14 尾行者
「こんなところで騒ぎを起こしたら、お嬢様の評判に傷がつくことになります」
レドリーはそう続けた。
「評判に傷がつくのは、襲った側だろ?」
マートは不思議そうに訊くが、ハリソンは首を振った。
「いや、襲った側もそうだが、貴族なのにきちんと護衛も連れずに下町を歩き、騒ぎが起こってしまったとなるとな」
「私の評判なんてどうでもいいわよ、このままだと、どうせどこかの碌でもない貴族のところに嫁に行かされるだけでしょう。そんなところ行きたくないわ。私は魔法をもっと勉強したい」
「そんな事を言うと、母上様がお嘆きになりますよ。それに、二度とこのように抜け出すことはできなくなります」
「うう、それは……」
ジュディは困って考え込んだ。
「相手はチンピラっぽいから、レドリー1人でも大丈夫かもしれないけどな。とりあえず、逃げ出せばいいんだな?どうせ、こういう店だと勝手口とかあるだろ。厨房のほうから抜けさせてもらおうぜ。まだ誰も店の中に入ってきてない。今のうちだ」
「おお、それは助かる。しかし、うまく逃げ出せるか」
「追いかけて来てる11人を撒けばいいんだろ?どこまで行けばいいんだ?」
「ゲイル通りにうちの店がある。そこまで行けば何とかなる」
「おっけー、着いてきな。急ぐから立て替えるけど、金は後で払ってくれよ」
マートは、立ち上がると、店の支払いを済ませると、奥のほうにずんずんと進んでいく。厨房に居た人間には、変な奴に追われてるんだ。ちょっと通してくれと賄賂を渡し、有無を言わせず通り抜けた。
「よし、勝手口のほうには誰も居ない。ついてるぜ」
まるで扉の外が見えてるような口ぶりでそう呟きながら、彼は扉を開けた。果たして誰も居ない。
そのまま、狭い路地を抜けていく。酔っ払いなのか、具合が悪いのか昼から石畳に寝転がっている男などが居て、ジュディは小さな悲鳴を上げたりしているが、それには静かにとジェスチャーで注意しながら、表通りに出た。
「こっちが店を出たとは気付いたみたいだ。さっさとゲイル通りまで行くぜ。レドリー先頭に立ってくれ。あんたのほうが、表通りだと抜けやすいだろう」
「ああ、助かった。礼を言う」
「それは、店に着いてからにしてくれよ。こっちに走ってきてるぜ。騒ぎにするのは不味いんだろう?」
レドリーが先頭に立って、早足でハリソンの店のほうに歩き始めた。ジュディが頬を紅潮させている。
「なにかお話みたい。私、悪役に追われるヒロインの役ね。楽しいわ」
「いや、まぁ、あんたもいいタマだな。ハリソンが出入り禁止になったら困るだろう?頑張って逃げてくれ」
「わかったわ。猫、あなたいい人ね」
「まぁな、美人には優しくするって決めてるのさ」
「まぁ、ありがと」
マートの耳には、11人の集団の足音がだんだん遠ざかっていくのが聞こえた。
「ハリソン、相手は諦めたらしい。もう大丈夫だ」
「おお、よかった。とりあえず店までは行こう」
4人はハリソンの父親の店に無事着いた。
「猫、あなたはいつも、この都市にいるの?」
ジュディは尋ねたが、マートは首を振った。
「俺は普段はリリーの街で冒険者として過ごしている。今日はたまたま商人の護衛でこっちに来ただけだ」
「そうなんだ。じゃぁ、どこかの宿屋に泊まっているのね」
マートは自分が泊まっている宿屋の名前を告げた。
「今日はありがとう。礼は改めてさせてもらうわ」
「ああ、わかった。ハリソン、レドリー、じゃぁな。判ってると思うけど、しばらく用心したほうが良いぜ」
「うん、今日は助かった。僕はこれからいろんなところに報告があるから、宿屋のほうには改めて」
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