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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第18章 ハドリー王国の調査 その後
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145 騎士団長の想い

 

 マートが通された先は、王城の会議室だった。そこで、王国宰相であるワーナー侯爵の他、第四王女であるライラ姫、第2騎士団騎士団長のエミリア伯爵、補佐官のメーブの3人が待っていた。みな疲れている様子だが、特にエミリア伯爵、メーブの2人は疲労の色が濃い。そして、ライラ姫の視線はじっとマートに注がれていて、気のせいかすこし頬が赤い気がした。


 なぜ、ここにエミリア伯爵がと思いつつ、マートは順番に皆に会釈した。

 

「よく来てくれた。マート殿。急な呼び出しに応じてくれ感謝する。どうもアレクサンダー伯爵領は遠くてな。何度か使者を送ったのだが要領を得ぬ。そなたへの文はどこまで届いている?」


 どこまで?ということは、何通も文を送ってきたということだろうか。たしかに、王都からアレクサンダー領まで普通では2、3週間かかる距離だ。さらにアレクサンダー伯爵の領都である花都ジョンソンから彼の暮らしているリリーの街までも数日かかるので、仕方ないだろう。

 

「私が頂いたのは、魔道具の研究をするのに依頼したい内容があるといった内容の1通のみです」


「そうか……。アレクサンダー伯爵領の中でハドリー王国の間諜の拠点を発見し、いくつかの魔道具を回収したという連絡を受けて、それらの魔道具があれば、リリパットとよばれた魔人を逃がすことはなかっただろうという判断を我々は行った。それで、その魔道具の現品を王都に送るようにアレクサンダー伯爵には依頼をしたのだが、その時に、そなたも招聘したいと思い、あの手紙を書いたのだ。実はその時に、ハドリー王国の間諜の拠点の件について、そなたが関わっているという事を我々は知らなかったのだよ」


 ワーナー侯爵は言葉を続けた。

 

「その後、しばらくして、行方不明となっていた騎士たちがハドリー王国から帰還したという報告が上がってきた。それも、最初は空飛ぶ絨毯の情報はなく、何回か手紙のやりとりをし、実はそなたが空飛ぶ絨毯という魔道具をつかって脱出してきたのだという情報が入ってきたのはほんの数日前の話だ。そして空飛ぶ絨毯そのものは急使ではなく、通常の使者が王都にむかって輸送中なのだそうだ」

 

 ワーナー侯爵はそこで一息つき、かるく苦笑を浮かべた。


「ハドリー王国と我が国は戦争中だ。そなたは知らぬかもしれぬが、第1騎士団とウォレス侯騎士団は、ハドリー王国との国境となっていた湿地帯で大敗を喫し、いまだ帰還できた者は1割にも満たぬ状況だ。第3騎士団はラシュピー帝国の応援に行ったままで、連絡が取れておらぬ。侵入してきているハドリー王国軍を迎え撃つのに、唯一残された第2騎士団のエミリア伯爵は躍起になっているが、逃げのびてきた連中は予想外の方向から襲いかかられたという話ばかりで一向に核心が掴めない。敗因の分析も進まず、ハドリー王国の持つ魔道具について、少しでも情報が欲しいというのに、この体たらくなのだよ。我々の苛々が判るかね。そこに、君からライラ姫に通信があったのだという。そなたが、アレクサンダー伯爵領に於けるハドリー王国の拠点を潰し、ハドリー王国で捕虜となっていた騎士たちを空飛ぶ絨毯という我々にとって未知の魔道具を使って救出してきたのだろう?話だけでも良い、聞かせてくれぬか。もちろん対価は支払う。国の存亡の危機なのだ」


 ワーナー侯爵の話にマートは考え込んだ。ハドリー王国では魔人は優遇されているという冒険者ギルドの職員の言葉を思い出したのだ。だが、彼は首を振って、話し始めた。


「悪いが、言葉を繕っている場合じゃなさそうなので、普段の言葉で喋らせてもらう。俺がハドリー王国に攫われたという知り合いを探し、ようやく彼らを見つけた先は実は魔石鉱山だった。蛮族が隠し持ってたという話だ。ハドリー王国では、重犯罪者の収容所としてカモフラージュし、犯罪者と、うちから攫った連中を収容して無理やり働かせていたんだ」


 魔石鉱山だととワーナー侯爵が思わず呟いた。

 

「場所と詳細は後で教える。ハドリー王国はそこで10年もの間、魔石がふんだんにとれるという利点を利用して、魔道具の研究を進めていたらしい。俺はそこにあった魔道具をかっぱらって逃げ出してきたという訳だ」


「成程、どんなものが有ったのだ?」


「まずは、空飛ぶ絨毯。脱出に利用したものは、ランス卿に渡したので手許にはないが、実は似たものがあと5枚ある」


 そう言って、マートは絨毯を1枚、会議室の床に広げた。

 

「まだ開発中らしくて、高さも地上から5m程しか上がらないし、速さも馬の速歩程度までしかでないそうだ。何人ぐらい乗れるかはまだテスト中だが、30人は乗れそうらしい。30分に1個魔石を使う」


 エミリア伯爵の補佐官のメーブが懸命にメモを取っている。


「あと、これは脱出には使わなかったが、ついでに貰ってきたものだ」


 そう言って、マートは台座に拳大の水晶が乗ったものを取り出して、会議室のテーブルに載せた。

 

「半径5キロ程の範囲内にいる犬より大きいサイズの生物の位置を特定する魔道具だ。萬見(よろずみ)の水晶球というらしい。これも30分使うのに魔石1個を消費するそうだ。これを使えば、接近して来る敵はすぐにわかるだろうな。あとは、感知の魔道具と魔法無効化の魔道具。魔法無効化の魔道具をつかえば、萬見(よろずみ)の水晶球には引っかかることはないらしい。あとは研究室にあった資料だな」


 マートは続けて、感知の魔道具、魔法無効化の魔道具、羊皮紙の束もテーブルの上にどさどさと置いた。


「ちなみに魔石鉱山は、奥に巨大アリの巣があったので、そこをつついて暴れさせ、その隙に逃げ出してきたので、一時的にだが、壊滅してるはずだ」


 マートはにやりと笑うと、会議室に居た4人を見回した。

 

「どうだ?これであんたたちの欲しい情報は揃ったかい?」


 バタンと音を立て、エミリア伯爵が立ち上がった。両足を少し広げ、天を仰ぐ。

 

「なるほど、第1騎士団が大敗するわけだ。ぬかるみで足を取られ、移動もままならない湿地帯で、敵は我が騎士団の配置を見ながら悠々と空を飛んで兵士を運び、面白いように奇襲を行ったのだろうな……。さぞ無念だったろう。マート!」


 エミリア伯爵はマートのすぐそばに近寄った。

 

「私はそなたに惚れた。その力、その判断力。今まで、私の(つま)になるほどの人物には会ったことがなかった。宰相殿が証人になってくれよう。これは正式な申し出だ。私の配偶者にならぬか?伯爵家は私が差配するから、そなたは配偶者として遊んでいてよいのだ。我が伯爵家の財は好きに使って良い。どうせ、私は騎士で身体も女性っぽくないし、年ももうすぐ30という行き遅れだ。他に女をいくら囲ってもよい。だめか?」


「伯爵?!」


 最初に驚きの声を上げたのは、ずっと静かに話を聞いていたライラ姫だった。その声を聞いて、エミリア伯爵は我に返ったようだった。


「ああ、申し訳ありません。ライラ姫。感情が先走ってしまいました。この情報を元に私は防衛戦を組み立てねばなりません。少し光明が見えてまいりました。宰相閣下、退出の許可を願います」


 エミリア伯爵はワーナー侯爵に礼をして許可を得、マートのほうを振り返った。

 

「マート、申し出は、正式な物として考えてほしい。返事は今はしなくて良い」


「ああ、わかった。ここに出した魔道具は全部持って行っていいぜ。資料は写してからでよいから、原本はジュディに回してやってくれ。ああ、空飛ぶ絨毯の残り4本と萬見(よろずみ)の水晶球もあと2つ、そして魔石も100個ぐらい持っていってくれ。あんたが負けると国が滅びそうだからな。必ず帰ってきて返事を聞いてくれよ」


「私が死ぬわけないだろう。英雄譚であるまいし、ちゃんと生きて帰るのが騎士団長としての務めだ」


 そう言って、エミリア伯爵は補佐官のメーブを連れ、会議室を後にしていったのだった。




読んで頂いてありがとうございます。


クールな雰囲気のはずが、心のそこには熱いものがあったみたいで、どうにも止まりませんでした。


評価ポイント、感想などいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。

 

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最高の女
[一言] 流れがカッコイイ(*'ω' *)
[気になる点] 女伯爵、男前だわ
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