前編
4月。
親の都合で引っ越して、私立青陵高校に転校した。
本当は転校なんてしたくなかったけど、親に養ってもらっている身でそんなワガママ言えなかった。
家に居たくないから、早い時間だけど家を出た。
私の鬱な気分とは裏腹に空は晴れてて、私の気分はまた下がる。
早い時間だから、誰にも会わないと思っていたけど、もう来ている人もいた。
校門近くの大きな桜の木の下。
ピンク色の花が満開で綺麗だった。
「ほら、美樹! やるって言ったの美樹でしょ!」
「で、でもやっぱり恥ずかしいよ!」
「美樹が誰も来ないうちにやりたいって言ったから、こんなに早く学校に来たんでしょ! やるよ!」
「みんな集まれてないし違う日にすれば」
「遥とゆうちゃん来れなかったもんね。衣装づくり頑張ってもらったのにね……。だから、2人の分まで頑張ろ」
「……うん」
2人組だ。
1人だけ別の制服を着ていた。
初めて見る制服だ。
こんなに朝早くから集まってワイワイ騒ぐ。
こういう人たちは悩みとは無縁の生活を送っているんだろうな。
絡まれないように、出来るだけ早足でその集団の横を通る。
校舎に入る前に振り返って、もう一度あの集団を見る。
声はもう聞こえなくなったけど、楽しそうだった。
朝のHR。
自己紹介をすることになった。
「内藤花凛です。別に覚えなくてもいいです」
私は頭を下げて自己紹介は終わりだという合図をする。
クラス全体がポカンとしている。
先生も。
「私の席は、空いてる一番後ろの席でいいですか?」
「ええ。そうよ」
私は席に着くと、机に突っ伏す。
誰とも仲良くする気はないから、これくらいで丁度いい。
放課後。
休憩時間は机に突っ伏すか、教室から出て校内を見て回っていたから、誰とも話さないで1日を終えることが出来たことに満足した。
私の態度を見て、もう話しかけてこようとするクラスメイトは居ないだろうから、ゆっくりと帰り支度をする。
「花凛ちゃん!」
しまった。
まさか、まだ話しかけてこようとする人が居たなんて……。
「コスプレ写真撮らせてください! お願いします!」
そう言って、土下座した。
知名度は高いけど、フィクションぐらいでしか見たことがない土下座。
私も無かった。……今日までは。
実際に土下座を見て思うことは、ドン引きだった。
放課後になったばかりで、まだそれなりに人が居る中での土下座なのに、誰も気にしてなかった。
横を通るクラスメイトも「茜、じゃあね」と何事もなかったように別れの挨拶をする。
土下座している張本人も、頭を上げて「じゃあね」と返している。
もしかして私がおかしいのか。
なかったことにして帰ろうとしたけど、足を掴まれて無理だった。
「私、東条茜。写真部の部長をやってるの」
東条さんは首から提げているデジカメを私に見せるように持つ。
「主に撮ってるのは女の子なんだ。まさかリンリンに似てる女の子に出会えるとは……お願いします! リンリンコスで写真をどうか!」
東条さんは手を合わせる。
「嫌よ」
「そのツンツンしてるところもリンリンそっくりだよ……」
東条さんはうっとりしてる。
どうやって振り切ろうか悩んでいたら、救世主が現れる。
東条さんの頭を叩いた人が居た。
パシンといい音がなる。
「この馬鹿が迷惑かけたようでごめんね」
見覚えある子だなって思ったら、朝に桜の木の下に居た違う制服を着ていた女の子だった。今は青陵高校の制服をきちんと着ていた。
よくよく思い出せば、そう言えばあの時、東条さんも桜の木の下に居た。
今朝の集まりはコスプレ撮影会だったらしい。
「美樹からもお願いしてよ」
「私は上原美樹。この馬鹿に何かされたら私に言ってよ。クラスは違うけどさ」
「東条さん。何度来られても私の返事は同じだから、もう来ないでね」
私は帰る。今度は邪魔されなかった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
次回で完結です。