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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第20章 ラシュピー帝国へ
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161 魔人会

あけましておめでとうございます


誤記訂正 2021.1.5 オークキング → オーガキング


 柄まで刺さった剣は、普通なら肉が収縮して簡単には抜けないはずであるが、強欲の剣はその斬れ味のおかげか、まるで緩い泥から引き抜くかのように簡単に抜けた。“肉体強化3を強奪しました”と通知が来たが、マート自身が肉体強化は★3あるので意味がない。

 

 ゴブリンイーターが倒れた後、まともに動けるのは、顔面が緑色の男だけだが、じろっとマートが睨むと腰を抜かしたようにその場にへたり込んだ。

 

 周囲の様子を見ると、リリパットと呼ばれた男は虫の息で、辛うじて死んではいないが手当をしてもマートの治療の腕では時間の問題だった。他に生きている者は居ない。マートはニーナにリリパットから記憶奪取と情報収集を頼み、へたりこんだままのゴブリンの前世記憶のある男に近づいていく

 

「もう、お前さんだけだぜ。どうするんだ?」


「降参だ。命だけは助けてくれ」


「魔龍同盟だな?」


「ああ、そうだ。だが、本当は魔人会なんだ」


「魔人会?」

 

 その男は、そういいつつ、武器を放り出してその場に座り込んだ。彼が自ら言うには、名はサルバドル。前世記憶はホブゴブリンだという話だった。そして、マートが何かを問う前に、命乞いのつもりなのか、自分から様々な事を話はじめた。

 

 彼は10年以上前、その頃、魔人会と呼ばれていたグループに参加した。当時の魔人会はステータスカードを入手して自分に前世記憶があるとわかった冒険者が、お互いの情報交換や協力しあうために作った組織でしかなかったのだという。

 

 当時所属していたのはラシュピー帝国にいた魔人の冒険者20人ほどでその中にはマートが以前リリーの街の近くの地下遺跡で出会ったリッチの前世記憶がある男も含まれていた。彼らはお互いの力を詳細にしらべ、どうやって活かせばいいのか確かめあったのだそうだ。前世記憶を初めて進化させたのはこのサルバドルという男だったらしい。そうやって、魔人会のメンバーは力を付けていった。


 だが、5年ほど前に魔人会にある男が接触を図ってきたのだという。その男はドラゴンの前世記憶を持つ魔人の使いで、自分自身はワイバーンの前世記憶を持つ者だと言い、より多くの魔人たちと交流を持ちたいのだと説明した。そして、その男は魔人会のメンバーに加わり、資金を提供して冒険者ではないが魔人の特徴を持つ人間にステータスカードを持たせて仲間にしようと言い出したのだった。

 

 その結果、魔人会は50人近くの人数に膨れ上がった。だが、人数が増えるのと共に力に慢心するものが現れはじめ、魔人でない人間は魔人が支配すべきだと言い出すものが出てきたのだった。リッチの前世記憶を持つ男も彼らに影響をうけた1人だった。そういうメンバーが増えて魔人が人間を支配すべきだという考え方を持つ者が主流派になってきてしまい、魔人会は魔龍同盟という名前に変った。

 

 サルバドルにとっては、馴染めない事ではあったのだが、魔龍同盟のメンバーはどうやって力によって魔人でない人間を支配するかを考え始めた。とは言え、魔人はそれほど人数が多いわけでもない。魔人による力の支配を望んだ魔龍同盟が考えたのは蛮族の利用だった。蛮族語を喋ることができるメンバーが蛮族と交渉し、彼らの力を使って新たな国家をつくることを夢見たのだ。彼らが想像した通り、蛮族は力が全てであり、力のあるものに従う。彼らの中でも強い魔獣を前世記憶に持つ者と蛮族語を喋るものが協力しあい、蛮族の部族を動かすやり方を研究し、蛮族が増える様にゴブリンに耕作を教えるなども尽力したらしかった。他に、現在の支配勢力である大国の力を削ぐ事にも勤しんだ。その結果が、今回の侵攻だった。 

 

「今の魔龍同盟は何人ぐらい居るんだ?」


「八十人を超えたあたりから、各地に支部ができた。そこから、俺にはわからないが、2百は超えてないと思う。だが、最近加入したメンバーは、直属の連絡役しか顔を知らされていないみたいなんだ」


「本当に、それで自分たちが世界を支配できるとか考えたのかよ」


「わからん、とても無理だろうと思うが、あいつらにとっては、差別された過去を覆すにはそういう手段しかなかったんだろう」


「そうか、主だったやつの名前と前世記憶を教えてくれ。知ってる範囲でいい」


「俺が知る限りでは、今回の侵攻の魔龍同盟側の中心はオーガキングの前世記憶を持つテシウスという男と、オークウォーリヤーの前世記憶を持つアマンダという女の2人だ。後は俺と同じく魔人会の頃からの古株で、今はワイズ聖王国で行方不明になっているレイスの前世記憶を持つ男と先程言ったワイバーンの前世記憶を持つブライアンという男ぐらいだろう」


「そのブライアンというのは、ドラゴンの前世記憶をもつ男の使いだと言ってたな。ドラゴンの前世記憶を持つ男はどうしたんだ?」


「わからん、俺は少なくともあったことがない。ブライアン以外で会ったことがあるのは、テシウスと、よく伝令役を務めるというクローディアの2人だけらしい」


“今まで聞いた話で間違いはなさそうか?”


 マートはニーナに念話で尋ねた。ニーナはリリパットから奪った記憶と照合した結果、間違いはないと答えた。彼の喋った内容は嘘や何かの策ではなさそうだった。

 

“僕の治癒呪文だけじゃもうリリパットは死んじゃいそうなんだけど、記憶を確認したいことはある?”


“主だった連中の顔を憶えて変身できるようにはしておいてくれ。あと、どうして、キャサリン姫をたぶらかしたのか調べてくれ”


“わぁ、こんなことまでさせてたんだ。えっと……王家を弱体化させるため、蛮族討伐やラシュピー帝国に目を向けさせないためってことみたいだね”


 少し時間が空いてニーナがそう応えた。

 

“今は主だった奴はどうしてるんだ?”


“テシウスはリオーダンだけど、他はヘイクス城塞都市に居るみたいだね。ラシュピー帝国に蛮族の国として認めさせ、降伏を勧告するつもりみたいだよ”


“マジか……。ということは、使者がラシュピー帝国の帝都にむかってんのか。っていっても、まともに交渉なんて出来ねぇだろ。リオーダンすら蛮族だらけで使者は通れねえのによ”


“しらないよ。もう、すぐ着くはずらしいよ” 


“ハドリー王国との関わりは?”


“それは先に調べた。リリパットは知らないみたい……あ、死んじゃった”


 マートたちはその後、リリパットやゴブリンたちの死体を片付けると、ホブゴブリンの前世記憶を持つサルバドルを連行してラシュピー帝国側の最寄りの街であるマースディンの街に向かうことにした。彼の護送を依頼するためだ。魔龍同盟の調査については、これで一区切りと考えてもいいだろう。マートはそう考えたのだった。

 

 


読んで頂いてありがとうございます。


ようやく魔龍同盟の話が書けました。。登場から長かった。

ここでワイズ聖王国とハドリー王国との戦争も一つの区切りとして、章を改めます。


評価ポイント、感想などいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々と一息つきましたが束の間の休息といった感じです。ふー キャサリン姫をたぶらかした理由も一応はっきりしてのでスッキリ。 他には仕込みしてないのなね。 [気になる点] ドラゴンの前世記憶の…
[一言] ハドリー王国の第二王子がドラゴンの魔人かなぁ? ようやく読み返し終わりそう!今後の展開も期待してます!
[一言] 考察とか長文書けないので一言だけ、毎回とても楽しく読んでいます。素晴らしい作品をいつもありがとうございます。
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