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未来の子供たち  作者: Naoko
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2. 有機系宇宙艇

 ヨルクは、読書やゲームばかりしている十四歳の引きこもり少年だ。

学校の初等部を終え、中等部に進まず寄宿舎を出て科学者の両親の元、科学省が所有する宇宙ステーションの居住区に住むようになっていた。


 ヨルクが学校を辞めたのは、学校と合わなかったからだ。

勉強は嫌いでなかったが、授業がつまらなかった。生徒同士の競争や、規律や記憶力を重視する授業内容に意味を感じられないでいた。虐められる程ではなかったが嫌がらせはあり、先生や生徒たちに関わるのが苦手で、毎日学校へ行くのが苦痛だった。


 さて科学省については、以前は国の重要な部署だったのに、評価が低くなり表立った活動は見られなくなっていた。それでも科学者たちからの不満はなかった。研究費は十分に与えられていたし、政府からの締め付けも無かったからだ。

 ヨルクの両親は、息子が自分たちの仕事に興味がないのは世間一般でも普通なので、何も言わないでいた。


 科学省の宇宙ステーションは、中央から遠く離れた辺鄙な所にある。

近年この国は、他国との関係が悪化し国内情勢も不安定なっていたが、戦争が始まったとは聞いていない。

 それにここの安全レベルは最高のもので、ましてや研究と無関係な居住区が吹き飛ばされるなど、人的な失敗がない限りありえないはずだった。


 ヨルクは、自分は危険と無関係だと思っていた。



 ブンッと音がして操縦席前のスクリーンが開く。


「ヨルク!」

 そこにはヨルクの母親が映っていた。


「お母さん?」

「無事だったのね」

「ヌンの中にいたんだ」

「良かった。お父さんとお母さんは脱出ポッドで脱出したわ。あなたも脱出しなさい」

「何があったの?」

「攻撃されたの。ここは危ないわ」

「攻撃?重力装置が故障してるからヌンから出られないよ」

「ヌンで脱出しなさい」

「え?」


 その時ヨルクの頭に浮かんでいたのは「ここって攻撃されるほど重要だったっけ」だった。

緊急事態なのは確かだが、事故だろうと思っていたので、急に「ヌンで脱出」と言われてもゲームの延長にしか思えない。


「ヨルク!早くしろ!」

 母の横から父親が脱出ポッドを操縦しながら声を上げる。


「でも」


「あなたなら出来るわ」と母親。

 そう言われても不安だ。

 ヌンは玩具だ。

「ヌンで脱出する方が危険じゃない?」と思ってしまう。


 その時ドドーンと衝撃があり工房のバリアが消えた。工房にあったものは全て、あっという間に外に吐き出されていく。床に固定されていたヌンもガタガタと揺れた。


「ヌンの固定装置を外すんだ!」父親が怒鳴る。「足がもぎ取られるぞ!」


 操縦席に向かおうとしていたヨルクは倒れそうになって四つん這いになる。すると「本当に自分は危ないのかもしれない」と思えてきた。


「ヌンの中にいれば大丈夫よ。あなたは守られている」

 母親がそう言った時、スクリーンの映像が消えた。

「どういうこと?」と思ったヨルクだったが、言われた通りヌンに命令する。


「固定装置を外せ」

 するとヌンはフワリと浮き、次の瞬間、あっという間に宇宙空間へ吐き出された。



 操縦席のスクリーンにヒュッと光が走る。


 ヌンはバシッと弾き飛ばされ回転したものの、すぐに体制を整えて安定する。

光砲撃の縁に当たって傷を負ったヌンだが、さすが有機系、損傷した部分はシュッと治ってしまった。


 それでも光砲弾は一つでない。何層もの光が尾を引きながら宇宙ステーション目掛けて飛んでいく。命中すると、ぱあっと様々な色の光がバリアの表面に飛び散る。宇宙ステーションのバリアは大分残っているが、いつまで持ちこたえられるかは分からない。


 操縦席に座ったヨルクは、スクリーンに映し出される光景を見て「花火みたい」と思った。

それは音のない戦争ゲーム、まるで夢の世界のようだ。



 ヌンは激しく揺れ、上も下も分からない状態になった。ヨルクは操縦桿を握りしめる。

小型宇宙艇のヌンでも、動きが激しすぎるとお子様用ではすぐに限界を超える。

 ヌンは光の攻撃の間を小ねずみがくるくる走り回るように飛行していた。攻撃は止む様子はない。このままでは危ない。


「ヌン!ここから離れるんだ!」

 ヨルクが叫ぶ。


「どこへですか?」

「安全な所だ」

「安全な所とは?」」

「お前の行きたい所でいい!」

「え?」

「早くしろ!」

「はーい」

 ヌンがそう答えると、操縦席のスクリーンが真っ白になり、全てが白い光に包まれた。


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