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未来の子供たち  作者: Naoko
10/41

10. セルク・ヨナ

 ヨルクが「行かない」と言うと、皆は、

「そうか」

「分かった」

 と答えただけだった。


 それを聞いたヨルクは、なぜかガッカリしてしまった。

行かないと言ったのは自分なのに「簡単に諦めるなんて」と思ってしまう。


 皆が心配していたのはヌンの方だった。

「ヌンはどうする?」と聞かれたヌンは、

「えーと、うーん」

 と困ったように頭の花粉袋を左右に揺らす。漏れた金色の粉がフワッと舞った。


「ヌンは私たちと行った方ががいいんだけど」と言うティアに、

「賛成。ここにいてもヌンの雌しべはないんだから」とアニタ。

「そうだよ。私たちはヌンのお嫁さんを探すんでしょう?」

「ヌンは俺たちと一緒に行けば?」とダンも賛同する。


 それでもヌンは俯いてしまった。

「でも、ご主人様が…」


「うん、そうだね。ヌンはご主人様と離れたくないよね」

「そうだ、俺たちで花粉の袋を持って行ったら?」

「えー⁉︎それって大丈夫?」


「さあ…ご主人様、私は袋が無くなっても大丈夫なのでしょうか?」

「え?」

 ヨルクは狼狽える。


 ヌンはもう宇宙飛行艇ではない。雄しべになってしまった。

そもそもヌンが花を咲かせたのは、ヨルクがさっさとこの惑星に降りなかったからだ。


「だ、大丈夫かどうかは分からない」

 と答えたヨルクに、皆は「そうか」と肩を落とす。

 ヨルクが「ここにいる」と言った時より落ち込んでいる。


 それでヨルクは、

「い、いいよ。僕もエルナトへ行くから」と言った。


 すると皆の表情はパアッと明るくなる。

「ご主人様!ご主人様が私の為に!」とヌンも感激する。


「良かったね」

「ようし、これから準備だ」

「明日の朝、早くここを出るぞ」

「早いに越したことはない」

「私もお手伝いするわ」

「ありがとう、アニタ」


 ヨルクは皆が喜ぶのを見ても、一人取り残された感じは続いていた。

学校でも、人と関わるのが苦手なヨルクは、いつも一人ぼっちだった。

 皆はヨルクよりヌンを気にする。「ヌンが珍しいんだ」とヨルクは思ったりする。こんな風になるのは、いつも、周りや他人のせいだと思っていた。


「ヨルク、昨夜も言ったけど、エルナトは良い所だよ。君へ何か残されているかもしれないし」

「え?」

 ユーリスが言ったことにヨルクは驚く。何のことか覚えてない。


「エルナトの堰き止め湖は、人工のダムで補強されてるんだ」

「そのダムに扉があるんだよね」

「ああ、誰も開けられないんだ」

「その扉には手形が付いていて『セルク・ヨナ』って書いてある」

「誰の事なのか、中に何があるのか分かってない」

「とにかくセルク・ヨナが扉を開けられるんじゃないかってね」

「過去から来るのも『少年』と言うだけで、名前は分からなかったし」

「だからセルク・ヨナかもしれないって」


 ヨルクは、それで自分が「セルク・ヨナ」と呼ばれたのだと知った。

自分もセルク・ヨナなんて聞いたことは無いから、扉を開けられるかは分からない。それでも「ヨルク」の名は知られていた。


「皆は僕のことを知ってるの?」

「名前はね」

「百五十年前に宇宙ステーションが攻撃されて行方不明になったってね」

「かなり探したそうだよ」

「ヨルクはセナ家の末裔だったからね」

「セナ家の末裔?」


 ヨルクの苗字はセナだが、「末裔」と言われるほどの家柄だとは聞かされていない。

最もヨルクのいた学校の生徒は家柄の良い子たちばかりだったので、自分が特別だとは思わなかった。

 その時ヨルクは、自分の祖母が「セナ夫人」と呼ばれていたのを思い出す。身分を示す称号ではなかったので、大した家系では無いだろうと思った。


 ところでユーリスには聞いておきたいことがあった。

「ヨルク、エルナトへ歩いて三日はかかるけど大丈夫かな」

「三日も?」


 するとダンが「え?」っという風にヨルクを見る。

「ここまで来るのに二日かかったんだぜ。帰りは登りだから三日はかかるさ」

「ダン、ユーリスはそんなことを聞いてるんじゃない」

 ワルトがダンを嗜める。


「山道を登って行くのに体調はどうかって事さ」

「今の時期は登り易いだろ?」

「そうだけど、ヨルクは山道に慣れてない」


 ヨルクは彼らの言っている事と自分が知りたい事がズレていると思った。

疑問なのは「三日」ではなく、なぜ「三日も歩く」のかということだ。


「あの、エルナトへ行く乗り物は?ここは空港だよね?」


「はぁ?」

 今度は皆が驚く。

「乗り物って、ヌン?」

「ヌンには乗れないよ」

「崩れちゃったからね」

「ご主人様、申し訳ございません」

「ヌンのせいじゃないよ」


「えーと、他の乗り物は?」


「え?」

「乗り物は無いよ。歩くんだ」

「待って、ほら、乗り物って、ウィルディスの奴らが乗ってるヤツじゃない?」

「ああ、あれか〜」

「今は来てからね」

「うーん、でも、あっという間にエルナトに着いちゃうだろ」

「つまんないよね」


 ヨルクは「ウィルディス?」と思ったものの、とにかくその「あっという間に」エルナトへ行きたいのだ。

 ところが彼らには不満らしい。


「雌しべを探しながらでしょう」

「そうだよ。ヌンの嫁さん探しだ」

 と話は、またヌンに戻った。


「ヨルク」とユーリスが言った。

「乗り物は無いから歩いてくれ。だから具合が悪ければ教えて欲しいんだ」

「熱中症になりかけたしね」

「うんうん」


 ヨルクはどう答えて良いのか分からない。

「自分の方が変?」と思ってしまう。

 ここには電気はない。道路も無ければ水道もない。そんな所に乗り物があると期待する方が可笑しいのかもしれない。


「具合は…大丈夫だけど…」


「よし!問題ないな」とダン。

「荷物をまとめろ」

「今日は早く寝なくっちゃ」

「ヌン、ヨルクのお世話をお願いね」

「もちろんでございます。ティア様」

「ヨルクは、朝ごはんもまだだったんじゃないかな」

「あ、果物は一つ食べたけど。ヌン、泉の方にあるからそれをヨルクにあげてね」

「かしこまりました」


 と皆は大騒ぎしながら散らばっていった。

ヨルクとヌンを残して。


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