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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第22章 王都でのウィード男爵
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177 避難民

 

「ブロンソン州の避難民を自領で保護したいので、協力して欲しい?」


 ワイズ聖王国宰相であるワーナー侯爵は遅い昼食を摂りながらマートの依頼を聞いたが、予想外の事だったらしく、そう問い返した。彼は宰相として、極めて多忙な日々を過ごしている。今日も特別に時間を割いたのだが、このような話がでてくるとは思っていなかったようだった。

 

「ああ、避難民の話は知ってるだろ?」


「もちろんだ。エミリア伯爵や内務庁の長官などとも話をしている。あのフレア湖の南岸一帯はかなり治安も悪くなっていて頭を抱えているのは確かだ。それを解決したいと言ってくれるのは、私にとってはありがたい事だが、そなたは、小さい所領が良いと言っていたではないか。あそこには3万を超える避難民が暮らしているのだぞ?そなたの所領の人数とあまり変わらぬ数だろう」


「3万?俺が聞いたのは千のグループが10個ほどだと……いや、まぁそれは、小さな、いや小さくないが、そうなんだが……今の苦境を聞いちまってな。俺の所で救えるものは救ってやりたいと思ったんだ」


 歯切れは悪いが、とりあえず救いたいという気持ちがあるということを、マートは伝えた。


「ほほう、そなたも、少し為政者の気持ちがわかったのか」


 ワーナー侯爵は、少し微笑み、頷きながらそういい、話を続けた。


「しかし、そなたの所領からはかなり距離があるのは判っているだろう。王国内で一番遠いといっても過言ではない。連れて行くのはかなり無理があると思う。私も難民を受け入れてほしいと所領の大きな貴族にお願いしているが、そなたの領地に行く途中に領地を持つアレン侯爵でさえ、距離が遠すぎるとして断られたのだ」


「わかってる。だから商人たちに協力を頼もうと思うんだ。その許しが欲しい。そして、領地を通過させる許可を各領主と調整してもらいたい。みんな困ってるんだろ?」


「商人たち?彼らは利が無いと動かぬだろう。そなたの領との専売契約などと言い出してもたぶん無理だぞ」


 専売契約……何のことだろうとマートは一瞬考えたが、後で誰かに聞こうと横に置いておく。


「ああ、わかってるさ。だけどな、一つ隠し札があるのさ」


「もったいぶらずに話せ」


「金鉱山だ」


「?!」


 ワーナー侯爵は食べていたパンを急いで飲み込んだ。

 

「金鉱山だと?」


「ああ、蛮族が住み着いてたのを確保してある。領地経営が軌道に乗ってから使おうと思ってたんだがな。採掘を任せようと言えば飛びつきたくなる商人は居るだろう」


「本当に金鉱山だという確証は?」


「誰とは言えねぇが、調べては貰ったよ。大丈夫だ」


 ワーナー侯爵はじっと考え込んだ。彼の許には、数週間前に刻印はない10キロの金のインゴットを王都に持ち込んできた男性について情報が入ってきていた。その商人も検査をして、それが純金であることは確認していた。価値としては金貨2千枚ほどの価値のあるものなので、すぐには対価を払えない、3日程かかるので住所をというと、結局その男は名前も告げずに去っていったのだという。その金の出処を探っていたが、その背後にマートが居るのではと思ったのだ。マートの調べて貰ったというのは、もちろんドワーフのことであるが、彼は違う意味にとらえたようだった。

 

「本当に金鉱山の採掘事業を引き受けさせてくれるというのであれば、3万人の1ヶ月分の糧食を賄えと言っても、飛びつく商人は居ような」


「だろ?それで、国としても頭を抱えている難題が一気に片付くんだ。悪い話じゃねぇと思うんだ」


「10キロのインゴットでいうと15個ぐらいあれば、糧食は揃いそうであるがな」


 ワーナー侯爵がそう言うと、マートは一瞬不思議そうな顔をしたが、その後にやりと笑った。


「まぁ、そうだが、さすがにすぐには用意できねぇな」


「わかった。だが、商人に採掘を全面的に任せるのは許さぬ。採掘量について、我々と相談した上で、そなたの管理下で掘らせるのだ。そして、さすがに鉱山は無税というわけにはいかぬ。国に利益の25%を納めよ。その代わり、国で難民たちの糧食を全て面倒見よう。通り道になる各領主たちにも私が責任を持って話をする」


 ワーナー侯爵はマートの話にそう応えた。マートにはよく判らない話であるが、金の産出量・流通量について、ある程度コントロールできる形をとらないと経済がおかしくなってしまうということらしかった。そして、25%というのは、他の金山からするとありえないほどの税率で、通常は国営、良くても50%なのだと説明された。そのあたりは、以前マートがハリソンに相談した時に教えてもらった内容とほとんど一致していた。


「わかった。もちろん、それで良いぜ」


 マートはその条件を飲むことにした。


「ふむ、ライオネルと言ったな。そなたが責任者か?」


「一つの郡の責任者でございます」


「ふむ、良いだろう。そなたは連絡役として、各郡の責任者を周り、移民に参加したい者達を内務省に届けさせるように通達を行うのだ。この後、手紙を用意するので、それを持って内務省に行き、詳細をつめるが良い」


「はい。かしこまりました」


「マート、資材省の役人をそなたの領地に派遣する。金山の規模と開発計画を立ててもらわねばならぬゆえな。そなたの領地での責任者は誰だ?」


「あーっと、まだ決めてねぇが、政務館に来てもらえれば案内できるように段取りを整えよう」


「よかろう。こちらは年明けには出発させるので、遺漏のないようにな」


 ワーナー侯爵はこうと決めれば話は早かった。避難民の問題は解決に向けて進み始めたのだった。

 

-----

 

「マート様ありがとうございました。これで、我が領の者は皆助かります。この恩はかならずお返しさせていただきます」


 ライオネルはマートに頭を地面に擦り付けんばかりにして感謝した。

 

「どうせ金山の話はそのうち宰相にするつもりだったからな。今回は丁度良かった。どうせ税金も取られるだろうって思ってたんだ。宰相もだいぶ割り引いてくれたみたいだしな。たぶん宰相としても丁度問題が解決してよかったんだろ。今でも毎月なんらかの援助をしてたんだろうしな。自分から言っておいてなんだが、孤児や魔人に関する話も無理には言わねぇ。そんなの反発されるだけだからな。受け入れてくれる家庭を探してくれたら良い。頼んだぜ」


「はい、わかりました」


「これから、ライオネルは内務省に行って内容をつめる事になるんだろ。うまくやれよ。さっき俺に詰め寄った時の事を思い出せば大丈夫だ。まぁ、一つの案としては、いっぺんに1万だか3万だかの人数を運ぶって考えねぇで、1日100人とか200人とかよ、まぁあんまり人数が少なかったら盗賊が怖いが、そんな感じにある程度人数を絞って毎日出発させるとかなら、各領地でも食料や寝る場所を提供することも出来るだろ。宰相の力を利用して各領地で用意してもらえるようにするっていう手もあると思うんだ」


「そういうのも含めて提案してみます」


 ライオネルはマートの話を聞いて頷いた。


「金鉱山などと、またマート殿の秘密があったのではないか。私も聞いていなかったのだがな」


 シェリーは少し不満そうだ。


「いや、すっかり忘れてたんだ。ライオネルがあまりに真剣だったんでな。思い出すことが出来た。まぁ、よかったろ?」


「それはそうだが、一攫千金を夢見た連中が領地に押し寄せるぞ。衛兵の配置なども考え直さねばならぬ。そのような事があるから、あらかじめ教えてもらわねば困る事もあるのだ」


「わかった。それはその通りだ。宰相との約束もあるし、誰かを領地まで走らせよう。シェリーはこっちに居てもらわねぇといろいろ問題が出そうだから、アレクシアに行ってもらうしかないか」


「うむ、そうなるが、王都の人手がどうしても足りないな。ライオネル、取り急ぎ王都の屋敷で働ける者の心当たりはないか?」


 シェリーがライオネルにそう尋ねた。

 

「もちろん居ます。明日にでもそちらに行かせましょう」



読んで頂いてありがとうございます。



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[一言] ここで金鉱山か存在忘れてた、しかし宰相殿は優しいな25%でよいとは
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