことが無いな」
セドリックとカルヴァンは顔を見合わせて首を振った。
「そなたは、ラシュピー帝国、あるいはワイズ聖王国の者か?」
カルヴァンはマートの顔をじっと見て言った。
「さぁな」
マートは首をすくめる。
「もし、そうならそのような情報に詳しいことも、我々と一緒に来れないというのも辻褄が合うなとおもってな」
「ふふん、ごまかし切れないか。確かに、まぁ、そんなものだ」
「やはりそうか。ワイズ聖王国に外交の使者として行かれたリサ姫は元気にしておられるか御存知ないか?」
マートは少し考えたが、思い出すようなそぶりをしつつ答えた。
「ああ、ワイズ聖王国に滞在しておられるはずだが、詳しくは判らない」
「ということは無事着いているということか。それならよかった」
「何か伝えることでもあるのか」
「いや、それには及ばない。ありがとう」
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