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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第23章 倉庫棟の調査
181/411

180 付近調査継続


 いきなり真っ暗な地中に転移したとしたら、パニックに陥りそうであるが、マートはある程度周りも見えたこともあって、慌てることはなかった。そういえば転移装置は障害物を探知と言っていたが、つまりは転移先が土の中に埋もれていて、ある程度の土を撤去し、転移ができるようになったということを意味していたのだろう。

 

 「瞬間移動装置起動」

 

 マートが唱えると、足元の地面が緑色に光った。パスワードの認証ができ、元の倉庫棟に行けることを確認したマートは、天井を掘ると土が崩れて生き埋めになる可能性があると考えて、幅広のナイフとマジックバッグを使って斜め上に土を収納していく。途中でマジックバッグが一杯になり、転移装置で倉庫棟に戻って土を捨て、再び移動して土を収納するというのを5度ほど繰り返してマートはようやく地上に出ることが出来たのだった。

 

 だが、地上に出たマートは見覚えのある光景に落胆した。以前海辺の家の裏山に残っていた転移装置からニーナが来たことのある深い森の中だったのだ。転移装置と魔法のドアノブの行き先がつながったのは便利かもしれないが、倉庫棟の場所も含めて、全く金儲けや新しい魔道具に繋がらなかった。

 

 中央転移公共地点というからには、この森はかつて多くの転移装置の中継地点だったのかもしれない。そう思って、魔法感知を使いながら付近を歩き回ってみたが、使えそうな転移装置は見当たらなかった。改めて見ると、海辺の家のある島につながる転移門も、こちらは動物だが、かなり掘り返したような痕跡があった。念のために土を被せて偽装しておく。倉庫棟から繋がっていた転移装置からの脱出には10メートル以上掘ったので、ほかの転移装置も同じぐらい埋もれていることになるのだろう。探すのはかなり大変だし、今回の魔法装置でも再起動するのに魔石を20個も使った。新しい転移門や転移装置を探すのを諦めたマートは、諦めて倉庫棟にもどったのだった。

 

---- 


 予定していた2箇所が、共に期待はずれの結果に終わったマートは、気を取り直して魔法のドアノブの1カ所を試してみることにした。今までのところ、1番がドワーフの居るミスリル鉱山、5番がヨンソン山にある温泉、8番が海辺の家の3つが判っている。今日は2番を試してみることにした。

 

 ダイヤルを2に合わせて倉庫棟の壁に挿し込み、ドアノブを引く。今度の行く先は細かな瓦礫のようなもので埋まっていた。マートは先程と同じように、幅広のナイフとマジックバッグを利用して瓦礫をどんどんと収納していくことで掘り進み、1時間ほどで、小部屋らしきところを抜け、通路に出ることが出来たのだった。

 

 出た先の通路は、それほど幅が広くなく、人が3人並んでやっと通れるぐらいであった。壁は、海辺の家とは違い、岩が積み上げられて作られており、窓は存在せず、当然真っ暗である。通路はところどころ壁が崩れて土砂が流れ込んできており、それを撤去しないと通れないところもいくつかある。それとは逆にところどころ部屋のように区切られている区画もあり、その中には朽ち果て、おそらくなにかしらの家具であったであろう残骸などが散らばっていた。

 

“これってどこか判るか?”


 マートは魔剣に聞いてみた。

 

“わからんな。ただの廃墟だろう”


 マートが地面におちている陶器の欠片を拾い上げた。表面を拭うと、表面がつやつやとしており、赤や青などの彩色が施されていた。

 

“今では作り方がわからねぇ綺麗な皿とかが見つかることがあって、そういうのは、すげぇ高く売れるときがあるんだぜ”


“なるほどの。たしかに今の時代では美しい陶器もガラスもあまり見んな”


“ガラス?ああ、そういえば倉庫のガラクタでいっぱいあったな。ガラスの使い道ってアクセサリとか杯ぐらいだろ?あんなにたくさん何に使ってたんだろうな”


“窓じゃよ”


“窓?窓にガラスを?”


“窓にガラスを嵌めると、雨や風、虫もあまり入り込まず、室内が明るいじゃろう”


“へぇ、なるほどな。すぐ壊れないのか?”


“それはわしにもよくわからんが、ある程度厚くすれば大丈夫なのではないのか?”


“もしかして、それで海辺の家の窓はあんなに大きいのか。2階の窓には格子戸がなくて、全部板が嵌めてあったけど、どうしてなのかと思ってんだ。でも、ガラスは残ってなかったな”


“ああ、もしかしたら以前の持ち主が持ち去ったのかも知れんな”


“ガラスは金属みたいに溶けるのか?それなら再利用する方法とかもあるかもな。今度ドワーフの連中と相談してみるか”

 

 マートはそんな話をしながら、残骸や場合によっては土砂を除けたりして、何か宝物でもみつからないかと探し始めた。


 魔法感知の呪文を併用して探すと、すぐに魔石がいくつか見つかった。ここは研究室のように綺麗に片付けられたものというわけではなく、何らかの理由で様々な物が残ったままの、手付かずの遺跡ということなのだろう。これは期待できそうだとマートはニヤリとした。

 

 続けて探索を行って、マートはかなりの数の魔道具を手に入れた。ただ、識別の呪文は回数が限られているのでどのようなものなのか詳しくは後のお楽しみだ。握った拳より2周りほど小さく、表面がつるつるの石のようなものが色違いで3種類、併せて10個。そのうち、2つ、1種類はアニスが持っていた光の魔道具と同じものだった。あとは、装飾の施された小さい杖は12本、おそらく決まった魔法が使えるタイプだろうが、何の魔法かまではわからなかった。そして、マジックバッグが大1つに小3つ。大は、いまマートが背負い袋としてつかっているものと同じぐらいの容量、小は、ベルトポーチとして使っているものよりはもう少し入りそうだった。そして、黒い板のようなものが3つ。マートが持つ遠距離通信用の魔道具によく似ていた。

 

 他に、魔石は80個程、そして、以前もみつけたことのあるピール王国時代の金貨、銀貨、銅貨がみつかった。全部で200金貨分ほどだ。ただし、錆び付いたりしてかなり損耗が激しいものがほとんどで、表面も辛うじて読めるというものばかりだった。

 

 ある程度回収を終えたところで、マートの耳には遠くで誰かが戦っているような音が聞こえてきた。おそらく敵味方併せて10体以上の人間と何か魔物のようなものが戦っているような感じである。その音を頼りに、彼は真っ暗で細い通路を進み、ほんの少し開いた穴から光が漏れてきているところを見つけたのだった。

 

 マートが覗き込むと、そこも洞窟の一部だったが、広い空間が広がっており、外からの日差しがところどころ射しこんできて明るくなっていた。マートが覗きこんでいる穴は、その広い空間の足元に小さく開いているもので、目の前に小さな水たまりができていた。そこで、2足歩行で身長が2メートルほどもあるトカゲ、リザードマンとよばれる蛮族と、人間が戦っていた。そして、その人間の2人にマートは見覚えがあった。ダービー王国の湿地帯で一度助けた男達で、たしか名前はセドリックとカルヴァンだったはずだ。

 

 リザードマンは2体は上位種であるキロリザードマンで、12体のリザードマンを引き連れていた。人間側は、セドリックとカルヴァンの他、3人で1人は脚を引きずっており、他のメンバーも満身創痍の状態、明らかに人間側が押されている。マートは急いで土砂をマジックバッグに取り込んで通路を確保すると、なんとか彼らが戦っているところに抜け出したのだった。

 

 薄暗いところであるので、人間であるセドリックやリザードマンは、まだ気付いていなかったが、キロリザードマンはマートにすぐに気づいた。あまり余裕はないとみてとったマートは、勢いよく立ち上がり声をかけた。

 

「大丈夫か?加勢するぜ」


肉体強化(ボディブースト)

炎の矢(ファイヤアロー)


 マートは今にも脚をひきずっている男に斬りかかろうとしていたリザードマンに炎の矢を撃ち込んだ。一撃で倒すには至らなかったが、リザードマンはその衝撃に後ずさる。

 

「誰かは判らぬがすまぬ、助かる」


 カルヴァンがその言葉に答えて返事をした。

 

<縮地> 格闘闘技 --- 踏み込んで殴る 

<円剣> 直剣闘技 --- 全周囲攻撃


 マートは、一気に距離を詰めリザードマンの集団に飛び込むと、抜いた強欲の剣で、剣先を伸ばしつつ、周囲を一薙ぎにした。4体のリザードマンが血を噴き、一斉に倒れる。

 

「俺だよ、水都ファクラから逃げるときに道案内をしたマートだ。セドリック、カルヴァン、久しぶりだな」


「おお、マートか。あれから一年以上経つが無事で居たのだな。命を助けてもらうのはこれで2度目か。今回も本当にいいタイミングだ。たすかった」


 カルヴァンがそう言いながら、一刀でリザードマンの一体を倒し、マートの横に出る。

 

「3人はセドリック様を守って戦え、マート、一緒にキロリザの相手を頼む」


 セドリックを囲んで守るように3人が剣を構え、リザードマンたちを牽制した。


 マートは頷いた。キロリザというのは、キロリザードマンの略だろう。キロリザードマンは、地上ではオーガナイトよりすこし弱い程度の強さだったはずで、普通の騎士なら苦戦する相手だ。冒険者の道場で初段のマートも肉体強化なしで普通の剣でなら同じようなものだ。見たところ、5人の人間のうち、カルヴァンはかなり腕が立つが、他の3人とセドリックの腕は騎士見習い程度といったところでしかない。キロリザードマン2体とリザードマン12体はさすがに手に余っただろう。




読んで頂いてありがとうございます。


誤字訂正ありがとうございます。いつも助かっています。

評価ポイント、感想などもいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] そうそう都合よく良い結果には成らなかったね(笑) でも、扉の未開拓の方は儲けたな!しかしダービー王国も蛮族祭り……?
[一言] マートは精悍な青年のはずだけど、ネコネコ言われてるためか黒猫がお宝求めて穴掘りしてる映像が脳内で再生されてコミカルで癒されました。 頑張ったのに知ってるところに出て、お宝が無くてがっくりし…
[一言] 久々の登場で誰だったか思い出せない人の為に。 14章114話参照
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