11 撃退
2020.4.4 スキル発動は『』ではなく【】表記にし、ルビを追加しました。
【毒針】
マートは、盗賊の頭目らしき男に向かって全力で走りつつ、毒針スキルを使った。相手はうっと言って、顔を押さえる。そのタイミングを狙ってマートが剣を力任せに横薙ぎし、通り過ぎる。粗削りな戦い方だが、相手は毒に気を取られたのか手で剣を防ぐのが精一杯で血しぶきがあたりに散った。
マートは立ち止まらず、そのまま、5mほど通り過ぎた。頭目の片腕が地に落ちた。手首から血が吹き出る。
「うわっわわわ」
頭目は剣を放り出し、傷口を抑えて血を止めようとするが、なかなか止まらない。そこを取って返したマートが背中を袈裟懸けに切り下ろす。頭目はその場に崩れ落ちた。
「頭目は倒した。あとの連中もやっちまえ!」
マートは大声でそう言い、近くの盗賊に対して剣を持って襲いかかった。相変わらず技の欠片も感じられない粗雑な戦い方だが、盗賊たちは目の前で頭目がやられたことで混乱してしまったようだ。
「助けに来たわよ!」
盗賊たちの背後からのアニスの声がさらに盗賊たちの混乱に拍車をかける。
「やべぇ、囲まれる。先に俺は逃げるぞ」
弓矢を放り出して1人がそう言って逃げ出し始めると、あとは誰も止めるものがいなかった。ジェシーとグランヴィル、マートは内側から、アニスとクインシーは外側から盗賊たちを追いたてる。
マートが盗賊の頭目を倒したことで形勢は一気に逆転した。マートとジェシー、クインシーの3人は逃げ腰になった盗賊を後ろから追い立て、半数以上を倒すことが出来た。
彼らを追い払い、ジェシーとマート、クインシーが夜営場所に戻ると、そこでは、アニスが魔法でグランヴィルの手当てをし、フィンレイさんが使用人たちを指揮して、後かたづけを始めていた。スティーブとジェラルドは雇い主であるフィンレイさんの横に立っていた。
「マート、お手柄だったね。ジェシーもよくやったよ。クインシーお疲れ」
3人が帰ってきたのを見て、アニスが声をかけてきた。
「ああ、丁度アニスが帰ってきたのが見えたからね。タイミングを合わせれたよ」
「そうかい、よく見えたね。ホントよくやった」
「ああ、助かった。マート、アニス。感謝するよ」
声をかけてきたのはフィンレイさんだった。馬車の中に身を隠し無事だったらしい。
「さすが、黒い鷲だ。この活躍は冒険者ギルドにも報告しておく。今回でボーナスも用意しよう。あと、この盗賊ももしかしたら懸賞金がかかってるかもしれないから調べた方が良いかもしれないな。あと、ジェシー、フランキーは残念だった。出身などは知っているか?」
「いや、西部から流れてきたとは言ってたが、よくは知らない」
「そうか、冒険者ギルドには、彼の死亡についてもきちんと報告しよう」
「ああ、よろしく頼む」
そこから、彼は厳しい顔つきになり、護衛隊長で真っ先に降参したスティーブたちのほうを向いた。
「スティーブ、君はかなり腕は立つし、警備の仕事で長い間頑張ってくれたから今回護衛隊長になってもらったが、隊長としてはすこし配慮が足りないようだ。ただ、今回はまだ旅の途中なので君の処遇については帰ってから判断しよう。とりあえずは、アニス、往復の行程については、君が護衛隊長を努めてくれ。副隊長はアニスが指示すれば良い。スティーブとジェラルドは街に帰るまでアニスの指示に従うように」
「はい」
「はい」
「わかったよ」
アニスの指示のもと、盗賊たちの死骸は獣を集めないように埋めることになり、スティーブとジェラルドは土堀りに駆り出されることになった。
捕らえた盗賊の話によると、盗賊団は巨大な鉄槌と異名を持つ集団で頭目にも懸賞金がかかっているらしかった。そして、ゴブリンたちをけしかけたのも彼らだったらしく、頭目の死体は荷馬車の一番後ろに戸板をくくりつけ、捕らえた盗賊たちも両手を縛って花都まで連れて行くことになった。
生き残った盗賊のうち、1人だけ身体が麻痺したまま動けないものがいた。マートは自分が毒針スキルを使って倒した相手だったとなんとなくわかったが、それを皆に言うわけにはいかなかった。彼はそのまま3時間ほど、熱でうなされたが、翌日の朝にはふらつきながらも、馬車の後ろを歩ける程度までは回復したのだった。
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