表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の子供たち  作者: Naoko
18/41

18. 生きるすべ

 ナタリでは、吹雪くと全てが真っ白になる。

外に出ると、数十センチずれただけで建物の横をすり抜け、どこにいるのか分からなくなる。

 それで住民たちは吹雪が来る前に、集落の建物を綱でつなぐ。

吹雪の間、その綱を伝って移動するためだ。


 始め、ニケとナタリの子供たちは綱の内側でソリ遊びをしていた。

ところが午前中に雪は降らなかったので、綱の外に出る。

 そうして子供たちは、坂を登り降りする途中でニケを見失い、泣きながら戻ってきたのだった。



 ナタリの大人たち、そしてユーリスとダンは、すぐに捜索の身支度を整えた。

ティアも出かける準備をする。

それを見たダンが「お前は残れ」と言った。

 ティアが不服そうにキュッと口を結ぶ。


 するとワルトが言う。

「ティアは助けになる」


 ユーリスが、

「ティア、付いて来い。ダンから離れるな」と言って先に外へ出た。


 ヨルクも、

「ヌンも連れて行って」と叫ぶ。


 そして、

「異次元物置は人用じゃないけど、ちょっとの間だったらニケを」と言いかけてハッとする。

 他人を助けようとするなんて初めてだ。


 ダンがニッと笑った。

「ヌンも付いて来い!」

「はい!」

 ヌンはヒュルンと飛び、ダンとティアの後を追った。



 捜索隊は、子供たちが遊んだソリの軌跡や足跡に沿って坂を登った。

風が強いが、雪はまだ降ってない。

 そうしてニケを見失った場所に付いたのだけれど、その先が分からない。


 ティアが曇が走って行く空を見上げ、クンッと鼻を鳴らした。




 ナタリの宿舎は、静まり返っていた。

ヨルクは窓から外を見て皆が戻ってくるのを待ち、ワルトは居間の暖炉の横で本を読んでいる。


 ヨルクは、ワルトがニケを探しに行かない

ワルトが、それを感じたのかそうでないのか、顔を上げてヨルクを見る。


「ヌンを行かせるなんて、良い判断だったね」

「え?」

 ヨルクはワルトに褒められたようで戸惑う。


「ニケが氷の割れ目にハマってないといいけど」

「どう言うこと?」

「ここら辺には小さいけれど氷河がある。氷の割れ目に落ちたら凍死する」

「それじゃあ、もう」

「まだ生きてる可能性はある。それでも早く見つけた方がいい」

「ワルトは心配じゃないの?」

「心配さ。それに君も、ヌンが風に飛ばされないか心配だろう?」

「ヌンが風に飛ばされる?」


 それはヨルクが思ってもみないことだった。


 ヌンはいつもフヨフヨと浮かんでいる。

小型宇宙船だったヌンは、どこへでも飛んでいけるが、雄しべとなって強風を耐えられるのかは分からない。


 それでもヨルクは(ヌンを行かせて良かった)と思っていた。


 ヨルクは、ヌンを行かせた時、自分のことを考えていなかった。

考えていたのはニケのことだ。


 それにヌンは、こんな時、頼りになるはずだ。

ヌンは、いつもヨルクを守っていたからだ。



 その時、宿舎のドアが開き、風と共にヌンとティアが入ってきた。


「ニケを見つけた!」


「ニケ様です!」と言ったヌンは、ゴロンと異次元物置からニケを出す。


 ワルトはぐったりしたニケを抱きかかえる。


「風呂で温める。ティア、お前も風呂で体を温めろ。すぐに暑い湯に入ったらダメだぞ。ぬる湯で慣らしてからだ」


 すると、一緒に宿舎で待っていたアニタがティアを毛布で包みながら言った。

「大丈夫よ。ティアは任せて!」


 その時ヨルクは、ワルトは単に本を読んでいたのではなく、戻ってくるニケを介抱するために残っていたのだと知った。


 それは指示されたからではない。

アニタも同じだった。


 ヨルクは、自分と同じ年頃の子たちなのに、何て違うのだろうと思った。


 彼らは、人から言われなくても動ける。

生きるのに、何をすれば良いのか分かっている。

危険な時も、自分が何をするべきなのか知っている。


 それはヨルクが学校で教わらなかった事だった。



 それから間もなくしてユーリスたちもニケの乗ったソリを回収して戻って来た。



 ニケは、ソリに慣れてジャンプするようになり、ジャンプを繰り返している内に雪が深いところへ行き、それが面白くて調子に乗ってしまった。

 ナタリの子供たちは危ないと思ったが、ニケを止めることができず、見失ってしまったのだ。


 ニケは、雪の穴にはまっていた。

幸いなことにソリが穴に引っかかり、下に落ちずにすんだので、引き上げるのは難しくなかったが、穴を見つけるのは容易ではなかった。

 しかも、吹雪が迫っていた。


 ラーウスの子供たちは、自然の中で、絶えず危険に晒されている。

それは、ヨルクのような進んだ社会でも同じかもしれない。


 子供たちは、それぞれの社会の中で経験を重ね、学び、生きるすべを身につけていく。

その途中で、命を落とす者たちもいる。


 大人が子供たちを見守れば命の危険は少なくなるが、その度合いが強くなればなるほど、子供たちの自由と、生きる術を学ぶ機会も奪われていく。

 どこまで子供たちの命を守り、自立を促し、彼らの自由を守るのか、その境界を見極めるのは難しい。


 ニケは、まだ自分を守れるほどには成長していなかった。

ヨルクを迎えに行くのを許されたのも、ティアがいたからだ。


 そしてナタリに来て、吹雪の前、ティアは一緒にいなかった。

ニケは自由になったような気がして、羽目を外してしまったのだ。


 それはニケにとって、命を失いかねないことで、他の誰のせいでもない。




 ティアが、ニケを見つけられたのは、

「自分がニケを見ていなかったから」とか「ニケが死んだらどうしよう」と悩まなかったからだ。

 そんな考えは、ニケを見つけるのに邪魔になる。


 不安は感覚を鈍らせる。


 ティアは、過去とか、後悔とか、他人が自分をどう思っているとか、

必要のない感情に左右されない自由な感覚を研ぎ澄ましている娘だった。


 もちろん、すでにニケは死んでいたかもしれない。

だがもしニケが生きていれば、ティアの感覚は助けになる。


 ティアは、ニケの命を感じれる、ニケがどこへ行ったのか感じれる。


 だからワルトは「ティアは助けになる」と言ったのだ。




 ヨルクは、ティアが不思議な子だと思っていた。


その時はまだ、ティアが自分を守っているとは知らなかったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 《どこまで子供たちの命を守り、自立を促し、彼らの自由を守るのか、その境界を見極めるのは難しい。》  うわ、めっちゃ共感しました。  ヨルクの成長と秘密。そしてヌンのお嫁さん探し。  早く…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ