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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第17章 ハドリー王国の調査
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132 ハドリー王国冒険者ギルド

  

 マートは、必要な情報を思い出すことによって得た後は、記憶奪取の呪文をリバースして、男の記憶を返すことにした。ニーナによると、たまにうまく戻せないこともあるらしいが、特に失敗した感じはなかったので大丈夫だったのだろう。ずっと寝ていたので、記憶の齟齬は起らず不審を抱かれることはないはずだ。男が思い出すきっかけになった女性の顔にマートは見覚えがあった。ランス卿の息子のアゼルを騙していた、あの間諜が化けていたメイドによく似ていたのだ。たしかランス卿の話では、治める村の出身でもう生きていないだろうという事だったが、彼女も攫われてここに運ばれていたのだろう。

 

 彼女との記憶が印象的だったおかげで、男の記憶が引き出せた。決して慰めになるわけではないが、せっかく掴んだ手がかりだ。もしかしたら、彼女自身も助け出すことができるかもしれない。マートはそう考えつつ、砦を後にした。

 

 しかし、ハドリー王国に秘密の魔石鉱山があるとは驚きだ。ワイズ聖王国にどれぐらい魔石鉱山は存在するのかマートは知らないが、産出量が少なく貴重なために、魔石が高価だというのは聞いたことがあった。当然、それをエネルギーとして動く魔道具も少なく、価値も高くなる。もし豊富に存在するのであれば、今のハドリー王国で魔道具がよく使われているという現状にも納得できる。

 

 男の記憶からでは、魔石鉱山について、クリントンと呼ばれるハドリー王国南部辺境で、表向き監獄として立ち入りを禁止しているというところまでしかわからなかったので、詳細は調べる必要があった。南部辺境ということであれば、ニーナが以前行ったことのあるプレザンスの街に近いのだろうか?マートはそのクリントンにある監獄へのルートを確認するため、最寄りの街に向かったのだった。

 

----- 

 

「クリントン地方っていうのは、東門を出て街道沿いに1週間かかるのか。遠いんだな」


 冒険者ギルドで説明してくれた職員に言葉ではそう言ったが、マートが懸念していたほどの距離ではないようだった。普通に1週間ということであれば、街道を手繰って飛行スキルで移動しても1日でたどり着けるぐらいだろう。ついでにプレザンスの街の位置も確認したが、こちらは2週間以上離れているということだった。近くではないが、これで、海辺の島からワイズ聖王国までの飛行ルートは確認できた。

 

「たしかに距離はありますが、それほど悪い仕事ではないですよ。もちろん、冒険者ランクが高いという話であれば、それほどは稼げません。ランクDかEあたりであればお勧めです」


 こういったやりとりは、ワイズ聖王国だろうと、ハドリー王国であろうと変わりはなかった。DかEということは、それほど強い魔物は出ないのだろう。そこまで言って、冒険者ギルドの職員はじっとマートの顔を見た。


「ん?どうしたんだ?」


「あの、その瞳……」


 マートはそう言われて眉をしかめた。また、否定的な話をされるとおもったのだが、ギルドの職員が言った話はそれとは正反対だった。

 

「グラント王子の親衛隊に応募はされないのですか?かなりの好待遇という話ですよ」


 好待遇?

 

 マートは返答に困ったが、その様子を見て、ギルドの職員は言葉を続けた。

 

「聞かれたことはないですか?あなたのように外見に特徴のある方を、第二王子であるグラント王子は親衛隊の隊員として募集されています。教養はなくとも冒険者として暮らすより余程良いという話です。是非参加されることをお勧めします」


「そうなんだ。こんな連中を集めてどうするんだ?」


「グラント王子によると、普通の人間より優れている点があるのだとか」


「へぇ、そうなのか?」


「詳しくは私も存じません。単なる人気取りだと言うものもいるようです」


「そうなのか。まぁ、考えとくよ。うちの田舎では正直いい顔はされなかったんだがな」


 職員はああ、という感じで苦笑を浮かべる。

 

「以前はそういう偏見もありましたが、最近では羨む声のほうが多いですよ。もちろん妬む者もいないわけではありませんが、今までは正体不明のモノとして不気味がられていたものが、それほど闇雲に恐れる必要はないんじゃないかという認識になりつつあるようです」


「ほう、それは嬉しいな。ちなみに、その募集は何年前から行われてるんだ?」


「たしか、我が国がハントック王国を併合した次の年ですから15年は経ちますね。あなたの村には、なにかうまく伝わっていなかったということでしょうか。たしかに対象の人は少なく、こういうケースもあります。なので、こうやってお声をかけさせていただいているのです」


 ハドリー王国がハントック王国を15年前に併合したらしい。冒険者ギルドの職員からの情報なので、嘘ではあるまい。マートはとりあえずまた来ると言って冒険者ギルドを出た。

 

 この世界には5つの国があるとマートは聞いていた。北西のラシュピー帝国、西のワイズ聖王国、そこから東に向かって順にハドリー王国、ハントック王国、最も東がダービー王国。その周囲は海か或は蛮族が住む荒野が広がっているのだという話だった。先ほどのギルド職員の話ではハドリー王国がハントック王国を併合したらしい。それも15年も前の話だという。

 

 ここに来る前に、ランス卿はハドリー王国との国境に兵を出すと言っていたが、聖王国はこのハントック王国を併合し、二つの国を併せた力を持つ国を相手に戦うつもりなのだろうか。いや、交流はないにしても、ハドリー王国がワイズ聖王国の事を調べていたように、当然ワイズ聖王国もハドリー王国のことは調べているはずだ。これぐらいのことは情報として入手しているはずだろう。


読んで頂いてありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 居場所が伝わる細工をされたアイテムを二つ保持しているはずだけど、それは普段どっかに置いてるのかな? 移動速度が極端に速いということがバレるのではないのか?
[一言] いやぁ絶対知らないだろうな だってこっちは情報抜かれまくりで市民の拉致もされてるのに全く気づいてなくて 国境にある抜け穴も数年越しにしかも国主導じゃなく冒険者の手でようやく見つかったようなも…
[一言] 他国の暗躍に秘密組織の蠢動に蛮族の侵攻となかなか平和な世界だわな(汗)
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