12 褒賞
「よくやってくれた。巨大な鉄槌はなかなか尻尾がつかめず我々も苦労していたのだ。被害者は根こそぎ殺されていたのでな」
花都ジョンソンの衛兵隊長を務めるクリフ男爵は、マートたちを衛兵隊詰所に迎えて、そう言った。
フィンレイたちの隊商は、無事夕刻には花都に到着し、巨大な鉄槌討伐の報告をすると、すぐさま衛兵隊長の歓迎を受けたのだった。
「戦ってよかったな。被害者は皆殺しになってたってことは、あそこで戦わなきゃやっぱり殺されてたんだ」
ジェシーが、クリフ男爵の話を聞いて思わずそう呟いた。
「ああ、その通りだ。残念ながら撃退した後、追撃できれば、アジトや手下たちも根こそぎ検挙でき、報奨金もたっぷり出せただろうが、2日たった今では、おそらく逃げ散っていることだろう。懸賞金は後日冒険者ギルドを通じて支払うことになる。今はこれで我慢してくれ」
そういって、マートたちは1人1金貨をもらうことができた。これでも、20日ほどの宿代にはなるのだ。みなホクホク顔だった。
「盗賊たちが持っていた剣とか弓矢とかは貰っていいのかい?」
「ああ、それは良いぞ。好きなものを持っていくがいい。どうせ、衛兵隊装備としては使えないしな」
マートは、出発の時に買えなかった弓と矢、そして、頭目が持っていた小剣を貰うことにした。
「両手剣は良いのか?造りはかなり良いが」
「いや、それは俺にはでかすぎる。それにかなり血を吸ってそうだからな。そんなもの使ったら、呪われそうだ。それに造りという点では、この小剣のほうがかなり良さそうだぜ」
「まぁ、そうだな」
その小剣は、鞘にも華美ではないが装飾はなされており、素人目にもかなり良い造りと言えそうだった。
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その夜、マートたちは、フィンレイさんが用意してくれた宿屋でそろって食事をしたが、死んだフランキーのことを思うと、静かな場となった。
「冒険者をやってる以上、こういうのは覚悟の上だけどよ。やっぱきついな」
「ああ、まぁな。マート、あんた元旅芸人だろ? 何か良い曲やっておくれよ」
アニスが少し強めの酒を傾けながらそう言った。
マートは何かあるかと酒場を見回すと、隅に埃のかぶった古いリュートを見つけ、店員に了承を取るとそれを手に取った。弦が6本のうち、1本が切れていた。丁度俺たちみたいだなとマートは心の中で思いつつ調弦すると、5本のままで死んだ戦友を想うバラードを唄い始めた。
よき友よ
安らかに眠れ
あんたのおかげで
おれたちは酒を楽しめる
よき友よ
安らかに眠れ
決してわすれない
あんたは良い男だった
マートはそこまで唄うと急に曲を変えた。
「悼むのはここまでにしよう。俺たちは生きて行かなきゃいけない。ほら、陽気に酒を飲もうぜ」
ほら、陽気なあの娘を思い出せ
まぶしい笑顔のあの娘
色っぽい太腿のあの娘
ほら、陽気なあの娘を思い出せ
・・・
「前よりすごく上手くなってないかい? ただ、生きて行かなきゃいけないっていうのは判るけどさ、いきなり女の歌かねぇ」
アニスがそう苦情を言った。
「姐さんの太ももも色っぽいぜ」
マートがまぜっかえす。
「そんなのは、一人前に剣を使えるようになってから言いな」
「そうそう、あの頭目を倒した時の剣も、よく素人が力任せに振ったような剣で倒せたよな」
グランヴィルがそう付け足した。
「ああ、ちゃんと砂で目つぶししたからな」
「やっぱりそうか、まだまだ剣の修行は足らんな。明日は日の出頃に起きて来いよ」
「うへぇ、明日は休みじゃねぇのかよ」
「毎日の素振りが大事なんだ」
「うう、わかったよ」
マートは、グランヴィルのシゴキに閉口しながらも、朝の鍛錬は承諾した。ステータスカードを手に入れて自分の実力もよくわかったし、肉体強化すればどれほどの効果があるのかもわかってきたのだろう。目の前で死んだ仲間というのも影響はあったに違いない。
読んで頂いてありがとうございます。
マートが唄う歌詞については、雰囲気程度だとおもって、スルーしてください><