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猫《キャット》と呼ばれた男 【書籍化】  作者: れもん
第15章 聖王家に忍び寄る影

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118 帰り道のお誘い

2020.11.08 誤り訂正 魔剣の予言 → 聖剣の予言

  ごめんなさい、書き間違いです。

     

 新年のパーティが終わり、マートが王城から帰ろうとしているところに、1人の使者がやってきた。

 

 その男はブライトン・マジソン男爵からの使いだと名乗ったが、以前の事を考えると、マートには男爵ではなく、ライラ姫からの使者のような気がした。

 

 アレクサンダー伯爵やジュディ、シェリーたちと別れ、彼はその使者の案内に従って王城の中を進む。果たして王城内でも王家のプライベートエリアである奥まった一室に案内された。メイドたちもおらず、使者もすぐに退出していく。

 

「来てくれてありがとう、マート」

 

 部屋に居たライラ姫は、微笑みながら、彼女特有の艶のあるアルトボイスで、マートにそう話しかけた。

 

「姫様、前回は仕方なかったと思うけれど、さすがに2人っきりというのは不味くないか?」

 

「心配してくださってるの?でも、大丈夫です」

 

 マートは首を傾げる。大丈夫というのはどういう意味なのかいまいち判らない。

 

「それより、どうして連絡して下さらないの?たまには訪ねてきてくださいってお願いしていたのに」

 

「ははぁ……」

 

 そういわれて、マートは頭をかく。国王陛下の寵愛深い姫に簡単に遊びにきたなどと、訪ねるわけにも行かないだろうと心の中で呟くが声には出さない。

 

「連絡をつけるのは難しいという顔ですね。そのためにこれを用意しました」

 

 ライラ姫は10cm四方、厚みは1cm程の四角い板のようなものを取り出した。色は真っ黒で表面は大理石のように傷一つ無い。2枚あって、そのうち一枚をマートに渡す。

 

「それは、長距離通信用の魔道具です。2枚で一組。片方の板に指で描いた絵が、端にある送信というボタンを押すと5分程してもう片方の板に現れて、チャイムが鳴るという仕組みになっています。念話と違って距離は関係ないようです」

 

「へぇえ」

 

 マートは感心の声を上げる。そんな魔道具など聞いたことが無い。

 

「ふふ、すごいでしょう。古代遺跡で見つかったものらしいです。王城の宝物庫で保管されていたものを王様(おとうさま)にお願いして頂いたのよ」

 

「そんなものを俺に?」

 

「だって、そういうものでもないと、連絡してくれないでしょう?」

 

「よくわかってるんだな」

 

「そして、こちらは、この間の印章に関するお礼です」

 

 そう言って、ライラ姫は、おそらく金貨の詰まった袋をテーブルの上に置いた。

 

「ありがとな」


 礼だけ言って、マートはその袋を受け取った。

 

「どういう風に役にたったのか聞かないの?」

 

「どうせ、なにかの陰謀だったんだろう」

 

「その通りよ。私たち王家は、常にそういうものに曝されているの。否応なしにね。せめて、チャールズが私と同い年か、それに近い年だったら、少しは楽なのだけれど」

 

 そこまで言って、ライラ姫は大きなため息をついた。

 

「チャールズというのは、王子のことか。まだまだ幼いように見えたな」

 

「ええ、3才よ。そして父は49才」

 

「49才か。陛下は、もっと若いように見えたが、結構年を食ってるんだな」

 

「実はあなたにお願いがあって、連絡を待っていたの。あなただけにしかお願いできない事。私はもっと呪術を上手に使いたいのです。魔獣系のスキルは……あちらは、別にどうでもいいのだけれどね……。聖剣の予言から考えて、私たち王家にはこれからもっといろいろな事が起るでしょう。それを乗り越えるためには少しでも力が必要なの」

 

 そういう事か。マートは考え込んだ。呪術呪文は、痛みや毒など、対象がいないとほとんど使えない呪文ばかりで、彼にしてもニーナにしても、魔獣や蛮族相手に試すことによって習熟してきている。外に出られないライラ姫にとっては、試す手段はかなり乏しいだろう。それでも呪いまで習得したということは、苦労して呪術呪文は★3まで練習したのだろう。

 

 しかし、彼女のことは、どこまで信用してよいのだろうか。たしかにお互いに前世記憶があることは認めているが、それだけのことだ。彼女に自分が呪術を使えると説明してよいのか。ただ、この沈黙から、俺も呪術魔法が使えるのだろうと推測されてしまっているだろう。

 

「わかった。ただ、俺も手探りでしかないからたいしたことは教えられないと思う。1週間ほど王都には滞在するので、その間だけだ。都合のいい時間をさっきの魔道具で教えてくれ。そして、必ず対応できるとは限らないのでそれは承知しておいてくれ。それで良いか」

 

 マートがそういうと、ライラ姫はうなずいた。

 

----- 

 

 それから3度、マートはライラ姫の部屋に忍び込んだ。若い姫の部屋にどうかと思うが、理由を明らかにはできない訪問であり、どうしても、隠れてということになる。国の中で一番警備が厳重な王城のそれも国王が暮らす区画ではあるが、そこは姫付きのメイドの手引きがあって、簡単に侵入することができた。

 

 そこで、最初にマートが説明したのは主に幻覚呪文の使い方だった。それは何故かと言うと、非常に幅広い使い方が出来るというのと、誰を対象にしなくても練習できる数少ない呪文だという2つの理由がある。実は幻覚呪文には大きく二つの使い方がある。それは、対象の心に与えるものと、場所に与えるものという2種類だ。

 例えば、部屋の真ん中に蝶が飛んでいる幻覚を出すとして、それを見ている人間にそういう錯覚を与えるのか、その場で蝶が飛ぶ幻を出すかという違いになる。どちらの使い方も、メリット、デメリットがあるので、使い分けをすればよいが、後者であれば、自分一人で練習できるので、丁度良いと考えたのだった。

 

 あとは、毒呪文で出せる毒の説明もした。毒呪文は、うまく使えば解毒剤も作れるからだ。他に幻覚を生み出すもの、眠りを生み出すものというのもある。これも使いこなせばかなり広い範囲で使える呪文なのだ。ただし、これは、ベースとしてニーナが普段毒となる草や毒をもつ生物、薬品を積極的に摂取していることがあるのだが、そこまでは説明せず、サンプルを見せて使い方を説明するに留めた。

 

 こういったことを説明すると、ライラ姫からも、わざと1人にだけ使って不安にさせたり、幻覚呪文の幻聴や幻視の効果を念話の代わりに使う方法などの相談もされ、マートとしても意外と幅が広がる結果になったのだった。ただ、いろいろと説明をしている間、ライラ姫に尻尾が生え、マートの手や足に絡みつこうとして来るのが見えたりし、彼はそれを懸命に無視していた。

 

 そして、3回目の帰り道、夜中にライラ姫とは部屋で別れ、密かに帰るべく彼女付きのメイドの案内で王城の中庭の道を歩いている途中で、空からふわりと降りてくる小男を見つけたのだった。

 


読んで頂いてありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 見せてんのよ(幻影) ではなく、出ちゃった、とか生えてんのよ、なのかな? [一言] ネコは何か人に見えないもの(霊体)が見えてる、とか言う話だったり? (アレは普通に音が聞こえてるら…
[気になる点] 読み返していたら、魔剣の予言と書いて有る場所が? 聖剣の間違い?
[良い点] 姫のしっぽ やはりロイヤルだけにビ…(不敬罪で死刑) [気になる点] 現時点キャットは何才になったかな? なんとなく作中最低2年経った気がします、17才?
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