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10 襲撃

2020.4.4 スキル発動は『』ではなく【】表記にし、ルビを追加しました。

 マートがその臭いに気が付いたのは、夕食の準備が調い、パンとスープが配られ始めた時だった。

 

 ようやく、長い雨が小降りになり、おいしそうな匂いが漂いはじめたのだったが、それと共に、彼の知らない男たちの匂いが風に乗って漂ってきたのだ。

 

「何か変だ」

 

 彼は薄暗くなり始めた夜営地の周りを見回し、10人以上の男たちが武器をもって取り囲んでいるのに気が付いた。

 

「アニス姐さんは?」

 

 すぐ近くに居たグランヴィルに尋ねる。

 

「薪を集めるとか言って、クインシーと一緒に出掛けた。すぐ戻ってくるはずだが、どうした?」

 

「クインシーが見張りをしてるんじゃないのか。やばい、盗賊団…だ。10人以上は居る。みんなに武器を持つように……」

 

 マートがそう言い終わらないうちに、周囲を囲んでいる男たちのほうから、矢がマートたちがいるあたりに向かって放たれた。

 

「敵襲だ!」

 

 マートは大声で叫んで、馬車の影に飛び込む。次の瞬間、彼が居た地面に3本の矢が刺さった。

 

「ぐあっ」「ひぐっ」

 

 悲鳴を上げたのはフランキーとグランヴィルの2人だった。グランヴィルはその場にひざをついただけだが、フランキーは仰向けに倒れている。

 

「くそっ」


 ジェシーが、馬車の影に隠れて、身動きしないフランキーの身体を引っ張る。グランヴィルも転がるようにして飛び込んだ。

 

「夜営の最初の仕切りは、隊長のスティーブの仕事だろう。アニス姐さんは薪を取りに行くって、ちゃんと奴に言って出かけて行ったんだぞ。誰も警戒してなかったのかよ」

 

 グランヴィルがそう愚痴るが、今更どうしようもない。太腿に刺さった矢を無理やり抜いた。

 

「大丈夫か?」

 

 マートが尋ねる。

 

「ああ、なんとかな。だが、走るのは難しいかもしれねぇ。フランキーはどうだ?」

 

 ジェシーは首を振った。

 

「ダメだ。死んでる。くそっ」

 

 マートが周りを見回す。御者たちは抵抗することもできず、抱きあって座り込み震えており、警備隊長のスティーブと副隊長のジェラルドも馬車の影で膝をついていた。

 

「待ってくれ、お前たちは何者だ。話し合おうじゃないか」

 

 そう言って、ジェラルドが両手を上げて立ち上がり始めたが、そこに矢が何本も飛来し、彼はまた馬車の影に隠れた。

 

「待ってくれ。助けてくれ。言う事を聞く!」

 

 スティーブがそう叫んだ。

 

「おい、あんな事言ってるぜ。相手は盗賊だ、助けてくれるわけねえだろう。警備隊長のくせに怖気づきやがったぜ。どうする、逃げるか?あ、だめか」

 

 ジェシーはそう呟いたが、グランヴィルが怪我をしてるのに気づき、唇を噛む。

 

「参ったな」

 

「我慢すれば、足を引きずりながらになっちまうが、戦えないことはない。最悪俺が血路を開くからお前らだけでも」

 

「いや、アニスとクインシーが戻ってくるかもしれねぇ。少し待とうぜ」

 

「ああ、それに賭けるしかないか」

 

「フィンレイさんはどこなんだ?無事なのかよ」

 

「それはわからねぇ」

 

----

 

 そうやってヒソヒソ話をしている間にも、盗賊の一味の3人ほどがスティーブとジェラルドのところに近づいていった。

 

 マートは馬車の影から周りを見回す。弓を構えているのは9人、盗賊は全員で14人のようだ。そして、その後ろにアニスとクインシーらしき存在の臭いが感じ取れた。

 

「アニスたちが帰ってきた。連中の後ろにいる」

 

「ほんとかよ。とはいっても、スティーブとジェラルドはあてにならねぇ、こっちはアニスたちが戻ってきたといっても5人だが・・・・・・どうする?」

 

「煙玉がある。グランヴィルは見たことあるだろ? アニスも煙が上がれば気づくだろう。風は少ないから10分ぐらいは持つはずだ。それで弓はあまり使えなくなる。一か八かだが、ここでやらなきゃ殺されるだけだ」

 

 ジェシーとグランヴィルはうなずいた。

 

 マートは近くの何箇所かの焚き火に卵ぐらいのサイズの緑色の玉を放り込んだ。そのうちのいくつかから、白い煙が立ち上り始める。


-----


「ほら、武器を捨てて立ちな」

 

 スティーブたちに近づいた盗賊は2人に剣を突き付けた。スティーブとジェラルドは武器を捨て、両手を上げて立ち上がる。

 

「わ、わかった」

 

「これはフィンレイの隊商だろ?フィンレイはどこだ?」

 

「一番豪華な馬車に乗ってる」

 

「案内しな」

 

 盗賊は2人に剣を突きつけたまま、馬車の間を移動し始めた。

 

 マートは、煙がある程度立ち始め、視界がかなり制限されるのを待って、盗賊たちの1人に向かって、口の中で小さく呟いた。

 

痛覚(ペイン)』 

 

 そいつが、急に座り込む。

 

「おい、どうしたんだよ」

 

 横にいた盗賊の2人が急に座り込んだ盗賊仲間に近寄って尋ねた。

 

「いててて、急に腹が痛くなった」

 

「阿呆、こんなときに、我慢しろよ」

 

 盗賊たちも、回りの煙が濃くなったのに気がついた。夕暮れ時のそれも雨が降ってただでさえ薄暗い時間だ。


「おい、急に煙が濃くなったぞ」

 

 弓をもった盗賊たちもうろたえ始めた。

 

「よし、やるぜ」

 

 マートはジェシーとグランヴィルにそう言って立ち上がった。盗賊の頭目らしき男に向かって煙に紛れ、姿勢を低くして真っ直ぐ走る。

 

「おう、行くぜ」


肉体強化(ボディブースト)

 

 マートの走りはさらに勢いを増す。

 

 ジェシーとグランヴィルもそれぞれ得物を持って立ち上がった。

 

読んで頂いてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] フィンレイさんの言葉で、ジェシーも亡くなってる様な言い回しになっていると思うのですが。
[良い点] 盗賊は異世界のロマン これが護衛ではなく、 通りかかった冒険者視点なら、 助けた後馬車にお姫様とか乗ってるんだけどねw この小説はどっちにしろもっと硬派そうな雰囲気
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