134 坑道の人影
2020.11.14 巨大グモは以前ヒュージスパイダーという名前で出現したことがありましたが、巨大グモという名前に改めます。以前の記述は追って修正します。混乱させて申し訳ありません。
マートは、何か他にやり方がないかと鉱山の中を歩き回った。鉱山は広く、使われていない坑道なども沢山あるので、21人を連れて脱出するための別の出口ぐらいはありそうな気がしたのだ。
しかし、そのように使われていない坑道は、巨大グモが巣を張っていることが多かった。巨大グモは両足を伸ばすと3m程になる文字通り巨大なクモだ。巣を張っている個体は、炎の矢呪文などで、倒すことは容易だが、体温が気温に近いので、岩陰などに潜まれるとマートでも見つけることは難しく、さらに毒を持っているので、21人を安全に連れて行こうと思うと、かなり徹底的に駆除をしないと危険である。
そんな事を思案しながら坑道を探っている途中、マートは1人の男が単独で坑道を歩いているのを見つけた。身長は140㎝程で、がっしりした体格、そして髭面、ツルハシを片手に巨大グモの巣の下を、気にした様子もなく普通に歩いている。
鉱夫のひとりが使われていない坑道に迷い込んだのだろうか。クモには気づいていない様子だったので、マートは助けるべきかどうするか迷いながら、彼のとりあえず近くにまで急いだ。
男は、面倒臭そうな様子で、クモの巣を払いながら進んでいく。それでも、天井近くに居た巨大クモはその男を襲わなかった。マートは男が何かつぶやいているのに気が付いた。
「ノナトラ コイカチコイカチトナスナミチ」
マートは首を傾げた。なにを言っているか判らない。道に迷った様子でもないので、マートはその男を尾行することにした。
男が着いたのは、少し広くなった鉱山内の空間だった。そこでは、30人程の男女が横穴を利用して生活をしていた。皆一様に背が低く、がっしりした筋肉質の体格だ。
「ラノチイスニ」
「カチシチニモチ」
男はおそらく挨拶のようなものを交わしたようだった。背負った袋から何か取り出して渡している。それはキノコかなにかのようだった。受け取った女は、それを刻んで料理のような事を始めたようだ。
マートはその様子を遠くで見ながら、どうしたものかと考えたが、ふと、以前にニーナが深い森で遭遇した言葉が通じない種族の事を思い出した。
たしか、あの種族はエルフだったか。そんな事を考えながら連中の姿を見る。身長140㎝程で髭面で筋肉質の身体……もしかして、あれは伝説のドワーフ?。鉱山に住み、鍛冶の腕は素晴らしく、伝説にある竜殺しの大剣を鍛えたことで有名な種族だ。
マートは精霊の文様に触れた。
“ウェイヴィ、ヴレイズ2人はドワーフの言葉は喋れるか?”
“ドワーフとエルフの話す言葉は同じで私たちは二人とも使えるわ。ただ、このままで聞くことはできるけれど、喋るのは召喚して姿を現さないと無理ね”
“そうだな、我も同じだ”
“彼らはドワーフなのか?なんて言ってる?”
“そう、ドワーフね。喋ってる内容はもっと近寄らないと無理。ねこは、耳が良いかもしれないけれど、私には聞こえないわ”
“近づくしかないか。彼らがドワーフだとして、会話をするには、泉の精霊と炎の精霊、どちらを連れて行くほうが良いかな”
“それは炎の精霊でしょうね。彼らは鍛冶を得意としている。炎を尊ぶでしょう”
“そうか。では”
「ヴレイズ」
マートの目の前にゴゥと炎が上がる。その炎はたちまち人と同じほどの大きさの羽根の生えたトカゲの形をとった。サラマンドラを連れて行けば、もちろん相手は恐れるだろうが、言葉が通じなければどうしようもない。最初から姿を見せていたほうがマシだろう。
「一緒に来てくれ、ヴレイズ。彼らと話をする」
「よかろう、マート」
マートと炎の精霊のヴレイズは、ゆっくりとドワーフたちに近づいた。ヴレイズの身体から上がる炎で周囲は赤く照らされている。
「ヴレイズ、俺の言葉を彼らに大声で伝えてくれ」
ヴレイズは無言で頷いた。
「ドワーフよ、話をしたい。恐れずに聞いてくれないか」
マートがそう言い、ヴレイズがその言葉をドワーフが話している言葉にして話しかけた。
「シラテチホハナンラ、クチミチトニテラトニカチニ。ラトラスイツナミニノニニカイノナスイミチニノチ」
男性のドワーフは驚いた表情で巨大な斧を構えつつ、女性を背後に庇ったが、襲ってきたりする様子はない。静かにその声を聴いている。
「俺は、人間族のマートだ。あんたたちはドワーフだろう?戦いたくないんだ」
「ラスイクチ、ミニミミキイミミツラノナミラモチホカラシチ。チミミカチカチカニクチシラテチホハナシチスラナ?カチカチノチニカチノナミチニミミシチ」
「ラモチイカチカニキチトチノニミニノラナキイノニトニカイノニカチミミシチスラナ。ラノチキイシイ、ノラミラチスニトチモチシチ。ニモチトチスチクチミチトニミチシラシイノニスナノチ!」
1人の男性のドワーフが顔を赤くして言い返してきた。他のドワーフたちも集まってくる。
「『お前たちが先に攻撃してきたんだろう。おかげで、このありさまだ。今更話などできるか』と言っているな」
ヴレイズが彼の話を伝えてくれる。
「お前たち?俺を誰かと勘違いしてないか?」
「ナスナトチニ」(うるさい)
言い返してきたドワーフが斧を振り上げようとしたが、周りのドワーフがそれを押し留めた。
「チニカイクチトナスナミチ」(相手は鍛冶を守る炎の精霊、サラマンドラだぞ。それも、話をしようと言っている。俺たちを攻撃してきた連中とはちがう。我らは誇り高いドワーフだ。人間のような事をするな)
その中を、白髪交じりのドワーフが進み出てきた。
「トチスチモチミミシラスチトチマンチ」(サラマンドラを連れた若者よ。話とは何か。儂はこの集落の長じゃ)
読んで頂いてありがとうございます。
翻訳前のドワーフの喋る言葉は長くても無駄なので、途中から内容に比べて短くしています。ご了解ください。
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