仮面の旅人:眠り姫と騎士
長い眠りについていた王女様は、仮面をつけた旅人に助けられて、ついに目を覚ましました。
王女様は言います。
「あなたが私を助けてくれたのね! ありがとう!」
王女様はその身を起こし、仮面をつけた旅人を抱き締めました。
王女様は喜びで胸が一杯です。しかし、旅人は、違うようでした。
抱き締めてくる王女様を、少しずつ、自分から離していきます。
「どうして拒むの? 私が嫌いなの?」
王女様は不安げに問いかけます。
すると、仮面の旅人は首を横に振りました。
「あなたのことを一番に想い、あなたを助けたのは、私ではありません」
旅人は、そのまま視線を部屋の入り口へと移します。
王女様も、導かれるように部屋の入り口に視線を向けます。そこには。
「あなた……」
「目が覚めるのを、心より、お待ちしておりました」
いついかなるときも、トイレとお風呂と着替えを除けば、いつでも一緒にいた、騎士の姿がありました。
「あぁ、あなただったのね」
王女様は、細い足で地に立ち、おぼつかない足取りで騎士の方へと歩いていきます。
騎士も王女様のもとへと歩いていきます。
王女様が転びそうになったとき、暖かな手が王女様の体を支えました。
顔を上げれば、彼はすぐ目の前にいます。
「あぁ、ありがとう。ありがとう。それ以外に言葉が見つからない。あぁ、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。しかしアイリッシュ様、涙は流されませんように」
「いいじゃない。久しぶりの涙なのだから」
二人の姿を目に納めると、仮面の旅人は、窓から外へと出ていきました。
魔法を唱え、ふわりと城の庭園に下り立つと、門に向かって歩き始めました。
「抱き締めなくてよかったの? 王女様とのハグなんて、今後一生ないかもしれないのに」
仮面が旅人に問いかけます。
「俺じゃない」
「俺じゃない?」
あまりにもそっけなく返された返事に、仮面は言葉を聞き返します。
「あの子を抱き締めるのは、俺じゃない」
旅人の言葉に、仮面は黙ってしまいました。
「抱き締めたいと思う人がいる。なら、その人が抱き締めてあげるべきだ。本当にその人のことを考え、誰よりも行動した人が」
旅人の言葉から少し置いて、仮面が口を開きます。
「それは、私たちにも当てはまる?」
再度、仮面から投げ掛けられた問いに、旅人は鼻をふふんと鳴らして、口角をあげて言いました。
「言うまでもない」