109 討伐行 3
2020.9.21 オーガキング、ゴブリンイーターの説明を追加しました。
2020.9.26 マートの喋りで“ちょっと”が口癖になっていたのを訂正しました(笑)
その後も騎士たちはゴブリンメイジには少し苦戦しつつも、荒野を進んだ。そして、2日後には、マートが100体近く居るといった集落の近くにまでたどり着いた。
「あのあたりだ」
エミリア伯爵と3人の騎士、そして伯爵の補佐官であるメーブは小高い丘の上に伏せて、マートが指差した方向を見た。距離は2キロほどあるだろうか、岩と砂だらけの荒野で少し低くなっているあたりに、なにかが動いているのが、ようやくわかる程度だ。
「もう少し近づきたいが、ダメなのか?」
「今は風が無いから良いが、これ以上近づいて少しでもこちらから向こうに向かって風が吹くと相手にも気付かれるかもしれない。今の距離ぐらいが安全だと思う」
「私には遠すぎて良く見えないな。聞いたほうが早そうだ。マート、地形はどうなっている?」
エミリア伯爵は首を引っ込めて振り返ると、マートのほうを見た。
「谷の地形は真ん中に流れている小川に沿ってへびのようにうねっている。ほぼ真ん中に一番立派な建物があって、その脇にも4つほど大きめの建物、その周りに20ほどの小さい建物が不規則に並んでいる。あの感じだと、オーガナイトが居る可能性は高いだろう。ゴブリンの姿も見えるから、ゴブリンメイジ、ホブゴブリンといったのも居るかもだな。100体と言っていたが、オーガ種は50体、ゴブリン種が60体といったところだろう。内訳まではわからない。さすがにさらに上位種のオーガキングやゴブリンイーターまでは居ないと思う」
オーガキングというのはオーガナイトのさらに上位種、ゴブリンイーターというのは、ゴブリンの上位種であるホブゴブリンのさらに上位種のことだ。
「わかった。8人対蛮族110体か。どうするのが良いと思う?」
「討伐するだけなら、小川に毒を流すとかが楽だけどな。そういうのじゃないんだろ?」
マートの言葉にエミリア伯爵は苦笑した。
「ああ、そうだな。私達は騎士3人がどこまで通用するのか試したい」
「素直に突撃すればいいんじゃないのか?4人の腕なら討伐は可能だろう?」
「無理だとは思わないが、数が多すぎ、乱戦になって事故のリスクが高い。突撃すればオーガナイトやホブゴブリンといった上位の個体と戦う前に、他の個体と戦うことになって疲労困憊してしまう可能性もある」
「贅沢だな。じゃぁ、例えば火矢を集落に放ったりして釣りだし、途中で数を減らしたほうが良いってことか?」
「そうだな。途中で数を減らせそうな地形はあるか?」
「段差や障害物、落とし穴を利用して弓で敵を減らし、迫って来られたら縄を使って別の段差に移動みたいなことだよな。ゴブリンはともかくオーガの上位種とかはかなり足が速いから、俺とアニスが協力しながらでもギリギリになるだろう。騎士たちは弓は使えるのか?」
「いや、無理だ」
「わかった。ちょっとそれに適した地形を見てみる。少しかかるから、待っててくれ。もし、その途中で見つかったらここに逃げてくるから、あまり気は抜かない程度で頼む」
「ああ、わかった。頼りにしてるぞ」
「姐さんは、そういうことで、一緒に来てくれるか?」
マートは騎士たちを残し、アニスと2人で付近の調査に向かったのだった。
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「貴族様のオーガナイト狩りの手伝いか……。面倒だねぇ」
移動しながら、アニスはそんなことを言ってぼやいた。
「姐さん、まぁそういうなよ。一応金貨100枚の仕事なんだからさ」
「それでも、食費とかの経費を差っ引いたら、儲けは半分ぐらいじゃないのかい?こんなのできるの、あんただけだよ?もっと吹っかけてもよかったんじゃないのかい?」
「いや、食材とか高いものは無いから、もっと儲かるさ。危険もあんまり無いし、妥当なもんだろ?」
「いや、だめだ。今後は、同じことを別の人間がしようと思ったら幾らかかるか考えてから、値段を計算してみるこったね。こんなの、Aランク10人を含めて100人ぐらいの冒険者を集めてもできるかどうかぐらいのことだよ。私ならクランに依頼されたとしたら金貨1000枚にさらに経費を積んで、それでもできるかどうかの仕事だけれど、どうします?って答えるね。あまり安いと他の冒険者が困るんだ」
「ああ、なるほどな。わかった。考えてみる」
「もちろん、金貨100枚だから、伯爵もやってみようって気になったんだろうけどね。こうやって久しぶりに一緒に仕事をして思ったけど、猫、あんたは剣の腕はまだまだだが、索敵に関する腕は天下一品だよ。少なくともランクAの私ですら、あんたほどの腕を持つ斥候は見たことも聞いたことも無いね。あの伯爵様とアレクサンダー伯爵に推薦してもらえばランクAどころかランクSでも貰えそうだ。頼んでみたらどうだい?」
「いや、ランクSとか、すごい強いって誤解されるからな。それはそれで面倒だ。なったとしてもランクAかな。あ、姐さん、ちょっと待ってくれ」
「ん?なんだい?」
「ここの上から縄を垂らせば、良い感じにならねえか?」
そう言って、マートが指差したのは、高さ10mはあるだろうほぼ垂直の崖だった。
「上から見てみる」
マートは、そう言って、その壁にあるほんの小さなでっぱりを足場に、あっという間に垂直の岩場を駆け上がった。アニスはその様子を呆れた様子でみていた。
「どうだい?周りの様子は?」
「ああ、ここに登ってこようと思ったらかなり遠回りになるだろう。ここに呼び寄せよう。3騎は物陰で待ってもらえばいいだろ。姐さんは登るのにどれぐらいかかる?」
「ロープがあればまぁ、10秒ぐらいでいけるかねぇ」
「おっけ、じゃぁ、あと同じようなのを2ヶ所ぐらい探して、ロープとかの準備をしよう。壁は所々油をかけて滑りやすくするがいいか?」
「っ! 判ったよ。なら20秒はみておいておくれ」
マートはそれを聞いてうなずいた。
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