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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第21章 ウィード男爵
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167 続 領内巡視


“前にエミリア伯爵たちと来た時に比べると、南部の蛮族はかなり減ってるな”


“そうだろ?かなり僕が退治したからね”


 マートは空から領内、開拓村の付近を見て回りながら、ニーナとそうやって念話で話をした。

 

“怪しまれない程度になって言ってたのに、やり過ぎたんじゃねぇか?シェリーは不思議に思ってたぜ”


“うーん、数えてないからわかんないけど、せいぜい千体とか2千体とか、そんなものじゃないかな”


“2千体って、それはかなりだろ”


“それでも、ほら、まだ居るよ。最近は海辺の家ばっかりだったから、また南の方から流れて来ちゃってるね”


“村を廻るついでに定期的に間引くことにするか。王都に居る時はちょっと遠いけどな”


“そうだね。王都から北に飛んで、あの遺跡からウィシャート渓谷に行くのが一番早いかな”


“それで、片道2時間ぐらいか”


“そんなものだろうね”


 そういう会話をしていると、シェリーの村の上空あたりにまでやってきた。周囲は緑色に光る麦畑だ。

 

“このあたりも、うまく麦が育ったみたいだな。今年の秋が初収穫だろ、順調そうでよかった”


“よくわからないけど、無事育ってそうだね、あ、そうそう、前も言ったけど、ここの南西にある洞窟の入口って鉱山っぽくない?入口の天井に支える木があるでしょ”


“ああ、昔、ゾンビに突っ込ませて制圧したって言ってたところか?”


“そうそう、それっ”


 マートは視界を巡らせ、ニーナのいう谷間にある洞窟の入口を探した。たしかに彼女の言うように、人の手によって洞窟の入口は補強され、その前のちょっとした広場にも建物が建っていたような痕跡が残っていた。


“シェリーのところの村人はまだ見つけてねぇみたいだな。蛮族がまた入り込んでたら厄介だ。ちょっと見に行くか”


 マートは洞窟の入口に降りた。一応警戒はしながらも、中に入っていく。入口あたりはかなり広くなっていて、そこから既に枝葉に通路が別れていた。臭いを嗅ぎ、耳を澄ませる。誰の気配もなさそうだ。

 

“やっぱり鉱山っぽいな。一応調べてもらっておくか” 


“調べてもらうって誰に?”


“ドワーフがいるじゃねぇか。久しぶりに顔を出しておこうぜ”

 

 マートは蛮族が住み着いていないと一安心しつつ、魔法のドアノブのダイヤルを1に合わせ、ドワーフの居るダービー王国の湿地帯に向かった。通訳代わりの炎の精霊(サラマンドラ)のヴレイズを従えて行く。

 

“ヴレイズ、通訳を頼む”


“ああ、いいとも”

 

「よう、元気にやってるか?」


 マートは横に居る炎の精霊(サラマンドラ)のヴレイズにお願いして、その場で言葉をドワーフたちに翻訳して伝えてもらう。


「ららてちすいすちきちからもらんら……」(おお、我らが友よ。元気にやっているぞ。ここを紹介してくれて本当にありがとう。そなたは、我が一族の救い主だ) 

 

「ならよかった。今日は頼み事があってな。他のところで鉱山らしきところを見つけたのだが、どれほどのものかみて欲しいんだ」


「もらかにすらみみににからもら……」(もちろんいいとも。ただ、少し時間がかかるかもしれん。丁度良い。折角だから少し飲んでいくがいい。最近新しい酒が出来てな)


 このドワーフと呼ばれる連中は、酒が大好きなようで、以前ウィスキーをプレゼントしたら本当に大喜びをしてくれていた。ただし、底なしに強いので油断しているとすぐ酔い潰されてしまう。

 

「判った、良いとも。調べてほしいというのはこの扉の先なんだ。軽く案内しよう」


 マートは先に、魔法のドアノブの抜けた先を見せた。

 

「てちのちかかち……」(わかった。ちょっと調べてみよう。少し待っていてくれ)


 一部のドワーフは、マートの案内してくれた坑道に残り、壁などを調べ始めた。マートはそれ以外のドワーフたちと、彼らの鉱山に戻る。彼らはマートを地中に作った家に案内してくれた。半年ほどしか経っていないであろうに、壁には様々な装飾がなされた立派な住居になっている。

 

「すげぇな。これは自分たちで彫ったのか?」


 マートは壁一面に彫られた飾り彫刻を指さしてそう訊ねた。


「ちかちすにもちいしち……」(当たり前だ。我らドワーフは手先も器用でな。装飾品なども得意なのだぞ)


「ほほう、そうなのか。今度作ってくれよ」


「ににからもら……」(いいとも。誰に作ってやるのだ?)


「そうだな。俺の家に居る姐さんとアレクシア、エバ、アンジェ、アンジェのお袋さんとその近所のおばちゃん2人、メイドでつかまってた3人、近所のコーネリアっていうおばちゃん、ショウの嫁さんのレティシア……」


「らにらににのなかな……」(おいおい、我々はどこかの土産物のような簡単なものは作らぬ。作るのにも1つで1週間はかけることになるのだ)


「そうか、悪かった。職人だもんな。時間の空いた時に1つか2つでも作ってくれたらいい。姫さんたちに献上することにしよう」


「もにこなみみみに……」(身分に拘る必要はないがな。とりあえず若い女性か。わかった)


「ああ、そうだな。酒はどんなのが出来たんだ?」


「ちちのらみらちかちすにしちから……」(ああ、この辺りだといい麦やブドウの入手が難しくてな。少し麦っぽい白い粒の草の実から作ったのだ。ちょっと味を見てみるか?)


 マートは白く濁った液体の入った杯を渡された。すこし甘い匂いがする。口に含んでみるとすこし酸味が強いが確かに酒だ。

 

「へぇ、悪くないんじゃないか?」


「のらなになもにみちみみしちきち……」(こういう実なんだが、マートは知っているか?)


 ドワーフは薄い茶色に包まれた粒をマートの掌に載せてくれた。マート自身は見覚えのないものだ。

 

“それは、東方植物図鑑に載ってたよ。たしか、米とかいう植物だ。大陸東部の温かい湿地によく生育するらしい”


 マートが触っていると、ニーナからそういう念話が来た。


「米というらしいぜ。大陸東部の温かい湿地によく生育するんだってよ」


「くらなねのらもいから……」(ほう、米というのか)


“ダービー王国では、蒸したり焚いたりして主食として食べるらしい”


 マートはニーナから得た知識をそのまま伝えた。

 

「はなもなねとらなのちとらなのち……」(ふむ、そうかそうか。ならば、酒にも適しているということだ。もう少しいろいろ試行錯誤してみることにしよう)


 そういうことを話していると、鉱山を調べてくれていたドワーフたちが帰ってきた。

 

「んらすらのらこい……」(喜べ、あれは、金鉱山だ。埋蔵量もかなりありそうじゃぞ)


「おお、すげぇな。こんなにすぐわかるのか」


「のらなつちみみみらのらからくち……」(鉱山のことは儂らに任せておけば間違いはない。じゃが、儂らは人数が少ない。こっちだけでも手一杯じゃから、そっちの鉱山に手は回らんぞ)


「わかった。どうするかはちょっと考えるさ」


「てちのちかかち……」(わかった。あとは、これはそなたの取り分じゃ。ここの鉱山で掘り出されたものじゃ。儂らはここを安住の地にしたいと考えておる。そなたにはどれほど感謝しても足らぬが、とりあえずこれを受け取ってくれ)


 そういって、ドワーフは、いくつかのインゴットを取り出し、マートの前に並べ始めた。

 金の大きなインゴットが5つ、銀が10、そして、銀色に光る金属のものが1つだ。

 

「のにみみみらぬわのにすらにみみきらかから……」(金の10キロインゴットが5つ、銀の同じく10キロインゴットが10、そして、ミスリル銀の1キロインゴットが1つになる)

 

「すげぇな。これがミスリルか」


 マートはミスリル銀のインゴットを持ち上げた。1キロインゴットだが、大きさは金の10キロインゴットの倍程の大きさがある。同じ量の水と重さはほぼ変わらない。


「こんな軽いものなのか?」


「とらなしち……」(そうだ。だが、鉄などよりはるかに硬い。武器よりは鎧などを作るのに適した金属だ。加工も難しいがな。この鉱山を掘っておるが、金や銀はともかく、ミスリルの埋蔵量はあまりなさそうだ。とはいっても、そなた個人でつかう程度であれば十分にあるだろう)


「すごい量だな。わかった。とりあえず金のインゴットを3本もらって、残りは預けておくよ。ミスリルは使い道が難しいし、どうせ加工するのに、あんたたちに頼まないといけないだろう。預けた金銀は装飾品を作るときにも使ってくれたらいい」


「ちち……」(ああ、わかった。また寄ってくれ。いつでも大歓迎だ)


「ああ、今日は急で何も持ってこれなかったが、今度は何か持って来よう」


 そういって、マートはドワーフの里を立ち去り、村の巡視に戻ったのだった。




読んで頂いてありがとうございます。


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[良い点] あけましておめでとうございます。 最新まで読ませて頂きました。 面白かったです。 十代後半なんですよね、猫さん。 えらいものです。 十代後半に求婚した騎士団長の女伯爵さん(いい大人の…
[良い点] まーた女性にばっかりプレゼントしようとして マート、そういうとこだぞ
[一言] 前からだけど、ニーナの顕現を解除したらお互いの記憶が共有される設定って死んでる? まあ、無い方が良いかもしれないけど。
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